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血統封印

花粉がしんどい季節になってきました。負けないようにひそこそで投稿していきますのでよろしくお願いいたします。

 普段は静かなエドワードの部屋の中が今日は自分以外の声でとてもにぎやかだ。

 ナリスとユーリはサンドイッチをつまみながらエドワードと話していた。


「エドワード様、嫌いなものとか苦手なものとかある?」

「……大丈夫だ。基本は何でも食べれる」

「ホント?無理しなくていーからね。ボクは野菜の青臭いのが苦手ー。ユーリは?」

「え?うーん、生臭い系の魚」

「あー、それ分かる。匂いでちょっときちゃうよね」


 わいわいとしゃべりながら食事をするなど、エドワードは初めての体験だった。いつも1人か、マナーの練習も兼ねて教師と一緒に食べるくらいしかしたことがない。


「…食事、とは楽しくて、美味しいのだな」


 手に持ったサンドイッチを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。


「そうだよねー。マナー講習を兼ねての食事だと食べた気にならないし、味もよくわかんないよね」


 さすがに皇子様は同じ思いをしたことがあるようだったので共感が早かった。


「食事時間も厳しく言われちゃうの?ボク、ド庶民で良かったよー」

「ナリス、それはさすがに設定にムリがあるって」


 自分の事をド庶民と評したナリスにユーリは冷静なツッコミを入れた。ナリスがド庶民ならこの世界に特別枠の人間がいなくなってしまう。


「ボク、絶対、お貴族様の堅っ苦しいお食事会には参加しない!」


 妙な宣言をナリスはしたが、ここのところずっと一緒にいるユーリはナリスのマナーがちゃんとしているのを知っているので、いざとなればどうとでも出来るだろうと思っている。

 アマーリエさんの目はとても厳しいのだ。


「ふ、お前たちは仲がいいな。幼馴染か何かか?」

「知り合ったのはちょっと前だよ。でも、まだ幼馴染の枠でいけるから、これからもたくさん一緒に遊ぶ予定」

「そうか。うらやましいな」


 寂しそうにエドワードが微笑んだ。


「エドワード様には幼馴染枠のお友達はいないの?」

「いないな。そもそも、似たような年齢の子供とあまりしゃべったことがない」

「そういうもんなの?王子様って、近い年齢のお友達が勝手に増えるもんだと思ってた」

「他はどうか知らないが、この国では私に近づく者はいない。妹のところにはいるようだが」

「妹さんいるの?」

「……会ったこともないがな。一応、いるらしいぞ」

「会ったことないの?妹さんなのに?」

「ああ」


 ナリスはびっくりしてまじまじとエドワードの顔を見てしまった。

 いくら家族の絆が薄いとはいえ、実の兄妹が今まで一度も会ったことがないとはどういう事なのだろうか。側妃がいるという話しは聞いたことがないので、恐らくは同母の兄妹のはずなのに、たまに赤の他人から近況を聞くだけとはこれいかに。


「普通は会わない?」

「普通がよくわからん。そもそも家族揃って食事とかしたことないしな。こうして誰かとしゃべりながら食べるのも初めてだ」

「…マジですか?」


 さすがに同情したくなってきた。国の第一王子なのに扱いがひどい気がする。


「エドワード様、いつも何してるの?」

「主に勉強やマナー講習だな。運動は…聞かないでくれ」


 根っからの文系引きこもり体質らしい。まぁ、でなければこの年齢でここまでの蔵書も持っていないだろうし、読破もしていないだろう。


「ちなみにご兄弟は?」

「さっきも言ったが、妹が1人いるらしい。後は、知らんな」


 もはやほぼほぼ監禁状態じゃないのだろうか。


「妹は同じ母から生まれている。確か10歳だったかな。噂によると、わたしよりも活発らしい」


 エドワードより活発、というよりもエドワードの方が13歳にしては落ち着きすぎている気がする。

 申し訳ないが、そのぽっちゃり感と相まってものすごく安心感がある。声も落ち着いていて好感がもてる声だ。


「エドワード様、王宮内がおかしいのは気付いてる?」

「……あぁ、いくら部屋からあまり出なくても、さすがにおかしいのは気付いてたさ。母上もいつの間にか魔力がすごいことになっているしな」


 一応、エドワードは王宮内と母である王妃の様子の変化には気づいていた。だが、気づいたところでエドワードではどうにもならないことだった。エドワードに出来たのは自分の身は自分で守ることと、王妃から送られてきた子供2人を保護することだけだった。


