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幸せになりたかった僕らは  作者: あさぎ
5.僕らの終わり
12/16

後始末は僕が

 


 あの男の遺体を側に止めておいた自分の車に運び込む。

 誰にも見つからないように静かに、素早く。




 冷えて固くなり始めたあの男の体。


 中途半端に伸びたままの腕や足は、やたら色々引っかかり作業の邪魔で邪魔で仕方ない。


 死んでからなおも抵抗を続けているかのようだった。







 そういえば。

 ふと、彼とは前に一度だけ会った事があったのを思い出した。


 あれは確か……亜夜と二人でいるところをたまたま僕が通りかかり、彼女から『久しぶり〜!』と声をかけられたのだった。




 亜夜沙夜姉妹と僕は幼馴染だ。

 小さい頃はほぼ毎日のように一緒に遊んでいた。

 高校からは三人ともそれぞれ進路が別々で、直接会う事はほとんどなくなってしまったが、たまに電話やLINEで連絡は取り合っている。


 彼の性質も姉妹から少しだけ聞いていた。

 キレやすく暴力的で、想いの重い男だと。


 亜夜と話している間中ずっと、あの男は無言で僕を睨み続けていて。


 手足は忙しなく動き回り、組んだり解けたり。

 体の前へ行ったり後ろへ行ったり。

 時々止まっては小刻みにリズムを取って。


 苛立ちがまるで全く隠せていなかった。

 彼女を取られまいとしているようでもあり、そんな自分にイラついているようでもあり、なんだか癇癪を起こした子供のようだった。




 本当に聞いていた通りだった。

 なんと言うか変な人というか……言い方は悪いけど、ただのやばい奴だった。

 今にもキレて暴れ出しそうな奴。危険人物。


 とりあえずそれを起爆させないようにと、僕は愛想笑いでニコニコしながらなんとか誤魔化していたが……それはそれで癪に触るようだった。


 結局その日は、居心地が悪くてさっさと僕からサヨナラしてしまったが。

 本当はもっと喋っていたかった。







 四肢を無理矢理折りたたんで。

 最後にグイグイと押して。詰め込んで。


 よし、なんとか入った。

 あとはこれで……




「……ょう……介?」


 背中の向こうから細い音が聞こえた。

 今にも泣き出しそうな震え声。


「沙夜……?」


 振り向くと、離れたところに人が立っていた。




 ガリガリで骨の浮き出た体は艶がなくカサカサに乾燥していた。

 皮膚は引っ掻き傷まみれ、アザまみれ。出血しているところも何ヶ所か。

 痛々しくてとても見ていられるものじゃない。


 長く伸ばし綺麗に巻いていた髪は、今やひどく絡まり合いボサボサだ。

 明るい茶色に染めたはずが色は褪せてしまっていた。髪の根元から中途半端に黒が侵食してきていて余計に汚らしく見えた。




 汚いボロ雑巾のようなそれは、彼女の成れの果て。


 情緒不安定で体中掻きむしり、毎日のように殴られ蹴飛ばされて。

 食欲は無くなり、夜はまともに眠れず、彼女はどんどん痩せ細っていった。


 亜夜に似せようとあれほど念入りに整えていた身なりは、もうそこまで気力が回っていないようで。

 手の施しようがないほど荒れてしまっていた。




 仕事はもうとっくに辞めている。

 体調不良で支障が出るようになってしまったから。


 ある日突然茶髪にしてイメチェンでもしたのかと思ったら、急に段々ボロボロになっていって……そんなあまりの変貌ぶりにかなり周りから心配されたようだが、退職後一切の連絡は絶っているようだ。




 違う。


 違うんだ。

 僕はこれを望んでいた訳じゃない。


 これは間違いなのだ。




 だから、こうやって終わらせた。

 間違い(あの男)を消して、いつも通りを取り戻した。


 これで、ようやく沙夜は平穏に暮らせる……







 ……はずだった。



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