ダンジョン内でボッチ
本日ギリギリ2話目の投稿です。読んでくださってありがとうございます。
「うわっと、いてて」
魔法陣から出た光に包まれたと思ったら強制転移させられて、出た先でうまく受け身を取れずにごろんとナリスは転がった。
「てて、んー、ここどこよ?」
王妃はあの空間のさらに地下に面白いものがある、と言っていたので、現在地はその地下の空間とやらなのだろう。
「ダンジョンっぽい」
受ける感じはダンジョンだ。広い洞窟の中なのに優しい光が満ちていて周りがはっきりと見える。ぐるっと周りを見渡したがナリス以外には誰もいないようだった。
「ん。これは別々の階層に飛ばされたかな」
インベントリから”夜”を取り出して腰に差しておく。
「ユーリとダンジョンアタックしよって約束はしてたけどもうちょっと易しいとこから始めるつもりだったのに」
魔力を薄く広範囲に飛ばしたが、ナリス以外はこの階層にはいなさそうだ。
(ユーリ、お父さん、どこにいる?)
心話で話しかけるとすぐに反応があった。
(ナリス、無事か。こっちはユーリくんとエドワード様が一緒にいる)
(お父さんのとこにいるんだ。じゃ、大丈夫だね。ボクは1人だよ。ミーシャさんとあの人はまた別のとこかな)
(そのようだな。でもここは何なんだ?普通のダンジョンとは少し雰囲気が違う)
(魔物もいる気配がないね)
少なくともこの階層では、ナリスの探索に魔物は引っかかってこなかった。
ナリスは壁面に手を当てて魔力を奥深くに流した。中庭にあった大樹にやったことと同じ事だ。
(………まさかのアルマ様の気配がする…)
(アルマ様の?)
(うん。ちょっと聞いてみる)
最近は連絡を取っていなかったので久しぶりにアルマとの回線を開いた。
(アルマ様、アルマ様、ちょっと聞きたいことが)
ーおや、ナリス様。久しぶりですね。何かありましたか?
(アルマ様、今、ボクたちフォラスの地下ダンジョンいるんだけど。何か変なダンジョンで、アルマ様の気配もするんだけど)
ーフォラスの地下ダンジョンですか?あまり覚えがないんですが…、え?初期の?あー、あのスタンピードの時のやつか。君、まだいなかった時のことなのによく知ってたね。
(アルマ様?)
ー失礼しました。妻に言われてようやく思い出しました。
どうやらアルマ自身は忘れているが奥方が知っていたダンジョンだったらしい。
ー昔、まだ魔道王国の初期の頃に大規模なスタンピードがありまして、その時に人々が抑えきれずに私に助けを求めたことがあったんです。その時に大規模なダンジョンを作ってそこに強力な魔物を誘導したことがありました。恐らくそのダンジョンはその時のダンジョンです。
(うえ?じゃ、この中、すんごい危ない?)
ーいえ、大丈夫ですよ。魔物のほとんどはその後に魔道王国の騎士団や冒険者たちが順々に退治していきましたので。ただ、最下層に面白いものがいますので、それらに会ってくるといいですよ。
(面白いもの?)
ーはい。当時はまだ直接降りられなかったものですから、その場にいたものを要石代わりに使ったんです。もうそのダンジョンの役割は終了してますから、それらを解き放っても問題ありません。
アルマが作ったスタンピードの魔物用のダンジョンはその役割をすでに終えて眠りに入っていた。それを起こした王妃によってこのダンジョンに吹き飛ばされたわけだが。役割をとっくの昔に終えていて要石たちを解き放っても問題ない、つまり。
(ダンジョンの存在を忘れてて要石たち、放置?)
