エルフ大会
翌日、気を取り直して発掘を再開する。後ろの方でキュルキュルという音がしたが、そのまま無視して掘り続けた。しばらくしたら、急に後頭部にガツンとスゴイ衝撃があった。視界がぐらつく。
何がなんだかわからないまま後ろを向いたら、そこには巨大な怪物が立っていて襲いかかってきた。次の攻撃は飛び跳ねるようにして何とか回避した。危険の予感に全身がゾワゾワした。私は必死で逃げた。あんな巨大な怪物と戦っても絶対勝てない。ふぅ、頭がズキズキする。
あのような怪物がいたら、発掘はできない。ムリゲーである。そもそも伝説の銅鑼が埋まっていること自体が不確かである。昭和の精神論根性論で頑張ることが絶望者の王国で求められていることではないだろう。発掘から離れて別のアプローチも考えるべきだろう。
それから数日間はブラブラと街を歩き、情報収集した。やがて街のあちこちにはエルフ大会のポスターが貼られ、幟が林立するようになった。大会のことを聞いてみたところ、「森林地帯に放したエルフを連れて会場に来て下さい」という。エルフを連れて来ないと会場には入れないという。
森林地帯を歩いていたら、急にエルフが飛び出して来た。そのエルフは目つきが鋭くて強そうな感じがする。そのエルフが急に襲いかかってきた。一生懸命戦ったが、すばしっこくて強い。右手の拳が殴った際の衝撃で痺れる。私は口を一文字に結んで嗚咽を我慢していたが、とうとう堪え切れなくなり、泣きうめいた。
「私は、私は、私は勝てんのか」
エルフは飄々と無視を決め込み、冷淡な唇は私をせせら笑う。聡明そうな眉はピクリとも動かず、瞳には虚空にすら無い。エルフは未だ動き出さない。それで逃げようとしたら、尻を刺された。痛い。熱い。しかし、これくらいでへこたれない。まだ襲い掛かってくるエルフを何とか押さえ込んで縛った。
エルフを持って大会の会場に入った。捕まえられたエルフ同士が、血みどろになって戦っている。私は可哀想に思って大会出場を止めた。エルフの故郷はスーキャラ地方にある。それがこの大会のために連れてこられたという。だから私はエルフを故郷に帰すと約束した。エルフはとても驚いていた。
エルフをスーキャラ地方に連れていった。エルフは一度、私を見てから、森の奥に向かって走って行った。そしたら、森のあちこちからエルフが出てきて胴上げされていた。善行をした後は気持ちがいい。
私が去ろうとするとエルフが何か手に抱えてこっちに走って来た。エルフは手に抱えていた物を私に差し出した。それは伝説の銅鑼であった。念じた通りの魔法が使えるというチートアイテムであるが、エルフは使えないという。
スーキャラ地方からの帰り道、野原を歩いていたら、大きな網を持った集団とすれ違った。さてはエルフを捕まえに行く密猟者だな。私の中で憤怒の感情がグツグツと煮えたぎった。私は振り向いて、銅鑼を使った。密猟者の集団は鎧袖一触であった。さすがチートアイテムである。洗練された力には無駄がない。さらに銅鑼に「エルフ大会を廃止すること」と念じた。これにて一件落着である。
私は伝説の銅鑼を持ち帰り、女王に謁見した。女王は喜び、食事会を開催した。一般の宮廷ならばパーティーになりそうであるが、質素で堅実な宮廷である。
食事は美味であった。ソースには野菜を使い、調味料に頼らない味付けにしている。自然のものを食べて体の中から健康になる。ボリュームも満点で、デザートまで付く。デザートは新鮮なミルクと卵を使用したプリンで、何となく太陽の香りがした。太陽の香りを嗅いだことはないが、太陽のイメージが浮かんだ。
私は再び元の静かな生活に戻った。読書に温泉という娯楽生活を楽しみつつも、草や木で社を立て、それを羅美に捧げ、羅美の幸せを祈った。昨日よりも今日の方が羅美を思う回数が増えていった。そして先週よりも今週の方が。
女性は現実的な生き物である。それは妄想に囚われて夢を語る阿呆共よりもはるかに素晴らしいことである。私が遠く離れた場所から溜め息をつき、微笑みかけ、ひざまずいたとしても、それが羅美にとって何の役に立つだろうか。
遠い目をした詩人顔で運命の悪戯に思いを馳せても、目の前の現実が一変するわけではなかった。それでも私は行わずにはいられなかった。羅美の温もりを思い出すほど、感謝の気持ちで胸が一杯になった。羅美とは何と爽やかで奥深く知的そして魅惑的で響きのいい名前だろう。紙に名前をひたすら書き続けたいくらいである。
女王は純粋な愛と評した。
「そなたは銅鑼を持ち帰ってくれた。それほど愛しているならば、銅鑼を使って、そなたの世界に戻すこともできるぞ」
「ありがとうございます。しかし私は羅美に嫌われてしまいました。羅美にあわせる顔がありません」
「それならば、銅鑼の力でそなたを女性に変身させよう。別人ならば会っても構うまい」
女王は銅鑼を私に向け、呪文を唱えた。すると私は女性になった。
「そなたは女性となった。さあ、行くがよい。そなたが他人に自分の正体を告白すればこの魔法は解けることを忘れるな」