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インスタントなワールドエンド 〜異世界召喚されたので、ひとまず世界を滅ぼします!〜

作者: 遊十

 はー、なるほど。これが噂の、異世界召喚って奴か。おっけー、状況は理解した。どうやら僕の頭が可笑しくなった訳でも、君がヤバイ奴って訳でもなさそうだ。


 うん。そりゃあ、目の前で魔法なんて見せられたら、信じる他無いよ。見た感じ、手品の類いでもなさそうだし、態々僕を拉致ってこんな場所を用意してこんな話をでっちあげるメリットはなんにもない。だからまぁ、信じるよ。とりあえずはね。


 此処は日本じゃ無い別の世界で、君は国のために魔人召喚の儀? を行って、結果的に僕が呼ばれたーーと。理解あってる? よかった。


 え、何、僕が初めてなの? リセマラしないの?へぇ、そりゃあ気軽にできるもんじゃないね。


 なんか、ごめんね?

 僕にしてみればゲームみたいな展開だけど、君にとっちゃあなんつーか、エグいガチャじゃん。だって何が出てくるのか、わかんないんでしょ? 欲しい性能持ったやつが来るとも限らないのに、よくやるねぇ。結果、僕だし。


 そ。ご覧の通り、死にかけですよお姫様。

 大した傷には見えないだろうけど、もうなにしたって手遅れ。てか、他人の心配してる場合? 君もその腕も、結構ヤバいと思うけど。だいぶ匂うし……、やっぱこの魔法陣って、そういうこと?

 うわぁ……。血で描くとかえっぐ……怖ぁ……。 


 ってことは、あっちにあるのってもしかして失敗作? 馬鹿だなお姫様、下書きしてからやりなよそういうのは。

 そんだけ血を出しといてよく書いたねこんなでっかいの。だいぶ雑だけど。いやほら、線とかガタガタだし、あそこなんか明らかズレたのを無理矢理つないだっしょ。線、二重になっちゃってるじゃん。僕もよく知らないけど、こういうのって手順っていうかひとつひとつのこと、キッチリしないとマズイんじゃないの? 

 ま、そんなの僕を引いた時点で今更か。


 うん。その、せっかく血ィ捧げてまで魔人召喚の儀に挑んでもらったところ申し訳ないけど、国を救うとかは無理なんだわ。マジに。なんかお約束のチートでも貰えたんなら違ったんだろうけど、それっぽいものは感じないし。何でか言葉は通じるけど。これって魔法の効果? すごいな。マジで日本語に聞こえる。人種どころか種族も違いそーなのに。


 あは、マジでわかんねぇって顔してんね。ウケる。

 ……は? 食べないよ。僕は人間は食べません、絶対に。食べないから力が!とかそういう話じゃないの。生贄とか言われても困るから。俺なんもできねぇし。マジで。星三どころか雑魚経験値の引きですよ? 運が無いねぇ、お姫様。

 だーかーらぁ、魔人様じゃないの。しつこいな君も。魔界じゃなくて日本から来たただの会社員。サラリーマンなの。会社なんかとっくにないけど。


 言っとくけど、僕に何期待しても無駄だよ? 頭も体も能力もフツーオブザフツー。ついでに死体未満で、ぶっちゃけもう立つのも無理なくらいなんだわ。こうしてんのは、空元気ってやつ。喋ってないと意識とびそーなくらいにはヤバくてね。だからお姫様、その僕との間にある、バリア? それ、ちゃんと維持しといてね。


 何、違う? 違うって何が……え、魔族? 国は勇者に? 


 ……あー……そっかぁ。あーー……ごめん。かんっぜんに間違えてたわ……。

 あ、でもそれなら話は早いっていうか、むしろぴったり案件かもしんない。やー、まさかこんな巡り合わせがあるなんてなぁ。


 うん、出来るよ。滅ぼすまでいけるかはわかんないけど、多分ね。……びっくりした?