ーはっはっは。そうとも言いますね。
アルマがさわやかに笑っている。魔道王国の初期ってどんだけ昔やねん、放置された要石たち、可哀そう。思わずナリスは同情した。
ー危険はないと思いますが、いかんせん古いダンジョンですからね。気を付けて進んでください。確認したところ、今ナリス様がいるのは地下40階ですね。レイたちが45階、他の者が38階にいるので、最下層の50階にいけば地上に戻れますよ。
(はーい。ありがと、アルマ様)
ーいえいえ、要石たちのところにはわかるように印をつけておきましたので。
そう言ってアルマとの回線は閉じた。
ナリスが40階でレイたちが45階、38階にいるのはミーシャとヴァルだろう。
(お父さん、確認したらアルマ様作のダンジョンだって。最下層が50階で、そこに行けば地上に帰れるってさ。お父さんたちがいるのが45階で、38階にミーシャさんとあの人がいるみたいだからからちょっと拾ってから合流するね)
(そうか、わかった。しばらくここで待っている。ナリス、あいつを頼む)
(うん。ま、一応血縁者だしね。ちゃんと拾ってくるよ)
ナリスはレイとの会話を終わらせるとまずは38階へと戻る階段の方へと歩き出した。
このダンジョンは自然の物ではなくアルマが必要に応じて作ったものなので、階層によって環境が違うということもなく、ただ淡々と洞窟が続いていっている。先ほど魔力を広げた時に階段は見つけておいたのでそちらを目指しててくてくと歩いていった。
(でも何で王妃はここにボクたちを落としたんだろ)
あのメンバーと直接やり合うのはさすがに不利と感じたのだろうか。でも王妃は自信に満ちていたのでそんな感じは受けなかった。
(……ミーシャさんにむかついた、とか?)
ミーシャはレグルスの皇妹なので下手に死体が見つかろうものなら間違いなく報復が行われてフォラスは焦土と化すだろう。でも死体が見つからなければただの行方不明者扱いだ。レグルスの追求は知らぬ存ぜぬでかわせばいいし、フォラスは黒の森が近いから魔物にでも殺されたのでは、とでも言っておけば何の証拠も無い以上どうにもならないだろう。
(それが狙いかなー)
レイやエドワードまで一緒に落ちてきているが弱ったあたりで回収にでも来るつもりなのだろうか。
恩着せがましく、わたくしが助けてあげましてよ、とか言って。
(…やりそう)
あいにくこちらはナリスも一緒に落ちてきているので、箱庭でどうとでもなるのだが王妃はそんな事は知らないのでダンジョンでさ迷えばいいとでも思ったのだろう。
インベントリにテントも入っているから、そこに箱庭の入口を繋ぐだけで脱出自体はすごく簡単だ。
(いざとなったらエド様とあの人には眠ってもらって、さっさと出て行こう)
アルマから魔物がいないと聞いていたのでナリスは考え事をしながら歩いていた。
だから、油断していたナリスがはっと気が付いて見上げた時には放物線を描いて数多の弓矢が降り注いできた。
(しまった。油断してたや)
「吹け、風の竜」
ナリスがすぐに風の魔法を放った瞬間、白いマントを羽織った人物がナリスをかばうように目の前に現れた。ナリスの風魔法に煽られてマントの頭部が翻ってすべり落ちてナリスと正面から目があった。
印象的な緋色の瞳
「……しゅ…て………」
瞬間、脳裏に蘇ったのは古の記憶。
闇の中に浮かびあがる篝火と響き渡る弓弦の音
追い立てる人々の騒がしい声
消えゆく悲鳴
逃げ遅れた子供をかばった自分をさらにかばった女性の緋色の瞳
口元は溢れる鮮血に彩られ、その背には異形の神のように多くの弓矢が刺さっていた。
倒れ込んできた彼女を抱きしめて見上げた三日月のほのかな光
「大丈夫か?坊や」
昔の記憶に引きずりかけられたナリスにそう声をかけてきたのは自分をかばった女性だった。
だがその背には記憶の中のように弓矢は刺さっていないし、その顔立ちも彼女とは全く違った。
(しっかりしろ”ナリス”!!あれは昔。今のボクはナリスだ)
ナリスはパシっと顔を叩いて自分を正気付かせた。
「うん。ありがとう。あれ何の弓矢?」
「どうやらあいつらのようだ」
女性が見ている先には、何十体という人形軍団がいた。人形といっても精巧に作られた物ではなく、マネキンの群れ。
「うわ、気持ちわる。魔物とはちょっと違う感じだけど、王妃ってばアレにボクたちを始末させようとでも思ったのかな」
傷つけば逃げ出す生物と違って壊れるまでどこまでも追ってくるであろう人形たち。ちょっとホラーな光景になりそうだ。
「えーっと、お姉さん。ボクはナリス。どうしてこんなところにいるのか知らないけど、取りあえずあいつら倒すまでは仲間でいいのかな?」
「…ルクレツィアだ。ひとまずはその認識でかまわない」
黒い髪と緋色の瞳を持つ女性ールクレツィアとナリスは人形たちに向かって剣を構えた。