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王妃様とのご対面

「着いたぞ、降りろ」


 馬車の外からどんどん、と叩かれて扉が開かれた。

 ユーリと2人で外に出るとそこはすでに王宮の中だった。見回しても精霊たちの気配は一切ない。前世でいうところの曰く付きのホラーハウスとか廃墟にきた雰囲気だが、そこで大勢の人が無言で働いていることがさらに不気味さを加速させている。


「よく、こんなところで生きてられるね」

「だよね。静かな雰囲気とか通り越しちゃってるよー」


 ユーリもそう感じたのか、少し顔色が悪くなっている。


「変な事は考えるなよ。こちらだ、付いて来い」


 ここまで連れてきた子爵の男が王宮の奥へと歩いて行くのを2人で付いて行く。途中ですれ違う人は全て無の表情で動いている。


「……お人形みたいだ」


 ユーリの感想にナリスもうなづいた。やがて大きな扉の前に立つと、子爵は衣服の乱れを整えて入室の許可を得るとその扉を開いて前へ進み、片膝を付いた。


「王妃殿下、お待たせいたしました」

「あらあら、その子たちはアークトゥルスで見かけた子供たちね。あぁ、やはり良く似てるわ」


 玉座で微笑む20代くらいの女性。レイと戦闘しているシーンで見た女性がそこにいた。

 フォラス王国の王妃アンネマリー。今回の元凶と思われる人物。


「は、連れてくるのにいささか苦労いたしましたが、王妃様の願い通りここに連れて参りました」


 子爵は自慢気に答えているが、王妃はすでに子爵には関心を持っておらず、ナリスとユーリの方を見ている。正確にはナリスの事を、だ。子供2人は特に王妃に礼を取る素振りも見せずに王妃を見ていた。


「本当によく似ているわね」


 今、王宮の奥深くで眠りについている婚約者と良く似た面差し。当然だ。書類上の父子であり、血縁上では伯父と甥の関係なのだから。黒髪の少年は血縁上の父親より育ての親に似たらしい。


「貴方方、お名前は?」

「ナリス」

「ユーリ」

「そう、ナリスとユーリというのね。ナリス、貴方、わたくしの婚約者の方の息子よね?」


 貴族的微笑みではなくて、ごく自然な微笑みでアンネマリーはナリスに問いかけた。


「お父さんの元婚約者って貴女なの?」

「元、ではなくて、今も、なのだけれどね」

「えー、他の男と結婚してるし、お子さんもいるじゃん」

「仕方ないわ。わたくしはこの国の王妃ですもの。わたくしからこの国の王子が生まれなければいけなかったのですもの」


 せっかく王妃になったのだから、この国の次代の国王を生まなければ何の意味もない。

 1人目が王子だったので、やかましい宮中雀どもの口を閉ざせたのは気持ちが良かった。


「お父さんはどこ?」

「安心してちょうだい。今は眠っているだけよ」

「会わせてって言ったら会わせてくれる?」

「もちろん、ダメよ」


 傍で会話を聞いていたユーリは、にこやかに交わされる王妃とナリスの会話が実に白々しくて、その内さらっと毒を吐きそうだよね、と思ってしまった。もし自分が、皇宮内でこんな殺伐とした感じの会話を聞いたらきっと泣いてしまう。自分に向けられた日には日記がまるっと1ページ分ナリスに対する愚痴で埋まる自信がある。


「ふふ、そうだわ、エドワードにこの子たちを上げるから連れて行きなさい」

「エドワード殿下にですか?かしこまりました」


 王妃が一方的にそう決めつけると、子爵の男はそれに従いナリスとユーリを玉座の間から連れ出していった。子供たちも特に抵抗なく付いて出て行った。


「おほほほほ、おほほほほ」


 子供たちが出て行くと、玉座の間にアンネマリーの笑い声が声高に響いた。


「あー、おかしい。今のレイノルド様と同じ黒い色彩を纏っているせいかしら。伯父と甥の関係のはずなのに、本当によく似てらっしゃるわ。そうは思いませんこと?ねぇ、ヴァル様」


