10年後にね。
昨日投稿しようと思っていたら、気が付いたら寝落ちしてました。
マネキンたちはそれぞれの獲物を手にナリスとルクレツィアに迫って来た。
中には杖を手にしている者もいるので魔法を使える者もいるようであった。
「降り注げ、炎の矢」
先ほど本物の矢を大量に射られたのでお返しとばかりにナリスは炎の矢をマネキンたちに向かって放つと大量に降り注ぐ炎の矢が刺さったマネキンはそこから燃え上がって崩れ落ちて行く。
杖を持つマネキンが対抗して水の魔法で炎を消していきながら数で勝るマネキンたちは無言でどんどんナリスたちに近寄ってきた。
「おねーさん、いける?」
「坊やこそ、足手まといにならないでね」
「はーい」
ナリスが夜を構えると隣のルクレツィアも自らの剣を構えた。
ナリスの刀と違い、ルクレツィアが持っていたのは両刃の剣。女性が持つには少し大きめの剣だった。
「打ち砕け、ブラフマーストラ」
ルクレツィアの声に反応して彼女の持つ剣が魔力を帯びた。ルクレツィアが横に一閃すると横なぎの剣戟が飛び、マネキンたちの先頭を軒並み上下2つに割った。
「おぉ、すごい。負けてられないよ。神刀”夜”、神意を示せ」
今度はナリスの持つ夜が煌めきを放つ。
「炎よ、わが剣と共に」
単純にただ全てを焼き尽くす炎を刀に纏わりつかせて、ナリスはマネキンの群れに突っ込んでいった。
襲ってくるマネキンたちを軽くかわしながら次々と切っていくナリスをルクレツィアは感心したように見ていたが、自分にもマネキンが襲い掛かってきたのでブラフマーストラでこちらもどんどん倒していった。
炎を纏った夜に切られたマネキンはその箇所から発火して爆破されていったので近くにいたマネキンにも次々に炎が燃え移っていった。
「数だけ多くってもねー」
夜を振るい炎を飛ばすとその延焼はさらに広がりをみせ、ナリスに近寄ってもいないマネキンの方が先に動きを止めていく。
チラリとルクレツィアの方を見ると、彼女は彼女で平然とマネキンを切り、魔法で容赦なく倒していっている。
だが、いかんせん数が多い。疲れを知らないマネキンたちと違ってこちとら生身なのでその内、体力がなくなったら負けてしまう。
ナリスの邪魔をしそうな杖を持ったマネキンをあらかた倒した後、ナリスはルクレツィアのすぐ傍まで戻った。
「よっと。うん、身体も温まったし、おねーさん、こいつら片付けるからちょっと下がっててね」
ルクレツィアに向かって剣を振り上げていたマネキンを蹴り飛ばして、ナリスはルクレツィアより前に立った。マネキンたちがナリスたちに再度近寄ろうと、うごめき始めたので、ナリスは夜を一度、剣の鞘に納めて、抜刀の構えをして深呼吸をした。
「凪いで爆ぜろ、一閃」
ナリスが剣を抜き一閃してまた鞘に戻す。
少しの間の後、多数のマネキンたちが一斉に内部から小さな爆発を起こしてその機能を停止した。
「……え!?」
ルクレツィアが信じられないものでも見るかのような目でマネキンたちの爆発の連鎖を見ていた。
「すごいな、あれだけで?」
「剣戟と一緒に火魔法を凝縮した小さな魔力弾を飛ばしたからね。さって、あと少し」
今のでそれなりに数は減らしたが、マネキンたちはまだまだ残っている。
「焼き尽くせ、大炎」
ナリスの足元から幾筋もの炎の道が生まれてマネキンたちを囲うように炎が大地を走る。マネキンたちにはあまり知能というものが存在しないのか、動くのを止めないので少しでも触れたものから炎の中に消えて行った。
「これで、お終い!」
残っていたマネキンを切り倒してようやく洞窟内に静寂が戻った。ナリスとルクレツィアの周りには倒されたマネキンたちが転がっている。
「お疲れさまでした、おねーさん。ケガはない?」
「……それはむしろ私のセリフだ。坊やこそケガはないか?」
「全然。見ての通りピンピンしてます」
