現実への帰還
「・・・俺、そろそろ帰るよ。」
また逃げるんだ。俺は。勇也からも、現実からも、目をそらして。
「そうか、しばらくはこっちにいるのか?よかったら夜にでも飲まないか?ヨウジとかヤスとかも呼んでさ。」
「・・・ごめん、明日の朝早くに、帰らなきゃいけないから。」
「・・・そっか。残念だけど、また今度だな。」
言って気づく。勇也の少し寂しそうな笑顔。
そうか・・・、気づかないうちに俺自身も変わっていたんだな。
もう俺は、俺自身が、あの頃には戻れないんだ。
いつも二人一緒だったあの輝かしい日々には。
そんな当たり前のことに気づいた時、夢を失い一縷の望みが絶たれたと実感した時、俺の心は確かに救われてしまった。
きっとこういうことなのだと理解してしまった時に、これからも勇也とずっと一緒にいられると信じていた僕は、死んだ。
「じゃ・・・。」
勇也と恭也君に背を向けて歩き出す。
俺はもう振り返ることなく神社を抜けた。
深い木々を抜け、急に強い日の光を浴びたせいか目の前が一気に白くなった。
少し立ち眩みをしたようだ。だがそれもすぐに治まる。
階段を下り、山を下る。
来るときは随分息を切らしたが、帰りは拍子抜けするほど楽なものだ。
そして俺は、昔遊んだ思い出の場所を後にする。
明日の朝には生まれ故郷を後にして、
俺は・・・帰るんだ。