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裏方は地味な作業なんですよ

GWですね。どこにも行かない引きこもり生活なので、出来る限り投稿出来たら、と思っています。

猫には途中で飽きられるんですよ…。

 火竜の額に刺した夜から魔力が流れてくる。


「うわ、思ったより多いっぽい」


 さすがに元は肩乗りサイズのサラマンダーからここまで巨大になっただけあって、内包している魔素がとんでもないことになっている。

 夜を通してナリスに流れてくるが、一度に流れてくる量があまりに多い。


「があああああぁぁぁぁ!!」

「ちッ!」


 火竜が叫んで暴れたので、ナリスは夜を引っこ抜いてその場を離れた。空中に跳んだナリスをうまくユーリとヴェイユが拾う。


「どう!?」

「身体が大きいから内包魔素がすごいことになってる。どうしたもんかなー」


 まだまだ幼いナリスの身体では受け止めきれない。


「うーん」


 ナリスが解決策を見出そうとうんうんうなる。火竜が内包している魔素が多すぎるのでいくら何でも1人では受け止めきれない。


「あ、そだ、ユーリのアストラルがあるじゃん」


 ナリスがようやく閃いた、という顔になった。


「そうだよ。動くからダメなんだよね、動かなければ何とかなりそうじゃん」


 固定さえできれば、あの大きさでもなんとかなる。


(お父さん)

(どうした?手短に頼む)

(何とかして足とかだけでも固定して)

(その場に繋ぎ止めるばいいのか?やってみる)


「ユーリ、ルクレツィアさん、お父さんが足止めしてくれるから後ろに回るよ」


 表立って戦闘しているレイの魔力が一層高まっていくのを感じた。


「繋ぎ止めるは氷の鎖!」


 レイの声と共に氷で出来た鎖が現れて火竜の全身に巻き付く。一瞬、火竜の動きが止まるとレイはたて続けに魔法を繰り出した。


「大地に縫い留めよ、氷柱!」


 氷の柱が火竜の足を取り巻くように現れて火竜をその場で動けないようにした。とはいえ、火竜が思うように動けないのは主に足だけなので、手や首は自由に動き、息吹(ブレス)も自在に吐ける。だが、ナリスにはそれで十分だった。


「ヴェイユ、火竜の足元に降りて」


 ナリスとユーリを乗せたヴェイユが氷で縫い留められた火竜の足元に降り立つと、続いてルクレツィアとエレもやってきた。


「よし、ユーリ、今からボクがこの子から魔素を抜き取るから、ユーリはその魔素をアストラルで大地のあちらこちらに散りばめて」

「大地に循環させればいいんだね。でもどうやって?」

「ボクと手を繋いで。そこからユーリの身体を通して魔素をアストラルに送るから、取りあえずアストラルを大地にぶっ刺して」


 つまり魔素が、火竜→夜→ナリス→ユーリ→アストラル→大地に還元、となるわけだが、そのためにはナリスとユーリが手を繋いで道を作ってやらなくてはいけない。


「………やってみようか」


 何となく、何となく絵面的にどうかな、とは思うがこちとらまだ6歳児2人だ。幼子がお手々を繋ぐ様はきっと可愛いはずだ。おっさん同士でやっても気持ち悪いだけかもしてないが、ナリスとユーリなら年齢を重ねてもご婦人方が喜ぶ構図になるだろう、きっと。


「………そうだね。やろうか」

「ふふふ、では私はその間、2人の守護を承ろう」


 こんな時と場所だというのにルクレツィアはいたずらっ子のように笑って結界を張った。


「安心しろ。この結界は小さいが守護力はすごい。それこそエンシェントドラゴンの息吹(ブレス)にだって耐えて見せるさ。それと私も剣を出しておくから後は任せろ。打ち砕け、ブラフマーストラ」


 ナリスの夜やユーリの2振りの剣に負けない輝きを持つ剣がルクレツィアの手元に現れた。

 エンシェントドラゴンは竜の中でもかなりの年月を生きた竜で、その息吹(ブレス)は並みの竜では太刀打ちできないほどの威力を誇っている。そんな息吹(ブレス)に耐えうる結界なら火竜もどきの攻撃などたやすく弾くだろう。