2人とも特にケガをしている様子もない。通常なら魔力切れを起こしそうなものなのだが、そんな様子もない。
「火魔法が得意なのか?」
「マネキンってよく燃えるよねー」
得意とかそういう辺りは誤魔化してみたが、ルクレツィアはうさん臭そうな目でナリスを見ただけであった。
「あははは、そんなに見られると照れるかも」
そう言えば本格的に魔法を使えるようになるは学校に行ってからの10歳以降だった、などどナリスは思ったのだが、今更感が半端ない。
燃えやすそうだ、との理由で使った火魔法だけとはいえ、魔法には違いない。
責任は保護者連中に取らせようと思ってナリスはルクレツィアには出来る限り誤魔化していく方針を打ち出した。
「そう言えば、おねーさんはどうしてここに?」
弓矢からかばってくれた後にさらにマネキン軍団から襲撃を受けたので、肝心の部分は一切聞いていなかった。
「ここの最下層に少し用事があってね。悪いけれど、便乗させてもらった」
「じゃあボクたちを転移させたあの魔法陣で?」
「そう。あの王妃が使った魔法陣の最後に紛れ込ませてもらった。お詫びと言っては何だが、坊やが誰か保護者に会うまではサポートしよう」
「わーいありがと、おねーさん。でも、ボクたちも最下層に用が出来たから、ボクたちと一緒に行こ?ほら、旅は道連れっていうじゃん」
「初めて聞いた。だが、坊やも最下層に用があるのか」
正直、先ほどのマネキン軍団もルクレツィアが本気を出せば1人でも倒せた。だが、時間はかかっただろうと思う。なのに目の前にいる少年は炎を剣に纏わせてマネキンの中に突っ込んでいきそんなに時間をかけずにあれだけの量を倒しきった。外見の年齢的には5,6歳くらいに見えるが、その幼さであれほどの剣と魔法をどうやって身に付けたのだろうか。
「ふふ、坊やに少し興味が湧いてきた」
「少々お伺いしますが、どの辺りで?」
「そうだな。全部」
「まじですか?えー、ボク魅力的?愛の告白?」
「お子様だがな」
「10年後には立派な男子になる予定です」
「少なくとも私の背丈を追い越してから愛の告白とやらはしてくれ」
「ボクがする方なんだ。いいよー、10年後は絶対ルクレツィアさんの身長は追い越してるから、そしたら付き合ってね?」
「年齢差は埋められないがな。坊やが後悔しないなら付き合ってやろう」
今のルクレツィアの外見年齢は20代半ばくらい、といったところだろう。少なくともナリスとの年齢差は15歳はある。
「うん。約束ね。10年後が楽しみ」
ナリスの上機嫌な様子にルクレツィアは呆れて、苦笑した。
「坊や、軽々しく約束するもんじゃないぞ」
「大丈夫だよ。ボク、出来ない約束はしないようにしてるから。それからボクの名前はナリスだよ。ちゃんと呼んで?」
「はいはい、ナリス」
いかにもわがままなお子様に付き合ってる感を出しながらルクレツィアがナリスの名前を呼んだ。
「さて、行こうか」
「あ、待って。先にちょっと38階に用事があるんだ」
「38階に用事?」
「そ、一緒に飛ばされた人たちを回収して来なくちゃ。ちょっと付き合ってね」
「同じように変な人形に襲われてなければいいがな」
「片方は大丈夫だと思うんだけどねー。あっちの人は役に立つのかよくわかんないからどうかな」
アルテミシアは相当強い。だてにレグルスの姫将軍なんて呼ばれていない。その名にふさわしい実力の持ち主だろう。だが、ラグナ辺境伯がうっかり足手まといになっている可能性は否定できない。何といっても術の対価でだいぶ戦力ダウンしている上に、さきほど上で見た時は意気消沈もいいところだった。戦う意志のないのならせめてアルテミシアの邪魔にならないようにどこかにでも隠れていれば良いのだが。
ルクレツィアと一緒に歩きながらナリスは38階にいるアルテミシアが色んな意味で無事であることを願った。