第十一話 鉄砲担いで、こっそりと
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なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
弘治元年頃の三好は、全盛期手前で脂の乗り切っている状態と言える。当主筑後守長慶は三十三歳、次弟豊前守之虎は二十九歳、三弟安宅摂津守は二十八歳、四弟十河孫六郎は二十一歳。なお、五弟野口孫五郎は天文二十二年に死んでいる。
ちなみに、三好筑前守の後継が義興死後、十河重存(孫六郎の嫡男)になったのは、孫六郎一存が筑後守の庶長子だからという説がある。義興の嫡男はまだ赤子だったので、庶長子の嫡男を後継に据えたというもので、筑前守のすぐ下の次弟実休の嫡男を差し置いて三弟の嫡男が後継になるのはおかしいと言われて唱えられ始めた説だ。これは、筑前守と孫六郎との年齢差が十歳ほどあったから生まれた説で、武家の嫡男の筆おろしは女中の役割だったため、精通の年齢を考えれば、一応は辻褄が合うが、三好軍の副将にあたる、豊前守や日向守が知らなかったとは考えにくい。もしかしたら豊前守らは知っていたが、記録に残っていないだけという可能性もある。
もし孫六郎一存が庶長子なら、長勝における、小笠原美作守彦八郎勝春や鵜殿長門守藤三郎勝持との関係にあたる。が、彼らは後継にはなり得ない。しかし、今川治部の姉妹が母親のせいか、治部(治部大輔は返上し、自称として治部と名乗っている)優遇説が浮上している。まぁ、ガセなんだが。そもそも、今川・武田との合戦のおり、誰よりも先んじて人質となりに安祥に来ていた先見のある二人(享楽主義で、先見ではないという話も聞く)は、主家で血縁者である治部が死んでも構わないように見えた。正確には母が連れた龍王丸を見て、今川が残ることを確認して、兄弟を諦めた感じだったのかもしれない。だからと言って治部と姉妹に確執が残ったわけではないが、治部と二家にはきちんと線引きがされている。
線引きがどの辺かと言えば、治部は今後、目代とは言え、国守になることはない。しかし、二家は二人の庶長子(同い年のため、序列は同等扱い)が元服したあと数年は目代として国守をする。庶長子が目代としての国守になったのちは、家老として重鎮になる。しかして、治部は、嶺の子が生まれて元服しても、目代として国守にはしない。目代になるとしたら、息子の彦五郎勝範で治部は最初から家老である。
治部を国守にしないのは、謀反を疑っているとか、そういう話ではない、現在、今川治部と北条相模守が二人並んで軍略方の二大棟梁なのだが、それを手放すのが惜しい。二人は性格上、外交・謀略派と内政・調略派に分かれるが、この二人を軍略方から外すと引退した勘助・宇駿か、めっちゃ年若い世代に交代するしか突出した者たちはいない。口にすると木下藤吉郎が武士にならなかったことを後悔しているように聞こえるので言わないが、彼なら治部と相模二人分の才能はありそうだ。さりとて、あれを武士にするとあの宗教を公認したことになりそうで、スルーするしかない。
閑話休題
ほぼ全盛期の三好軍、寿命的に十年近く待つのはちときついが、今後、織田以外との戦さで、四兄弟全員集合は、ほぼないだろうし、豊前守が死んだ白北川の戦いは起こるか不明だし、摂津守宗繁(安宅冬康のこと)の死因が筑後守の「鬱病の末期症状による被害妄想を原因とした殺害」であるならば、先に豊前守・孫六郎は死んでないと、筑前守が鬱病を発症しないかもしれない。まぁ、出陣中の孫次郎慶興も死なないとダメだが。
そう、筑前守長慶と一緒に嫡男の孫次郎慶興が同陣にいる。まだ、十三歳の若武者だ。彼の名前は、慶興→義長→義興と変遷するので、これで間違いはない。なお、慶興の嫡男は筑前守の死後赤子だったという説が正しいなら、生まれるのは永禄六年か七年だろう(孫次郎は永禄六年八月末に亡くなるため)。まだ、影も形もない。
ここで長勝は、嫡男と弟全員を失ったら、筑前守は発狂するだろうか?という悪魔的な思考が生まれていた。
前世のことではあるが、長勝は、時勢や流行さえうまくマッチすれば、三好長慶が大河ドラマの主人公になってもおかしくないと思う程度には、長慶が好きだった。また、高校時代の悪友たちとは、当時日本中を席巻していた某オカルト宗教の教主が選挙戦で歌わせていたアレを捩って「ちょーけー、ちょーけー、ちょけ、ちょけ、ちょーけー」と歌う程度には長慶を悪友たちといじっていた。
変な弄り方はしているものの、優れた武将だとは思っていた三好筑前守は、毛利陸奥守を閉塞させ、陶・宗麟を滅ぼしたら、天下統一の最大の障害の二大巨頭だろう。もう一人は尼子出雲守。まぁ、尼子は新宮党のいない今、挟撃できればなんとかなりそうだが、三好四兄弟の揃った三好軍はかなり手強い。弱体化しすぎて、足利軍に負けるのも困るが、少なくとも、豊前守と孫六郎は消しておいても良いだろう。
長勝は鉄砲を担いで、小角衆・大峰衆らと、隠密行動に出た。