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生と死の神・アルマ

大雪と寒さに気を付けてください。良いお年を。

 レイノルドとセバスの前に現れた男は一目で人外の存在、それも上位の神のうちの1柱だということが判る。身の内から自然と沸き起こるのは畏怖と敬意。我知らず片膝をつき、まるで主君に対するように礼を取った。

 

 記憶に間違いがなければ、神々の中で黒い髪と瞳を持つとされている方は唯1柱。

 ただし、その方は有史以来一度も人の世に降臨したことは無く、その姿にしても、他の神々やたまにいる寿命が尽きる前に死後の世界に誤って逝きそうになった者がわずかに垣間見た姿を伝えているだけにすぎず、実際にその姿を見た者もその声を聞いたことがある者さえも皆無だという。

 彼の神に仕える神官たちでさえその声を聞いたこともなく、ただただ祈りを捧げてる日々を送っているのだという。

 

 生と死を司る神、アルマ

 

 創造神スーリーが最初に生み出したとされる神。

 伝承では、本来、命の神と死の神、2柱の神が生み出されるはずだったのだが、創造神は2柱分の力を1柱にして生み出したのだという。

 そして彼の神は創造神に匹敵するほどの強大なる力を持ち、それゆえに人の世には関わろうとはせず、決して召喚には応じないのだという。

 実際にはアルマを召喚しようと思ったら、それこそスーリーの召喚にも匹敵する対価が必要となるため、どの術者も魔力不足なだけだった。ついでに本人の証言により、奥方は元・人間ということが判明している。


 そんな召喚に膨大な魔力を必要とする存在をあっさり呼び出したナリスを抱っこして生と死の神アルマは、ちょっぴり困ったような顔で2人を見下ろした。


「よい、楽にせよ」


 絶対的上位者、その声を聞くだけでそれと理解できてしまうアルマの言葉に少しだけ緊張を解き、決して頭を上げることなくレイノルドは尋ねた。


「恐れながら、生と死を司るお方とお見受けいたします。何故このような場に御降臨なされたのでしょうか?」


 自分を畏れ敬いながらも言葉を紡ぐレイノルドに、アルマは、やはり自分と奥さんが気にかけている人物だけあってきちんとしてるなー、などと呑気に考えていた。


「2人とも立つが良い。そのままでは私が話しづらい」

「は。では失礼いたします」


 そう言ってレイノルドとセバスは立ち上がりアルマを正面から見た。


 アルマの姿はまさしく黒一色。


 髪も瞳も身に纏った少しラフな感じの軍服のような服も黒で統一されている。

 黒一色の装いの中で、白皙の美貌がさらに静謐な雰囲気を感じさせていた。


 この方が生と死の神・アルマ様

 生と死、誕生と終焉を司る神。そして、その腕の中できゃっきゃっしている赤ん坊。

 

「ナ、ナリス?申し訳ございません」


 そう言ってナリスを受け取ろうとしたレイノルドにアルマは首を振った。


「良い。この子は私の腕の中でかまわない。あー、先に言っておくが、今回、私を呼び出したのはこの子だ」

「「は?」」


 アルマの爆弾発言にレイノルドとセバスは固まり、ナリスはあぶあぶとアルマに抗議の声を上げた。


「……えっと、その、ナリスが御身を召喚した、ということですか?」


 神本人を前にして、許可なくその名を呼ばないようにしているところも大変好ましい。

 

「レイノルド・ウォルフ・ラグナ、セバス・ウィード、2人には我が名を呼ぶことを許そう。事情は説明するが、その前にまずはお説教だ」


 思いもかけず神よりその名を呼ぶ許可を得たが、まずお説教?どういうことだ?と思っていると、アルマは腕の中のナリスに目を向けた。


「ナリス様、私、ちゃんと言いましたよね。上位の神の召喚ほど大量の魔力が必要になる、と。これでも私は上位の神にあたるので、その召喚には本来、国家規模の術とへたしたら国単位での魔力の対価が必要になるんですよ。え?召喚出来たからいいじゃん?そう言う問題ではないんです」


 上位の神どころか創造神スーリーの次席の神にしてその右腕とも称されている神は赤ん坊に向かって説教をたれていた。


「ナリス様は単独で私を召喚出来てかつ魔力も失ってないどころか、まだ垂れ流し状態なんですよ。そんな存在がバレたらどの国も欲しがってお望みのひっそりこっそり計画なんて夢のまた夢です。儚く消え去ってますよ」


 その言葉に焦ったらしいナリスがぺしぺしとアルマの腕を叩いている。


「何を言っているんですか。ちゃんと止めたじゃないですか。人の話しも聞かずにさっさと私を召喚してくれやがってくださったのはナリス様ですよ。諦めてください。はいはい、この2人には説明しておきます」


 ふうっとため息をつく姿さえ麗しい生と死の神とかわいい甥っ子はどうやら会話が成立しているらしく、アルマの言葉から察するに、


 ナリスがひっそりこっそり計画を立てる→何らかの理由でアルマ召喚をしようとする→アルマ、止めようとするが無理だった→単独での召喚成功←いまここ。


 こんな感じだろうか。いや、そもそもどうやって会話しているのだろうか。それにアルマがナリスに向かって敬語使ってるし、ナリス様、とか呼んじゃってるし。

 密かに混乱している2人にアルマは向き直った。


「さて、待たせたな。2人には事情は説明するが、これから先のことは機密事項だ。制約をつけさせてもらうぞ」

「「は」」


 神自らの事情説明だ。当然ながら言えぬこともあるだろうが、何も言わずに一言「やれ」と言うだけで済むことをわざわざ説明してくれるという。アルマという神は誠実な神なのだろう。ナリスを見つめる瞳も慈愛に満ちているし、自分たちにも気を使い神気を抑えてくれている。でなくばあふれ出る神気で、自分たちが意識を保っていられたかどうかも怪しい。


