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幸せになりたかった僕らは  作者: あさぎ
4.私の懺悔
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きっと私は今日で終わる



 でも、沙夜は私を嫌っていたようだった。


 大人になった今でこそ家に遊びに行くほどの仲だが、学生の頃はずっと避けられ続けていた。


 多分、何人もの男を侍らせて遊ぶような軽い女だと思われたんだろう。

 あるいは、断ることすらまともにできない情けない女だと思ったのかもしれない。




 それに。


 中学、高校とバスケ部で日々練習に明け暮れ、大学では毎日のレポート提出に追われていた沙夜と違って。


 ずっと帰宅部で進学後も地方のゆるい文系大学。

 適当になんとなく卒業して、なんとなくでそのまま大人になってしまった。


 それが私。




 そんな人間なんて。

 沙夜じゃなくたって嫌いになるだろう。


 私だって、こんな女は嫌い。




 その場凌ぎの会話や対応ばかり得意になって。

 可愛いを作るのも上手くなった。

 変に甘い声もやがて慣れて地声となった。


 みんなから好かれ続けるために。

 みんなから嫌われないために。


 自ら人形となった。道化となった。

 みんなに構ってもらい続けるために。

 何もできない私を助けてもらい続けるために。




 そんな、どうしようもない人間……それが私。




 藁にもすがる思いで、助けを求めて沙夜に電話したあの日。


 無愛想だけど、でもしっかり私の話を聞いてくれた彼女はまるで神様のようだった。




 でも、今日私はとうとう見捨てられた。


 神に見捨てられたのだ。


 縋る私を拒否するように閉まったドア。

 私はもう、終わりなのだ。




 神様はきっと見ていたんだ。全てを。

 そして、愛想が尽きた。


 神様、ごめんなさい。

 本当にごめんなさい。今までごめんなさい。

 馬鹿な女でごめんなさい。


 こう言ったって許してはもらえない。きっと。


 おいしいとこ取り。人を散々利用して。

 気の弱い自分を隠し、毎日流されるように生きてきて。


 もう、こんなどうしようもない奴になってしまったんだから。

 この魂は腐ってしまったんだから。 


 捨てるしか、ないんだろうな。








 そうこうしているうちに家の前まで来てしまった。

 見慣れた普段の光景に足がピタッと止まる。


 なんとなく嫌な予感がしている。今朝起きた時からずっと。


 激昂した彼が、私を……




 そうなる確証がある訳ではない。

 何か予知夢を見た訳でもない。


 ないんだけど……だけど、だけど。


 私の悪い予感は大体当たる。今までそうだったから。




 部屋のドアを乱暴にバタン!と閉める音が中から聞こえてくる。

 彼はもう仕事から帰ってきたようだ。

 

 相当興奮しているらしい。

 『勝手に出かけて行った』私に怒っているのだろう。おそらく。




 後戻りはできない。逃れられない。


 頭が少し朦朧としてきた。

 脳が現実逃避したがっているのだろうか。 


 もしそうだとしたら、逆にありがたい。

 このままふわふわとした意識で逝けるのなら……それは……




 ……


 …………




 脳裏にふわふわと浮かんでは消える、今までの懐かしい記憶。


 これはきっとよく言う走馬灯というものなのだろう。

 人が最期に見るという過去の映像。


 ああ、ここで本当に終わりなのかもしれない。

 そんな気がしてきた。




 沙夜……


 沙夜は私なんかとは違うから。

 ちゃんとまともな人間のはずだから。

 この先も永く生きて、私の分まで幸せになってね。




 樹君……


 色々と心配させて、迷惑かけて、ごめんなさい。

 こうならないように必死で考えてくれていたのに。

 私もそっちに行くからね。




 あの人は……


 ……生きて。それだけよ。







 さようなら。



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