「いつからおかしくなった、とか分かる?」

「そうだな。だがその前に、ナリス、それにユーリ、お前たちはどうしてここに連れてこられたのだ?」

「ボクのお父さんが王妃に捕まっちゃったみたいでさ。取り返しに来たの、ユーリはついでに巻き込まれただけ」


 いつも通り、簡潔すぎる説明をナリスはしたが、さすがにユーリに小突かれた。


「ダメだよ、ナリス。もうちょっとちゃんとエドワード様に説明しないと。エドワード様にも絶対関係してくるんだから」

「……はーい」

「しゃべれる範囲で構わないぞ。わたしではどうにも出来ない事が多すぎる」


 自分は無力なのだ、と寂しそうに笑ったエドワードに、ナリスはつい頭をなでなでした。


「だいじょーぶ。エドワード様は無力なんかじゃないよ。自分をちゃんと守ってきた。この状況の中で第一王位継承者である自分の身を守ることは重要だよ。古い王家の血が意味も無く流れたら、どうなるかわかったもんじゃない」


 魔道王国に連なる古い王家の血には何かしらの血統封印を持つ者が多い。血統封印とは、魔道王国の歴代の王が施した封印術の1種にあたり、血の中そのものに何かを封印したり、その血を鍵として特定の場所に何かを封印するという術だ。その”何か”は、色々あり、時には魔物であったり、禁術であったり、曰く付きの物であったりと様々なものが封印された。血統封印をほどこされた場合、その封印は子々孫々に受け継がれていくことになり、たいていは一族の長やその跡取りに血統封印は受け継がれていく。

 それは古い王家に伝わっている事が多く、フォラスも例外ではなく、代々の王と第一王位継承者にのみその血統封印は受け継がれていた。フォラスの血統封印の場合、その名と血を鍵とした2重封印。エドワードは自分に流れる血がフォラス王家に伝わる封印術の鍵となることは知っていたので、少なくともこの王宮内で血を流すわけにはいかなかった。父の方の封印はすでに解かれた可能性があるが、自分の方はまだ解かれていない。だからこそ、自分の身だけは守ったのだ。


「王家の血統封印のことまで知っているのか?」

「ま、多少はね。もちろん、封印されているのがに何なのか、とかどういう封印形態なのかは知らないけど、フォラスやレグルスが魔道王国の支配下にあったことは知ってるし、フォラスの封印が解かれた、って話しはきいたことがない」

「そうだ。フォラスのは場所指定の封印型だ。名と血による二重封印。鍵となるのは王と第一王位継承者の血だ。ついでに言うなら、封印の場所は、ここ。この王宮内だ」

「うわー。鍵と鍵穴が常に一緒に存在してるんだね」

「そうだ。わたしの封印は解けてはいないが、父上のは恐らく解けている」

「何が封印されてた、とかは?」

「さすがにそれは知らないな。…恐らく、その力は母上の元にあるのだろうな。でなくてはこの状況は説明がつかない」


 王妃の魔力の増大は封印されていたものが関係しているのだろう、そう思ってはいたのだが、自分の身を守ることが、半分だけになってしまったとはいえ封印を守ることに繋がる為、必死だったのだ。


「王宮のどこらへん、とか分かる?」

「さてな。だが、母上の部屋に人の出入りは多いようだ」


 王妃なのだから当然かもしれないが、王宮全体がこんな状況になっているのに、母の部屋にだけ大勢の人の出入りがあるのはおかしいのだ。不自然な状況なのはわかっていたのだが、エドワードは今の今まで見て見ぬ振りをしてきた。均衡が崩れたのは目の前の子供2人の存在だ。今はエドワードの均衡を崩した。次に崩れるのはどのタイミングなのか、エドワードは図りかねていたのだった。 

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