 さくっと君の敵、まとめてぶっ殺そう。


 っはは、顔ぐしゃぐしゃ。あーもう、泣かなくていいって。……食べません。食べないから。別にそんなんしなくても全部ぶっ壊してあげるから。それ見ないで死んじゃうのは、もったいないだろ? 

 そもそも、僕だけで出来る話でもないし。


 そ。君の協力が不可欠なんだよお姫様。あぁでも全然難しいことじゃないから、安心して。

 あぁそうだ君、魔法、使えるんだろ。モノを遠くに運んだりするやつとかない? ある? よかった、じゃあもっと簡単だ。

 お手軽に世界の終わりをお届けできるよ。僕の死体を使えばね。


 そう、死ぬの、僕。

 ゾンビ、って言葉で通じてる? 無理か。起き上がる死体、リビングデッド。あ、わかった?

 そうそう、それなの。正確に言うと、それのなりかけ。ここに召喚される前に、噛まれちゃってね。だいぶ進行してる。

 駄目なんだけど、美味しそうだもん、君。だからそのバリア、維持しといてね。君のこと、噛みたくないし。噛みたいけど。


 多分もうすぐ僕は死んで、うーとかあーとか唸って、人を襲うだけの感染源になる。そしたらさ、僕の死体を、君がぶっ壊したい国の、王宮でもどこでも、好きにおいてくればいい。人が多いとこがオススメかな。僕の世界は、実際それで終わりかけてるし。

 なんならどっかで実験してからでもいい。うまく行けば、パンデミックだ。僕だったものは人を襲って、襲われた人は死んで、僕と同じになる。

 仮にうまく行かなくても君にデメリットはなんもない。失敗したらまた魔人召喚試してみりゃいい。血ぃ回復させて、今度はちゃんと、下書きしてさ。


 なんでって……世界の終わりを望んだのは君のほうだろ、お姫様。僕は手段を示しただけ。てか、魔人召喚の儀って、もしかして成功なのかな。割とぴったりじゃない? 僕って。