 玉座の間の隠し扉からヴァルが出て来て王妃を睨みつけた。


「くすくす、捨てたはずの息子さんのご感想はいかが?黒い髪と瞳なんて、話しに聞いていた貴方の息子しか思い浮かばなかったわ。貴方よりもレイノルド様によく似ているわね。わたくしのスキルが効かないあたりも本当にそっくり」


 アンネマリーはナリスとユーリに向かって密かに自身の固有スキルである「支配下」を発動させていたのだが、2人そろってアンネマリーの魔力を退けた。「支配下」とは自分より魔力量の劣る存在を自身の影響下に置くことが出来るレアスキルのことだ。


かつてアンネマリーはレイノルドに支配下のスキルを使おうとしたが、レイノルドはそれを悉く拒絶した。今ならば、と思ったが、彼の息子には一切効かず、そのお友達さえ支配下に置く事が出来なかった。


「どうしてわたくしの周りには出来の悪い方しか残らなかったのかしらね」

「…ッ!!」


 ヴァルは唇をぎゅっとかみしめたが何も反論することは許されていない。


「せっかくお見えになったのですから、兄弟にも会わせて差し上げないと」


 未だに笑いが止まらず目に涙を浮かべている。ナリスの兄弟は全員この王宮に滞在している。その自我はともかく、身柄は王宮内に留め置いてある。

 王国の第1王子であるエドワードはアンネマリーがお腹を痛めて生んだ息子なので、父親が誰であろうとも一応、それなりの愛情を持ってはいるが、たとえ何かのきっかけで亡くなったとしても惜しくもなんともない。だが、ナリスには妙な愛情を感じてしまった。生まれはともかく、レイノルドの息子、という認識があるせいか他の兄弟たちに感じた事のない感情が湧いてきた。


「おかしいわね。あの子に対するこれは母親の愛なのかしら」


 くすくすと楽しそうに笑うアンネマリーにヴァルは複雑な顔を向けた。


「ヴァル様もうれしいでしょう?初めて兄弟が全員そろったのよ」

「貴女は!子供たちを集めて何をしたいんだ?」

「特に何も?しいて言うのなら、あの子に兄弟を合わせてあげようかな、くらいかしら。死ぬ前には合わせたあげたいじゃない。一応、これでもわたくし、母親ですもの」


 ヴァルはアンネマリーを再度睨みつけたが、アンネマリーはどうでもいい事のように扇で笑いすぎて火照った顔を仰ぐとヴァルに下がるように手を振った。

 ヴァルはアンネマリーを見ながら、ぎゅっと唇をかみしめて玉座の間から退出をした。


「ナリス、貴方はどうするのかしらね」


 誰もいなくなった部屋で玉座に身を預けて、アンネマリーはくすくすと笑い続けた。



 「ねー、エドワード殿下って誰?」


 王妃アンネマリーとの対面を一応果たしたナリスとユーリはアンネマリーが言っていたエドワードとやらの元に向かっていた。


「我が国の第一王子殿下だ。王妃様がお生みになられた唯一の方で。間違っても先ほどのような態度を取るなよ」


 玉座の間でのナリスの態度に思うところはありすぎるほどあったが、王妃がそれを許していたのだから仕方がない。だが、今度の相手は第一王子だ。あんな態度を取られたら下手をしたら自分の首も飛んでしまう可能性もある、物理的に。


「ここだ。失礼いたします、殿下。王妃様のご命令により、子供を2名連れて参りました」


 扉越しにそう言うと、しばらくしてから入室の許可が出た。ただし、子供2人しか入ってはならない、と言われたので、案内役だった子爵の男は扉を開けて2人を室内に入れると自分はそのまま下がっていった。

 部屋に入ったナリスとユーリの前には1人の少年がいた。


「お前たちが、母上から送られてきた子供たちか」


 6歳の2人よりは年齢が上の少年。確かフォラスの国王夫妻には13歳になる子供がいる、と聞いているので、軽く自分たちの倍を生きているであろう少年だ。

 その外見は少しぽっちゃり体系で金の髪と緑の瞳の王妃によく似た面差しの少年であった。



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