俺は猫になりたい
第1章 ようこそリドルチームへ
第1話 俺は猫になりたい
なぜこの世界では死ぬことが許されないのか。
生きたくても生きれない人がいるから?
周りに迷惑をかけるから?
そんなものは都合がよすぎるだろう。平等に権利があるのならば死ぬ権利も肯定されるべきでは無いのか。しかしそれを世間は許してはくれない。
俺はこのつまらない世界から早く去りたい。
誰からも観測されずに静かに最期を迎えたい。
そして、俺がいなくなっても何も変わらず世界が続けばいい。
俺は猫になりたい
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暑い......
高校1年の6月中旬。気温は28℃くらいだろうか。中途半端な気温のせいで先生はエアコンをつけようとはしない。まだ6月なのにこの気温は俗に言う異常気象なのだろうか。
クラスの数人は先生にバレない程度で下敷きで仰いで涼んでいる。しかし暑さは気温だけの問題ではない。
俺の通う桜山高校は京都にあり、盆地という地形のせいで蒸し暑さという追加効果が発動していた。観測される気温よりも体感暑く感じてしまうのだ。
冬になればその逆の現象が起こり、そこまで気温が低くないのにも関わらず体感温度はかなり寒いという住みずらい環境である。
授業も気が付けば中盤に。いや、まだ中盤であると言った方がいい。5限の昼休みを挟んだあとの数学は理系であっても生徒たちは睡魔という敵と戦いの真っ最中であり、時の流れは遅く感じられた。
俺は先生の筆圧の高いチョークの音をBGMに時計の秒針を眺め続ける。カチッカチッとそのテンポは乱れることは無いのに早く感じられたり、遅く感じられたりする。
全開の窓からはそよ風程度の貧弱な風が教室の中へやってき、廊下側の窓から一目散に逃げていく。前の女子の長い髪の毛がゆらゆらとなびく。
俺の席は幸いにも窓側。この暑さの中では窓側のポジションは喉から手が出るほど欲しい席だろう。退屈であれば外の様子を眺めて時間も潰せる。
これが青春漫画であれば青空が広がり、さぞ映えた絵になるのだろう。
だが俺は生憎、漫画の主人公でもないので雨雲が広がる。梅雨の時期であるから仕方ないと自分に言い聞かせて目を閉じる。だんだんと雨のにおいがしてきた。帰る頃には雨が降っているのだろうか。
体感20秒後くらいだろうか自分の名前が呼ばれた気がする。目を開けると先生と目が合う。やはり指名されていたようだ。運が悪いのかそれとも寝ていたのがバレて意図的に指名されたのかはわからない。
「時空。寝るのはいいがちゃんとテストでいい点を取ってからにしたらどうだ?」
どうやら寝ていたのがバレたらしい。教室からはクスクスと笑い声が聞こえる。が、それは無視する。
俺がテストの点が悪いこと。それは周知の事実であるのでいまさら否定しようとも思わないし、そんなことで笑われたところで俺になんの損もない。
「すいません」
一応形だけ謝っておくが反省する気は無い。また授業が再開されれば俺は欲のままに静かに眠りにつくだろう。
先生も出来損ないの俺に構わってる暇はないらしく、すぐに授業に戻った。出来損ないと言っても高校の偏差値は60ほどで特別頭が悪い方ではない。ただ勉強が嫌いであるだけだ。いや、嫌いだし苦手か......。
ここ最近の授業にはついていけず、自分の地頭のよさは中学までしか通用しなかったのかと思い知らされていた。
先生の意味不明な授業を聞いていても理解が出来ないので無意味だ。俺はまた瞼が落ちてくるのが分かったが、それを止めようとはしなかった。
人間は欲望に忠実である。俺もその例にならっているだけだ。仕方がない。
どのくらい時間が経っただろうか。もはや授業時間など関係なくすっかり眠りについてしまっていた。
それでもはっきりと感じる違和感があった。それは音だった。いつもであれば眠りを妨げるチョークのうるさい音が聞こえてくるはず。
だが1分ほど待ってもチョークの音も、先生の解説も何も聞こえない。
とうとう俺は目を開ける。教室の蛍光灯が俺の目一直線に攻め入ってくる。俺は少し目をぱちぱちさせながら視界が戻るのを待つ。だんだんと周りの状況が分かるようになってきたわ。しかし、その違和感が何なのか周りを見てもすぐに理解することは俺にはできなかった。
「時間が止まってる……?」
しばらくしてやっと状況が飲み込むことが出来た。
先生も他の生徒も動こうとしない。みんな石のように魂が抜け、その場にあるだけの存在に過ぎなかった。この教室はいつの間にか墓場のようになっていた。
言葉を失う。戸惑い、焦り、恐怖。一瞬にして感じたことも無い絶望感が俺を制圧した。
しかし、俺の中に1つの考えが脳裏をよぎる。
神様が新しい、俺が望み続けた、誰も俺を認知せずに俺が自由に生きてもいい世界を用意してくれたと。