 え? 止めないよ、別に。何、止めてほしかったの? なんでって言われても、別に大した理由はないよ。僕の世界じゃないし。どうせ死ぬし。


 それにね、これで終わるんなら、どうせそれまでの世界なんだと思うよ。

 だから、君の好きにすればいい。それで君の気が済むなら、僕も死にがいがあるってもんさ。

 そんな顔しないでよ。君、別に僕のなんでもないだろ? たまたまガチャ引いたら僕だったってだけでさ。だから使ってよ。せっかくなら。


 ……僕? だから言ってるだろ。構わないって。そうだね。君のことなんて、何も知らない。君のことも、君の国のことも、なんにも。

 でも、いいんだ。君の話が嘘でも。正義とか悪とか、そーゆーのだって。


 ただ、僕を呼んだのは君だったから。

 だから、いいじゃんって、思っちゃうんだ。やっちゃえって。

 このまま良く分からないものになるくらいなら、君の道具になれたほうがまだマシさ。要らないなら、それでもいい。使わないんなら、それでも。


 君のためじゃない。僕のためだ。

 どうせ死ぬんなら、僕は、僕の死を何かにしたい。君が、君の仲間たちの死を、何かにしようとしてるみたいに。


 嬉しかったんだ。こうなったら一人で死ぬしかなかったから。別にこうなる前も、ひとりだったけどさ。

 僕は君を絶対に、食べられないから。


 さいごにはなせる、ひとがいるんなら、……お姫様、その君が望むんなら、世界なんて、どうなってもいいさ。


 初めてなんだよ、ほんとに。

 僕のいた世界がね、やばくなっても、噛まれちゃった時も、僕は仕方ないなって、思うだけだった。このまま死んで、ゾンビの仲間入りするんだろうって。

 でも、君に呼ばれて、君に逢って。

 君、笑ったろ。笑ったんだよ。無意識だったかもしれないけど。

 なんかそれで僕、満足しちゃってさ。だから、なんかしたいんだ、君に。ほんとにただ、それだけ。


 そんな顔しないでよ。嬉しくなっちゃうだろ。こういうのって上限とかないんだな、ほんと。

 ……未練、とか、そういうのはやなのにさぁ。


 あぁ……いよいよ、ヤバくなってきた、かも。


 なぁ。お姫様。


 ちゃんと、その手、治して。

 ちゃんと、食べて。


 俺がぶっ壊した世界で、また、笑ってよ。



◆◇◆◇


 そうして勝手に、男は死んだ。

 もう一度起き上がった時、それはもう、彼女の知る彼ではなかった。


 それを魔法陣に閉じ込めたまま、彼女は腕に包帯を巻いて、食料を口にした。

 疲れたので、とりあえず寝た。


 次の日は、朝から転送魔法の準備をした。

 彼女の一族、彼女の全てを破壊した国の中央。壮麗な王宮に、彼だったものを送るため。

 召喚陣を囲うように転送魔法を書き連ねた所で、日が暮れた。

 世界の終わりが見られなくなっては、笑えない。

 彼女は続きを明日にすることにした。


 翌朝。改めて見たら、文字も陣もガタガタな事が気になってきたので、書き直すことにした。

 書いては消し、書いては消し、と丁寧にやってたら、半分ほどで日が暮れた。

 仕方なく、続きは明日にすることにした。


 彼が死んで、三日目。

 一応完成はしたものの、なんだか全体的に違和感を覚えたので、ちゃんと下書きをすることにした。 それは変わらず、陣のなかでうーうー唸っていた。

 血の匂いに寄ってきた魔獣の肉を上げたら、がつがつ食べていた。味を尋ねたが、返事はなかった。

 下書きを終えたので、その日は終わった。


 彼が死んで、四日目。

 丁寧に、集中して下書きをなぞった。今度こそ完璧な、完全な転送陣。これを見たら、彼だって文句は言えないだろう。

「……見てよ、完璧でしょ?」

 彼女はそう言って笑ってみせたが、それは答えなかった。

 魔法を起動させようとして、やめた。

 これでいつでも出来るんだから、別に明日でもいい。そう思った。


 彼が死んで、五日目。

 世界の終わりにするには、天気が良くなかった。

 どうせ終わるんなら、青空の日がいい。そう思った。


 彼が死んで、七日目。

 酷い雨が降った。保護魔法をかけたけれど、魔法陣が少し汚れた。


 彼が死んで、十日目。

 雨が続いた。

 世界を壊す前にボロボロになったら、怪しまれて、誰も近づかなくなる。

 だから、晴れたらいつでも使えるように、氷の棺でそれの時間を止めた。


 彼が死んで、十四日目。

 雨が止んだ。

 魔法陣をちゃんと、書き直した。

 雨が流してきた泥が乾いて、ぽつんと芽が出た。


 彼が死んで、二十日目。

 春を呼ぶ花が、ちらほらと増えていく。

 厳しい冬の終わる合図。毎年毎年、待ちわびていた可憐な花を、此処から旅立たせる前に、彼に見せたくなった。


 花が散って、とても短い夏が来て。

 すぐ秋になって、冬が来た。


 冬は棺の保ちがいいので、少し楽だった。


 彼が死んで何日かはもう、数えてない。

 だけど、大丈夫。忘れてない。痛みも、苦しみも、怒りも、憎しみも。 

 ただ、いつでも出来るから。

 明日に、するだけ。


 

国は終わっても、世界は続く。

世界は続いても、国は終わる。


時は、流れる。


最後に春が訪れる、世界の果て。

春を告げる菫色の花が一面に咲き誇るその丘には、今でも世界を滅ぼす暴食の獣が眠っているという。



■□■□

お読みいただきありがとうございました!

 

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