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幸せになりたかった僕らは  作者: あさぎ
5.僕らの終わり
13/16

幸せのための『計画』

 


 虚ろな目がギョロリと動き、しっかりと僕を捕らえた。


 しまった。見られた。




「さ、沙夜?!そんな……!家にいたんじゃなかったのか?!」

「どうして……」

「違うんだ!これは、これは……」

「殺したの?あの人を」

「いや、その……」




 そう。僕が殺したんだ。


 ……なんて言える訳もなく。




「殺したの?アンタが?」

「……」

「どうして?」

「……」

「ねぇ。ねぇ、どうして?」


 僕はただ沙夜の足元を見つめる。

 色褪せて所々砂の付いた靴は、まるで持ち主を表すかのように今にも破れて壊れてしまいそうで。


 沙夜はさっきから変わらず生気がなくぼんやりとしていたが、足だけは忙しなく貧乏ゆすりをしていた。


「ねぇ、京介」

「……」

「ねぇ、」

「……」

「ねぇ……ねぇ!」


 急な大声に思わず僕の体が跳ねる。


「ねぇ!どうして……!どうして彼を殺したの!」

「……」

「どうして!どうして私から奪ったの……!なんで!どうして!ねぇ!」

「沙夜……」

「どうして!ようやく、やっと……アタシは幸せになれるはずだったのに!」

「……」

「アンタは知ってるでしょう、アタシの事!散々説明したもんね、あの『計画』の最初に!」




 『計画』。

 それは姉の殺害計画、ただそれだけのつもりだった。

 それで終わるつもりだった。


「ああ。沙夜の気持ちは知ってたよ、知ってた。だからあの日、睡眠薬を沙夜に渡して……」




 僕は、とある製薬会社の工場で働いている。

 実はそれがこの『計画』の発端だった。


 全ての大元のきっかけは、休日のランチ。

 ある日突然久々に会おうと沙夜から誘われて行った、それ。


 関係が進展するかもしれない、とわずかな希望に胸を膨らませていた僕は精一杯のおしゃれ(といっても沙夜からは『なんか、京介らしいね』と微妙な評価だったが)をしてその場に挑んだのだが。

 美味しい料理に舌鼓を打ち、懐かしい話に花を咲かせていたら、ふいに彼女の表情は暗くなり。


 そこで彼女の抱える苦しみを打ち明けてくれた。

 



 想い人は姉の恋人。

 だが、姉の心はすでに離れていて。


 それならさっさと別れてほしいのに、姉はぐずぐずと曖昧なまま続けていて。


 ならば仕方ない、諦めようかと思えば……愚痴と称して想い人の話をしてきて。

 どうにか忘れようとしているのに、阻むのだ。


 無慈悲にも忘れることすら許されず。

 諦めようにも、中途半端に残されている希望。


 それを生み出してしまったのは、姉。

 ただでさえ元々憎んでいた相手だ。


 心はみるみる真っ黒に染まっていった。


 とはいえ自分にも良心はあるし、そしてなにより毎日の生活がある。

 ここで罪を犯す訳にはいかない。


 でも……




 そんな自分の中で渦巻く闇に苦しみ続ける沙夜に、これなら『簡単』だと……その日僕から提案した。


 彼女のつらそうな顔をそれ以上見ていられなかったから。


 その話をした時、沙夜は信じられないという顔をしていたが……今思えばそれがある意味最後の、壊れる前の彼女の本当の心だったのかもしれない。




 そして僕は『計画』のため、夜中に倉庫にこっそり忍び込み睡眠薬を盗み出した。


 それを粉々に砕いて袋に入れたものを沙夜に渡し、コーヒーに混ぜて亜夜に飲ませて……




 その後想定外の事態が起きて、結局予定と違う終わりを迎えたのだが。


 どのみち終わりは終わりだ。結果オーライだった。







「……なら!どうして奪うの!アタシの幸せを!アタシ達のこれからを!」


 アタシ、幸せになりたいの。

 僕と『計画』を練ったあの日、最後にポツリとそう漏らしていた。


 姉さえいなければ、あの男と付き合えるかもしれない。

 それにもし駄目だったとしても、まだ諦めがつく。

 そう彼女は言っていた。


 だから、ここで姉を始末してしまえばあとはうまく行く……と。




 珍しいな、と僕はその時思った。

 計算高く賢いあの沙夜がここで見込みを外すなんて、と。



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