第二話 吉法師との対面式
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なお、送り仮名は、どちらでも良い場合は、分かりやすくする為、多めになっている事がありますが、誤字では無い事もあります。誤字の場合は修正し、誤字じゃない場合は、ルビで対応しようと思います。
勝幡城の大広間には上座に父信秀とその横に吉法師、左側には木ノ下城代織田信康をはじめとした一門衆が並び、右側には筆頭家老林 佐渡守をはじめとした譜代衆が並んでいる。母も本来なら、父信秀の横にいるのが当たり前なのだろうが、先述の通り坊丸を守るつもりで、私の横にいた。
まだ織田弾正忠家の領有圏が少ない時期なのも手伝って、信秀六兄弟揃いぶみだ。それにしてもだ。たかだか、兄弟の対面にここまでの人材が揃わなきゃならんのかと言いたい。領地はどうした!一門衆にしても譜代衆にしても、暇か?暇なのか?!信康叔父さんはじーさん(信定はそろそろ)の介護はどうしたよ!大丈夫なのか?それとも疲れたのか?
---餅つけ
---あ、いや、落ち着け私
父信秀が顔を動かし、吉法師を促すと、吉法師はすっと立ち上がり、右手を胸の高さまで上げた。
「たいぎである」
「ははっ」
母花が吉法師をキッと睨む。吉法師は困った顔をして怯むが、私は吉法師を下座から上目遣いで続きを促した。吉法師はさらに困った顔をしたものの、約束通り続ける。
「なをもうせ」
「はっ、ほうまるにございます」
「ほうまるは、なにものじゃ?」
「はっ、あにきっほうしさまのいちばんのけらい。おうさになるものにございます」
「ほう、わしはおうになれるか?」
「はっ、わたくしめがかならずやおしあげてみせまする」
「うむ、たいぎ。はげめよ」
「はっ、ありがたきしあわせ」
場が静まり返っている。横にいた母はもちろんのこと、上座の信秀も左右の一門衆・譜代衆も目を見開きこちらを見ている。しかし、これは打ち合わせのあった茶番である。
母花がいないところで、吉法師とは話した事があると先に述べた。その時、吉法師から対面式が予定されていることを聞いており、対面式でこういう芝居じみた事をしようと打ち合わせたのだ。最初、吉法師は対面式を嫌がっていた。わざわざ式の形にしなくても、ここであって話したから良いではないかと言って。そこで私はこういう形式にするようにもっていった。興味を引く確信はあった。史実の信長は、どちらかと言えば、芝居じみた行動を良くとっている。桶狭間や本能寺の時の敦盛しかり、浅井・朝倉を滅ぼしたあとの黄金髑髏しかり。敢えてこう見せていると取れる。身内近親の日記などを読めば家族愛に溢れ、感情が高ぶれば泣く事もあったようだ。それは、死者を弄ぶような性格ではない。後世の脚色にしても行き過ぎている。それに類する事があったか、もしくは宗教的な行動を理解してもらえなかったかだろう。信秀の葬儀の抹香投げつけも禅宗としては尊敬する父に行う素晴らしい行動らしいし。
それはさておき、吉法師はやはり食いついてきた。そこからは、仕草から台詞まで、二人で考え、今ここに実行したというわけだ。しかし、吉法師が紛れもない天才だという事は目の当たりにできた。前世で、四流とは言え留年もせず、卒論必須ではなかった時代に卒論まで書いて卒業した中身おっさんな私が台詞や仕草を丸暗記出来るのは、簡単な事だ。対して、吉法師は転生者ではなく、まだ数え年五歳、実年齢四歳のお子ちゃまなのだ。暗記も芝居も完璧だと、末恐ろしいものを感じてしまう。
現にこの茶番を苦々しく思っている譜代衆も見受けられた。斉藤か今川かはたまたそれ以外と繋がりがあるのだろう。忠誠もあまり高くないしな。やはり、吉法師にはこのままうつけを演じて貰い、家督相続の頃に、反乱分子を潰すしかあるまい。そうなると受け皿は私がうってつけか。
一門衆が大喜びし、一部譜代衆が苦虫を噛み潰した対面式が終わり、信秀・花・吉法師・坊丸の四人と権六・大学の側近、平手・林・青山・内藤のいわゆる信長四家老が残った。ちなみに、母は父の横に移動し、吉法師は私の横にいる。吉法師がニコニコと笑っており、それはそれは可愛らしい。
---こう見れば確かにな
---四家老は知っているのか?
---平手・林は知っているだろうが
---さて
おもむろに、父信秀が話し出す。先程の茶番には気づいていたようだ。
「先程の事、打ち合わせたか?」
「はっ、皆を謀りたる事、申し訳なくぞ・・・」
「よい。何か存念あってのことか?」
父信秀は食い気味に肯定し、更に質問してくる。吉法師は「坊丸に全て任せた」という風にこちらを見て頷く。言葉少なく、説明が足りない。まぁ、これからどうにかすれば良いか。
「存念を話す前に、お聞きしたい事がございますが、よろしいですか?」
「構わぬ。」
「吉法師様のこと、ここの者全てが知っておりまするか?」
父信秀は眉を顰めて、重ねて問う。
「吉法師の事とは?」
「全ての者ではないと察しました。人払いを」
「人払いは構わぬが、遠くにはやれぬぞ。護衛の事がある。」
「某には、生まれもって全てを見通す目を授かりました。この部屋には数名の護衛がおりますでしょう?柴田殿、佐久間殿を除いて。」
「むむ、あい分かった。大学・権六、それと与左衛門・勝介は下がれ」
---やはり、平手・林は知っていたか
四人は少々不満を漏らしたが、信秀が言葉を重ねて、退席させた。信秀はギロりとこちらを睨めつけてくる。咄嗟に、吉法師が庇うように膝をずらし、信秀を睨み返す。信秀は困ったような、嬉しいような複雑な表情を見せながら、坊丸に問いかけた。
「まず、坊丸に問おう、全てが見えるとは、どこまでか?」
「どこまでとは、範囲ですか?それとも個人の資質についてですか?」
「両方聞こうか。」
「範囲はこの部屋と両隣と天井裏・床下ですね。個人の資質は特性・技能も含めた全てですね。」
以前に新技能が幾つか生えたと言った。隠れんぼ限定の隠密や小走り限定の神速以外にも技能は生えている。隠れんぼ限定ではないが、隠れんぼ中に「気配察知」が生えている。女中連中から逃れる際には大いに役立った。また、隣の部屋や天井裏・床下などを鑑定して行った結果、城内全てを把握できるようになった。その時生えたのが「縄張把握」だ。RPGによくある城内限定のミニマップみたいなものだな。日本地図とか世界地図とか思い出したら、固有スキルに進化しそうだからしていない。
---おっと、正解だったようだ
---また、新技能が生えてきた
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