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幸せになりたかった僕らは  作者: あさぎ
3.オレの追憶
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沙夜との遭遇

 


「オレは久渡(くどう) (いつき)。亜夜の……ああいや、君の姉の彼氏だ。自分で言うのもなんだが」


 自分で言うとこれほど照れ臭いとは。


「ああ、姉の……」

「突然ごめんな。すぐ帰るから……」

「アンタ、何しに来たの?」

「え?いや、近くに用があって。ついでにふらっと立ち寄ったんだよ」


 彼女のつり気味の目がキッと細まり、「なにそれ」と一言。

 そのトーンにはあからさまな敵意が含まれていた。


 そしてギロリとこちらを睨みつけて、また一言。


「……亜夜の差し金ね」




「ち、違う!勘違いだ!そんな事じゃ……」


 狼狽えている間にも沙夜はスタスタと近づいてきて。

 驚き戸惑うオレの横を素早く通り過ぎると、後ろにさっと回り込む。


 そして、

「彼には手出しさせないわ。アタシがいる限り」

 と冷めた調子で言い放つと……落ち着いていた態度が一変、急に勢いよく掴み掛かってきた。




 オレの運動神経は悪い方ではなかった。

 しかし、彼女もそこは同じだった。


 狂ったように掴もうとしてくる沙夜とそれを必死で払い除け避けるオレ。




 お互い拮抗し、永遠に平行線のままかと思われたが……


 疲れから足元の小石に躓き、ぐらっと体勢を崩したオレを彼女は見逃さなかった。


 細い両腕はすかさずオレの首を捕らえた。




 荒くなっていく呼吸。込み上げてくる吐き気。

 抑えている首の血管が大きく脈打っている。


 あの華奢な体の一体どこにこんな力があるのか。




「やめろ!」


 反射的にその体を強く突き飛ばす。

 力一杯、地面に叩きつけるように。


 相手が女だから、恋人の妹だから、という意識が邪魔してなかなか身動きが取れなかったが……だが、もうこの際加減などしている場合ではない。


 こんなところで死にたくはない。




 しかし、それでも彼女はまた掴みかかろうとしていた。

 両手はオレの方へ向いていた。


「や、やめろ!その手を止めるんだ沙夜!」


 やめろと言っても全く怯まない。

 かといって、話し合おうにも応じてくれそうもなく。




 まずい。これでは埒が開かない。

 このままでは、下手すれば沙夜が死んでしまう。


 いくら運動神経は良いとはいえ、力は圧倒的に男のオレの方が強いのだから。




 何度も伸ばしてくる手を払い除けながら、片手で鞄を漁る。


 焦る気持ちに手が震え、目当ての物にたどり着くまでだいぶ時間がかかってしまった。


 乱暴に掴み引っ張り出すと、わざと彼女の前に突き出してみせた。


 新品のバール。




「……!」


 咄嗟にばっと後ずさる沙夜。


「痛いのは嫌だろう?さぁ、やめるんだ」


 怯んだのか、腕を引っ込め大人しくなった。



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