傍観者
第1章 ようこそリドルチームへ
第8話 傍観者
俺が秘めた力......なにができるんだ。
消滅なんておっかない能力があるんだ。俺もものすごい能力があるに違いない。鳴滝さんが「時空が何とかしてくれる」と言ってくれたんだ。
きっとあの人には俺の能力がなにか分かってるんだ。あの目は俺に期待してる目!
俺はタワービルを爆発させてぶっ壊すとかそんな恐ろしい能力があるのかもしれない。
「ぐへへへ」
「きもい。犬らしくわんわん言っときなさい」
「わんわん」
「どちみちきもかったわ」
酷い言いようだ。だがしかし、俺は今とても気分がいい。階段をのぼっていると前の巨乳の女の人がミニスカでパンツが見えた時の男子諸君の幸せな時間の時くらい気分がいい。わんわんくらいいくらでも言ってやる。
俺たちは再びリドル事件が起きたエレベーターの前へと来た。
昨日とは違う警察の人が対応してきた。
「リドルチームの掛橋です」
「そちらの怪しい方は?」
やはり同じような流れになったな。まぁ仕方ない茶番に付き合ってやるとしよう。
「見ての通りペットです」
「ペットでしたか。お通りください」
まぁ今回はペットと扱われても無理もない。なぜなら永愛が囚人服と手錠に飽きたらしく、犬の着ぐるみと首輪に変更されたからだ。
「わんわん」
「......」
あ、待って。無言が1番きつい反応なんだよ。俺だけが痛いヤツみたいになってるじゃないか。リードで俺を引っ張ってるお前も相当だぞ?
永愛は結局何も言わず、例の消滅の能力者探しを始める。
「能力者だけの特徴とか無いのか? そうじゃないと探し出すなんて無謀すぎる。なんてったって手がかりが無さすぎる」
「そんな事言われてもひと目でわかる特徴なんてない。相当能力を極めた人ならオーラとかで分かるけどね。あとはそうだな......異常に運動神経がいいとか?」
「なんだそれ全然役に立たないな」
「うーん。私の能力使えば分からないこともないけど一人一人に試すとなると時間がかかるからなー」
いつも俺が永愛の悪口をいえば反抗してくるのにやけに大人しい。そろそろ本気で事件を解決しに行くらしい。
「エレベーターの中には誰も乗っていなかった......」
状況を整理している永愛がそう言った。
「誰も乗っていなかった......」
違和感を感じる。なにか、なにか大切なことを忘れている気がする。思い出せ......いや、無理だ。痒いところに手が届かない。
必死に思い出そうとする。何かがおかしい。見落としがある。
ふと、駅を出てすぐの道路際に中年の小太りの男がいた。
「さっきまであんな人いたか?」
俺はバレないように指を指し永愛に聞く。その瞬間、電気が脳を走ったかのように全て思い出した。
エレベーターの中には2人居た。その事実が。
男は俺と目が合うとすぐ近くの脇道に逃げ出した。
「おいこら、待て!」
俺は反射的に追いかける。なんで今まで忘れていたんだ? 確かに永愛に誰もいないと言われた時、1度忘れようと思ったが、そういう忘れたでは無かった。
俺の記憶の中から完璧に消えていた。
「ちょっとどうしたの?!」
後ろから永愛の声が聞こえるが追いかけることが最優先。男が脇道に入る。俺も帰宅部の意地を見せ、全力で追いかける。距離は少しずつではあったが縮めることが出来ていた。俺も脇道へと入る。しかし。
「誰もいない......」
俺は帰宅部ながらクラスの中で足は1番はやい。しかも脇道は一本道。隠れる場所なんてない。
逃げた場所が違った? もう一本奥の脇道だったか?
いや、違う。あいつが能力者だと確信した。消滅の能力。なるほどな。全て合点がいく。
誰が能力者か分かっただけでも十分だ。あいつは無に帰ったのだから連れ戻すことは出来ないだろう。
奴は必ずこちらに帰る。その時に潰す。