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岩の記憶ー3ー

本日2度目です。

 また、場面が変化した。


 アンネマリーが欠片の岩の方に魔力を流しているのだが、片手を岩に当て、もう片方でエリックの手を掴んでいる。


『がぁぁぁぁ!!』

『まぁ、情けない声を出さないでください。仮にも自称この国の王ともあろうお方が』


 アンネマリーは容赦なくエリックから魔力を吸い取っているようだった。元々、フォラスの王はそういう役割を持っていたのだ。近年は必要がないので役割を放棄していたが、今はきっちり役割を果たしてもらっている。


『この程度の魔力で王を名乗るなんておこがましくてよ。せめてレイノルド様くらいの魔力は無くてはね』


 かつての婚約者にして、この国で最も魔力量が多かった人物。彼もラグナと王家の血を引いていたのだ。本来なら彼がフォラスの王となってもよかったはずだ。最もだからこそ、エリックはレイノルドを排除したのだが。

 欠片の岩に魔力が注がれて、その岩から直系1㎝ほどの小さな球体が転がり出てきた。


『仕方ないこと。目一杯注いで、この玉1つしか生み出せないなんて。あまり使えない方ね』


 岩の記憶を覗きみたアンネマリーはかつての国王たちが多くの魔力を注いで、これと同じ玉をいくつも生み出していたことを知っているので、ぎりぎりまで絞りとってこれ1つしか生み出せないエリックには失望しかなかった。

 人族至上主義が集まって出来た国とは言え、当時の王族たちが膨大な魔力を持っていたのは事実だ。当時、このあたりはスタンピードが起こったり時代的にまだまだ安定しいていなかったので多くの戦いがあり、そのたびに王は自ら魔力を注いでこの玉を生み出していた。


『さ、次はヴァル様ですわよ』


 エリックの横にたヴァルに手を差し伸べて掴むと、こちらも容赦なく魔力を吸い上げていく。


『ッツッツッツ!!!』


 エリックのように声は上げなかったが、膝をつき耐えていた。


『ヴァル様でもこの程度ですものねぇ』


 ヴァルの魔力で生み出されたのは2つの玉。合計3つの玉を岩から取り出すと、アンネマリーは1つを自ら飲み込み、2つ目を腹部のちょうど子宮にあたる部分に当てて吸収させると3つ目を持ってこの場にいる最後の1人の男の方を向いた。


『これをお飲みなさい』


 男は王家の血を引く男性の中では魔力量が一番大きい者だった。だからこそ、王妃の相手に選ばれた。


『簡単なことよ。これを飲んでわたくしと子作りをすればいいの。そうすればあなたの家族の無事は保障するわよ』


 人質を取られている男は意を決して玉を飲み込んだ。


『それでいいのよ。ああ、楽しみだわ。この実験でどんな子供が生まれてくるのかしら』


 アンネマリーは楽しそうに笑うと男を自らの元に誘い込んでいった。




 さらに場面は転換して、今度はアンネマリーの前に2人の子供がいた。


『あなたたちもラグナ家の子供なら覚悟を決めなさい』

『王妃様、せめて弟だけでも許して下さい』


 年長の子供の方が弟をかばいながら訴えた。


『あら、ダメに決まっているじゃない。あなたたちはまだまだ魔力が足りないもの。2人でようやく一人前、といったろころかしら。生み出された石に方向性を持たせる方法がようやくわかったのよ。最適なのはあなたたち2人よ』


 当然のごとく王妃に却下されて、少年は弟をぎゅっと抱きしめた。


『お父様であるヴァル様も承知しているのよ。今更何を言っているのかしら』


 父によって王妃に引き渡された子供2人は岩の次の生贄だ。

 あの日、ただでさえ魔力の少なく1つの玉を生み出すのがやっとの国王エリックがヴァルとともにさらにその魔力を失くした。レイノルドの呪術返しの影響だが、アンネマリーの誤算の1つでもあった。でもその代償としてラグナ家の子供をヴァルからもらった。まずはこの2人の子供たちだ。この子供たちはそれぞれサラマンダーと火の聖剣イフリートの主だ。火魔法に特化した子供2人の魔力と欠片の岩にサラマンダーとイフリートを封じる事で生み出される魔石は火属性になるはずだ。