「よろしくお願いします。さ、ユーリ、やるよー」

「はーい」


 ナリスが氷の隙間に見える火竜の素足に夜を少し刺した。これだけの大型の竜にとっては切れ味鋭い日本刀がちょこっと刺さったくらいでは、人で言うところの蚊に刺されたくらいのことだ。わざわざ気にするまでもないと思っていることだろう。

 ユーリはナリスと手をつなぐと、地面に向かってアストラルを突き刺した。


「神刀”夜”神意を示せ。夜、この子に溜まった過剰の魔素を放出してボクに来るようにして、それでユーリに流れていくように」

「導きの剣 アストラス、火竜に溜まっていた魔素が大地の隅々にまで行き渡るように導け」


 2人の言葉と同時に火竜から魔素が流れ込んでくる。


「うわ、すごいね」


 ユーリは素直に感心をしたのだが、大きさを考えたらまだまだ序の口だ。


「どう?ユーリ、うまく大地に流せてる?」

「うん。大丈夫、今のところ問題ないよ」

「じゃ、もうちょっと多く流すよ」


 最初から多く魔素を流すとユーリがうまく出来ないかもしれないと思い、流す量を調整していたのだが、ユーリはうまく大地に魔素を還元しているようなので、ナリスはその量を少しずつ多くしていった。


「まだ強くしても大丈夫だよ。だけど、すごい光景だよねぇ。対火竜戦にしては僕たちちょー地味だね」

「華やかな表舞台はお父さんたちにお任せだよ。ボクたち裏方はひっそりこっそり地味な作業をがんばりましょう」


 表に立ってちやほやされたいわけでもないナリスと、表に出るならどうしてもレグルス皇国の第一皇子という肩書がついて回るユーリという2人組は、地味な存在になりきれないくせに地味な作業をせっせと行っていった。


 時々、氷の鎖が追加されて身動きがとれないようにされている火竜から魔素を抜く作業というのは思ったより時間がかかる。

 どれほどの時間が過ぎたのか定かではないが、表側のレイたちの攻撃に対して火竜が対応できるようになってきたのか、表側から悲鳴が聞こえ、苦戦している様子が伺えた。


「時間かかるねぇ。お父さんたちもそろそろ限界かな?」


 結界の外では、表側の攻撃の余波や火竜からの攻撃や落ちてくる岩などを正確に叩き潰していたルクレツィアがブラフマーストラを振り回して攻撃に参加していた。


「……ルクレツィアさん、隠す気ある?」

「ふふ、もちろんだ。こちら側からの攻撃はそんなに気付かれないものだからね。念のため表の攻撃の時にしか参加はしていないよ」


 裏側の凍った足の後ろ側からの攻撃という正々堂々とは真反対の攻撃を楽しそうにしているルクレツィアも表舞台の英雄派ではなくて裏方の隠れ黒幕派のようだ。

 英雄をサポートするだけの簡単なお仕事です、という謳い文句で下手したら決戦の場まで整えて色んな意味で逃げられないようにしてしまうタイプの人間だ。


「目立つのは嫌いなんだ。ちょうどよかった」


 何となくその一言で、この人、絶対どっかで名も無き英雄とか言われて伝説になってるタイプの人だよな、と子供2人は悟った。ルクレツィアのことを知っているであろう神獣2体が揃ってため息をついたのもそんな事を思った原因の1つではある。


「何か周りの人たちの苦労が偲ばれるよね」

「うん、ぼくもやらなくちゃいけないのかと思うと気が重くなった」


 ユーリの言葉にナリスは、んん?と思ったが、ヴェイユはこれから先の契約者の苦労を思ってさらにそっとため息を吐いた。


 絶対、ナリスはルクレツィアと同じタイプだ。


 目立ちたくない、とか、自分の功績じゃない、とか言って自分がやったことも他人(主にユーリや父親のレイ)に押し付けて雲隠れする気だろう。

 自分たちはその後始末をしつつナリスに真相を吐かせて何とか辻褄を合わせて、それが伝説とか英雄譚とかになっていくのを複雑な気持ちで眺めて行くのだろう。


 神獣の契約者になれる数少ない人間がいる時代に目覚めたのはとても良かった。運よく契約もできたし、これから先、ユーリと生きていく世界はとてもたのしそうだ。だが、ちょっとだけ、とんでもない時代に目覚めちゃったかなー、というヴェイユの心の声が時々漏れるようになってくるのはまだまだこれから先のことになるのであった。

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