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幸せになりたかった僕らは  作者: あさぎ
1.俺の記憶
2/16

亜夜と沙夜

 


 そして、ついさっきまで目の前にいたアレ。

 亜夜の妹の沙夜だ。


 沙夜とは元々前から面識があった。顔見知り程度には。

 お互い世間話はあまり得意ではなく、喋った事はほとんど無かったが。


 そんな彼女が俺に向ける想いにも薄々気づいてはいた。




 亜夜を殺してしまったあの日。


 まるで沙夜はその事が起こるのを知っていたかのように現れて、ある取引を持ち掛けてきた。


 この事故を黙っている代わりに彼女にして欲しい、と。


 姉の死に驚かず、悲しみもせず。

 ただ感情のない声でそう言った。




 どんな神経をしているのか、と普通は驚き激昂するであろう場面だが。

 しかし、俺はたいして何とも思わなかった。


 元々沙夜は無口で感情をあまり出さなかったから、言葉の意図が読めないなんてよくある事だった。


 それに、そもそも彼女に興味が無かったから……正直言ってどうでもよかったのだ。




 その後、車を飛ばして二人で山奥へ。

 起こってしまった事故を隠すために。


 この時ほど真夜中の暗闇がありがたく思えた事はない。

 誰にも気づかれぬまま、静かにサクサクと手際よく進み……そして終わった。




 沙夜はというと、終始ずっと無言だった。

 言いたい事だけ言って、あとはいつも通り静かで。


 俺も何も話す気になれなかったから、結局その日はお互いに一言も喋らず。







 そして、そこから始まった。

 彼氏と彼女『もどき』の関係……要は体を重ねるだけの関係。


 最愛の人を失い、心ここにあらずの俺。

 そこには気持ちなんてない。ただの体の関係。


 しかし、彼女はあの時それでもいいと言ったから。

 体だけでもいいと言ったから。


 だから、俺はスマホで適当な動画を流しながら毎度の『作業』をこなしていた。







 ところが。


 最近なんだか沙夜は亜夜に似てきたのだ。

 ふと見たときに心臓に悪い。


 どうやら自分で意識してわざと真似をしているようで。


 そこまでして気を引きたいのか。

 そんな事されたって、却って俺には嫌がらせにしか思えないが。




 男のように短かった髪を長く伸ばし、茶色に染めてゆるくウェーブをかけて。

 いつもの無愛想で冷たい声ではなく、鼻にかかった甘い声で。


 普段もそうだし、『その』時にも。


 俺に対する当てつけか、それとも……




 元々姉妹は体格や顔つきからその声までよく似ていた。


 胸の大きさの差は除いて、だが。姉の発育が良すぎたのだ。




 話を戻すと。


 二人の大きな違いはその真逆の性格だった。


 保育士の姉(亜夜)、営業マンの妹(沙夜)。


 おっとりしていて柔らかい雰囲気の姉。

 おしゃべりでよく笑い、人懐っこくて犬みたいだとよく言われていた。


 対して、男勝りでさっぱりした性格の妹。

 周囲を威嚇するような鋭い目つきで、常に人を近寄らせないような強烈なオーラを放っていた。


 姉が犬なら、妹は蛇だ。




 そんな、同じ親から産まれたとは思えないほどかけ離れた性格の二人。


 しかし中身こそ違えど、その(いれもの)はまるで瓜二つだった。


 一重ですっきりした目元も。

 程よい高さで形の良い鼻も。

 少し分厚めでふっくら柔らかい唇も。

 緩やかに綺麗なカーブを描くなで肩も。


 髪型や化粧、服装でそれぞれ個性を出しているが、コピーしたかのようによく似た姉妹だった。




 それだから、真似なんてされたら堪らない。

 本当にそっくりなのだ。怖いくらいに。


 目の前のソレが亜夜ではないと頭では分かっているが、どうにも混乱してしまう。




 毎回自分の中の情報の矛盾に心を引っ掻き回されて。

 仕舞い込んでいた亜夜の記憶を引き出されて。

 彼女を失ったあの日の映像を脳内再生させられて。




 これを騒ぐな、怒るな、という方が無理なのだ。



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