『さっさとサラマンダーとイフリートをお出しなさい』


 年長の子供ーアルフレッドが観念したように目をつぶると、サラマンダーが現れた。弟のアレスも恐る恐るイフリートを差し出した。アンネマリーはサラマンダーを掴むとイフリートを片手に持ち、そのまま欠片の岩に縫い付けるようにイフリートでサラマンダーを貫いた。


『きゅいいいいいーーーん』


 サラマンダーの悲痛な叫び声が響いた後、欠片の岩にサラマンダーが一体化するように石化して表面に浮かび上がり、刺したイフリートは粉々く砕け散っていった。


『サラマンダー!!』


 アルフレッドの叫び声が響いたが、もはやどうにもならない手遅れの状態だ。


『ぼくのイフリートが…』


 聖剣が精霊を貫き砕け散るというショッキングな出来事にアレスは茫然とした。


『準備が出来たわよ。さぁ、魔力を注ぎなさい。あなたたちが気を失っても許してあげないんだから』


 昔話に出てくるような悪魔そのもののような笑顔でアンネマリーは子供2人の手を掴んだ。




(ずいぶん歪んだなー)

 

巨大な岩とその欠片の記憶を漂いながらナリスはため息をついた。


(最初と最後の使い方の差が激しすぎる)


 最初に見た魔道王国の王とラグナ家の当主は魔力を注ぐ事で生み出されている魔力を凝縮した魔石を自らや部下に飲ませて黒の森からのスタンピードと戦い抜いたのだろう。時代が下がったあの女性当主もその力を持ってスタンピードや各国との闘いに身を投じたのだろう。皇国の宰相との淡い恋の物語が気になるところだが、それぞれが別の人間と結婚していることからもその恋が実らなかったのはわかる。恋を引きずっていそうな宰相をどうやって皇帝の妹姫は口説いたんだろうか。それとも政略的結婚?にしては、皇帝の日記の記述と合わないから、何とかして口説いたんだろう。アルテミシアもそうだが、すごいな皇帝の妹姫。腹の据わり方と行動力が半端なさそうだ。

 そして、最後の光景。エリックとアンネマリーとヴァル。正しく伝わっていないとはいえよくもまぁ、あれだけ岩を汚し続けたものだ。ラグナ家の当主が岩との最初の契約で血と魔力を流したのは、いわばその血統による契約としてだ。その時以外は特に岩に血を注ぐ必要などない。

 むしろ、血は穢れにも通じ、必要以外の血の流れは魔法陣や巨大な岩そのものを歪ませた。

最後、というか真の封印を過去の女性当主が未来の愛し子たるナリスに託したことで、本体そのものの穢れは防げていそうだが、それでも表面はずいぶんと汚されているようだ。


(封印、解いた方が早いかなぁ。鍵はボクだし。あ、ユーリ連れて来なくても良かったじゃん。でも、前提となる血統封印2つはユーリに解いてもらわないとダメだし、やっぱり必要だったか)


 そしてエドワードの妹、ジョアンナがどうしてああなったのかもちゃんと理解した。

 ジョアンナに直接魔力を流して視た時に出てきたのは、この世に出現した時点、つまり受精卵の時より任意で大量の魔力を浴び去られ続けていたということ。いや、それ以前に宿った子宮ごと人外のそれに変更されていた。そんな状態で生まれた娘が普通のはずがなく、人より生まれ出でたにも関わらずジョアンナは生まれながらの魔物だった。それも歪んだ魔素を持つ魔物だ。このまま成長していけば間違いなく暴走してその死に際に大量の歪んで変質した魔素をまき散らすのが目に見えている。

 だからこそ、ナリスはアルマの許に送ると決めた。

 好きな事をすればいいと言ったのは、せめてそれまで自由に生きて思い出の1つも作って欲しかったからだ。


(動機と原因は単純だったんだけどねぇ)


 国王エリックとヴァル、2人のレイノルドに対する嫉妬と国王の傲慢。たかが小国の王が夢見たことが覚めないまま突き進み、それが犠牲を生み出した。そして、元凶の2人は煽るだけ煽ったくせにそれを止める術を持たないポンコツだった。



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