「この赤ん坊、ナリス様だが、少々事情があってこちらの世界にお招きしたが、本来なら我らとは異なる世界の神の御子でな。見ての通り、私を軽々と召喚できるほどの魔力を有している」


 ちょっと遠い目をしながらアルマは語り始めた。


「ナリス様には自由に生きていただきたい、それがスーリー様を筆頭とした我々の総意だ。その意思を阻むものは我らの名において厳罰に処してかまわない。だが、ナリス様は異なる世界より来られた方だ。有している知識もこの世界のものでは無いし、常識も全く違う。2人にはナリス様を『常識ある方』として育ててもらいたい」


 常識ある方?今、非常識なことをあっさりしたばっかりの赤ん坊じゃなかったっけ?

 

「ナリス、いえナリス様を我々が、ですか?」

「うむ。あぁ、ナリス様ご本人が呼び捨てにしろ、とのことだ。『お父さん』が息子に様をつけるのはおかしいだろう、と」


 お父さんーここ数日、必死で子育てを覚えてきたが、ナリス本人も父として認めてくれていたようで、うっかりレイノルドは感動してしまった。


「レイノルド」

「は」

「そなたにかけられた呪術だが、私が解呪する。そもそもナリス様はそのために私を呼び出したのだからな」

「アルマ様が解呪を?」

「そうだ。呪術は元々、私の管理下にあるもの。人がかけた呪術など解呪は容易い。ナリス様が、バレたくない、などどいって私を呼び出したが、むしろバレバレにしかなっていない」


 有史以来一度も召喚に成功したことのない神様を呼び出しておいて、自分には何の力もないんだよ、ひっそりこっそり生きるんだよ、とはこれ如何に。

 ナリスはレイノルドのことを”天然のうっかりさん”と評価していたが、アルマに言わせればナリスだって”天然のうっかりさん”だ。軍神殿の苦労が偲ばれる。


「しかし、解呪には対価が」

「対価はかけた本人たちが払うものだ。私を呼び出した対価もナリス様が十分に払っている。此度はナリス様に甘えてそなたはおとなしく解呪されておけ」


 そう言ってアルマは右手の人差し指をレイノルドの額に押し当てた。

 そこからアルマの力が体内に満ちていく。

 不可思議な、それでいて心地よい波動の魔力が身体中を満たした瞬間に、自分を縛っていた不可視の鎖がきれいさっぱり消えていくのがわかった。 


「あ、しまった」


 そんな声が聞こえてきて、は?とアルマを見ると、麗しいお顔がこてんと首を傾げた。


「失礼ながらレイノルド様。こちらをご覧ください」


 今の今までアルマとレイノルドの会話を遮ることなく見守っていたセバスに手鏡を渡される。


 そこに映っていたのは、今までと全く異なる自分だった。


 ずっと病人のように顔色が悪く、目の下に大きな隈もあったのだが、それがきれいに無くなっている。

 少々頬がこけて、全体的に肉付きも悪くなってはいるが、それはこれからまた鍛えなおしていけば良いだけのことだ。

 ただ、今までは金の髪にアイスブルーの瞳だったのが、鏡の中の自分はアルマやナリスと同じ、黒い髪と黒い瞳に変化していた。


「アルマ様、これはいったい…」

「うむ、やりすぎた」


 生と死の神様はどうやら力加減を間違えたらしかった。


「そなたの解呪のついでに、身体や魔力の方も少々浄化しておこうと思ったのだが、どうやら力加減を間違えたようだ。何せ私も直接やるのは初めてだからな。まぁ、許せ」

「とんでもございません。こうして解呪していただけましたことだけでも幸いです。それに、これでナリスとおそろいです。父子と言っても不自然ではなくなりました」


 レイノルドがそう言った瞬間にナリスがハッと何かに気づいたらしく、アルマの腕を再びぺしぺし叩いた。


「は?レイノルドのステータスを視ろ?ーあぁ、称号に私の加護がついたか。これが変化の原因か。つまり私の加護があれば、黒い髪、黒い瞳でも不自然では無い、ということか。もちろんナリス様にもお付けしますよ。ナリス様には愛し子を付けておきます。こうしておけば、精霊たちがナリス様の事を愛し子様と呼んでも問題ないでしょう」


 アルマはナリスにも同じように額に指を押し当てた。


「ナリス様のステータスは色々隠してあるが、隠されたステータスの中には、スーリー様の愛し子、という称号がある。スーリー様の愛し子だと周りが騒がしくなるだろうが、私の愛し子の称号を出しておけば、まだ騒がれないはずだ。父には私の加護、息子は私の愛し子、これで色々と誤魔化しきれ」

「は」


 聞きたいことは色々あるが、もはや許容範囲を超えている。異なる世界の神の御子、創造神スーリーの愛し子、隠されたステータス。ついでに自分に与えられた、生と死の神アルマの加護。どれからどう聞いていいのか分からない。

 そしてこの場にいる誰もが忘れていたが、アルマは有史以来一度も召喚されず、その姿は伝聞のみで、その声を聞いた者もいない。そして今の今まで誰にも加護や愛し子の称号を与えたことが無いのだ。スーリーの加護を持つ者は稀に現れるし、スーリーの愛し子も歴史上唯1人だけだが存在していた。レア度でいったら確実にアルマの加護と愛し子の方が高いのだが、冷静そうに見えて実は内心うろたえていた2人と、人の世に関わらないようにしてきた神様と、そもそもこの世界の常識やら事情やらに疎い異世界産の神族はそのことに全く気付いていなかった。








 

 


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