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シュレーディンガーと時空  作者: 桜木良
ようこそリドルチームへ
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望んだ世界

  第1章 ようこそリドルチームへ

  第2話 望んだ世界


  何も感じない。音も、風の当たる感覚も。気付いたら自分の心臓が鼓動する音に耳を傾けていた。心臓なんて俺が誕生してからずっとあるのにその鼓動に俺は吸い込まれるように虜になった。

「あー、やっとか。これが俺の望む世界か」

  俺は何も考えず、ただこの贅沢なひとときを過ごさせてもらうことにした。静寂に包まれ誰がどう見ても俺が中心の世界。いや、この世界には俺しかいないから誰がどう見てもという表現は正しくないか。

「いやそんなどうでもいいことを考えるのはやめよう」

  もう他人の目も空気を読むこともしなくていいんだ。

 俺が何をしても、何か間違えてもそれに気付くものもいないし、指摘もされない。

  俺は豪快な音を立て席を立つ。後ろの机に勢いよくぶつかった椅子は悲鳴をあげるかのような甲高い音が鳴り響く。これまで優しく扱われてきたこの椅子にとっては初めてのご主人様からの虐待を味わった気分だろう。

  立ち上がったはいいもののこんな時は何をすればいいのかわからない。何度も望んだ世界。俺だけではなく全人間が1度は時間が止まれば、なんて想像はしたことがあるだろう。しかし、いざとなっては何をするべきか分からなくなってくるのだ。俺は意味もなく教室内を徘徊することにした。


  ふと、誰かが笑う声が聞こえた気がした。その瞬間ある可能性がよぎる。これは俺を(おとし)めるドッキリなのではないかと。みんなで時間が止まった振りをして俺を嘲笑うために。

  しかしその案は直ぐに却下された。それは、時計の針が止まっているからという理由や風を感じないからという理由でもない。ただ俺はこのクラスで居場所がない、いわば、陰キャであり、俺をドッキリの対象としてもクラスにとってなんのメリットもないからだ。


「一応試しておいた方がいいな」

  俺はとてもとても慎重なため、このドッキリの真偽をつけることにした。

  隣に座る女子の肩をそっと触れる。言っておくが決してやましい感情を持ってこうしてるのでは無い。あくまで確認である。

  初めて触れる女子の身体の感覚に俺は理性がどこかへ消えていくのがはっきり分かった。


「この世界では俺が中心だよな?」

  確認は済んだがせっかくだから少しくらい触れても良いだろうと肩の位置からゆっくり下へ撫で始めた瞬間、感触が変わるのがすぐにわかった。そして同時に

「キャーっ!」

  この世の終わりかのように叫んだその少女は俺の目の前にいるあの少女である。クラス中の冷たい視線と驚きの視線を浴びるのが分かった。

「おい、何やってる!」

  慌てて俺のもとへやって来て俺の腕を掴む先生。俺は何も抵抗しようとはしない。万事休す。俺はやはり神に見放されている。

  なぜだ。俺は1度絶対的な存在になったのに。あれは夢だったのだろうか。

  時計は一定のリズムを刻み進んでいる。カチカチとなる音は俺にとっては忌々しく感じられた。

 

  その後しっかり校長室に親と呼ばれ、長い長い説教を受けた後、隣の女子に謝罪をした。

  幸い、その女子生徒とは一応仲が良く、形だけは許して貰えた。だが異性に体を触られてすぐに許す者はほんものの変態であろう。もっとも俺が言えることではないが。今日、俺の居場所は本当に消えた。消えてしまってもどうでもよかったが。


  放課後に行われた謝罪会見が終わったのは学校が閉まる午後6時ギリギリ前だった。

「よう、変態。おつかれさん」

 そう言って俺のもとへやって来たのは同じクラスである設楽海利(したらかいり)であった。俺の数少ない友人のひとりだ。

 

  そもそも友達(・・)の定義が何なのか知りたくて仕方がなかった。小学生の頃から友達の少なかった俺はどうすれば友達ができるのか考えたことも多々あった。中学にあがると少し友達も増えた、と思っていたがその大半は俺が一方的に「友達」と思っていただけだった。

  俺は結論を導き出した。

 

  自分が友達と思っていても、相手が友達と思っていなければそれは友達ではない。


  しかしその点、海利は友達である確証があった。こんな変態をこの時間まで待っていてくれたことも一つの理由になるだろう。


「ありがとうな、待っててくれて」

「待ってやった代わりにどんな感触だったか教えてくれ」

「柔らかかった」

 そんな最低な会話をしながら駅のホームで別れた。

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