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幸せになりたかった僕らは  作者: あさぎ
3.オレの追憶
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支度は念入りに

 


 ここが、アイツの家か。


 スマホに地図を表示させて、歩く事数分。

 意外と駅に近いところにそれはあった。


 生やしっぱなしでボサボサの植栽に隠れるようにして佇む、古臭いアパート。


 申し訳程度の小さな駐輪場にはママチャリと子供用自転車がいくつか止まっていた。


 どこかから子供の声が時々漏れて聞こえてくる。

 こんなボロボロでも結構住人はいそうだ。







 オレには彼女がいる。

 名前は亜夜。同い年だ。


 お互い気が合うし、趣味だって一緒。


 今年の亜夜の誕生日には、どこかのレストランでプロポーズするつもりだ。


 そこまでトントン拍子で、結婚まであともうすぐといった感じなのだが……しかしそれまでにどうにかしないといけない事があった。




 彼女の前の恋人の事だ。


 彼は未だに別れを認めていない。

 もうここまで話は進んでしまっているというのに、だ。


 オレからその男を説得したいと何度も亜夜に言ったが、駄目だった。

 あなたまで巻き込みたくない、事を大きくしたくない、と言って聞かなかった。




 だから仕方なく、今こうして亜夜に秘密で彼に会おうと綿密に計画を練っているところだ。


 とりあえず家の場所は分かった。


 後は日を決めて、実行するだけ……




 しかし、随分遅くなってしまったようだ。

 この辺りは街灯が少ないようであっという間に真っ暗になってしまった。


 その場でくるりと踵を返すと、肩から下げた重いビジネスバッグに体が引かれる。


 黒くて四角い、ノートパソコンがギリギリ入るサイズのよくあるバッグだ。

 中には財布などの他に、来る途中で買ったバールが入っている。

 もし彼とばったり遭遇してしまった時の護身用にと持ってきていたのだ。


 亜夜もいつも携帯用ナイフを持ち歩いていたくらいだ。

 聞いた話だとその男は気性が荒く、激昂すると暴力を振るうような奴らしい。


 亜夜には常々隙を見て逃げろと強く言っていたが、やはり聞く耳持たず。

 むしろオレが警察を呼ぼうとしたのを止められた事もあった。


 洗脳されているのか、あるいは情があって見捨てられないのか。

 よほど魅力的な人間なのか。


 そんなとんでもない男……いったいどこのゴロツキかと思ったが、どうやらお堅い職業らしかった。

 なんとも世も末だ。




 とはいえ、放っておく訳にはいかない。


 亜夜に止められていた事もあり、今まで散々目をつぶってきたが……もう流石に終わりにしたいところ。







 ふと、どこかから視線を感じた。


「……っ!誰だ?」

「アンタこそ、誰よ!」


 男の家から女が出てきた。

 亜夜とそっくりな声。


「ん?君は……もしかして、『沙夜』か……?」

「えっ?!そ、そんなの、なんでアンタが知ってんのよ!」


 狼狽えるのも当たり前だ。お互い初対面だから。


 オレだって沙夜本人を今初めて見た。

 しかし、亜夜から色々話を聞いていたおかげでそこまで驚かずに済んだ。




 沙夜。亜夜の妹で、あの男の今の恋人。


 確かに言っていた通りよく似た顔をしていた。

 メイクや髪型を同じにしてしまえば、きっと誰も見分けがつかないだろう。




 だが、彼女の纏う湿った重苦しいオーラは亜夜との違いを明確に示していた。



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