表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/148

箱庭

ようやく、箱庭出せました。

 学園に通うというイアソンに騎士科掌握の指令を出して送り出した後、ナリスとユーリはいつもと変わらない日々を送っていた。

 黒い髪と青い髪のコンビは南ギルドでは有名な子供2人となり、隠れる気は一切無く、堂々としすぎていたので逆にユーリの事を狙う貴族たちの目からはそらされていた。


「さて、ユーリくん。今日はちょっとした冒険に出かけようか」


 ある日、ナリスは家での朝食後にそう宣言した。


「冒険?城門の外に出るのか?」

「城門の外は外なんだけど、出ないっちゃあ出ない」

「??意味がわかんない」


 ユーリがうさんくさい目でナリスを見たが、行けばわかるよー、と言ってナリスはにっこり笑った。


 朝食後、ユーリが連れて来られたのはナリスの隣の部屋の前だった。ちなみに反対側がユーリの部屋になっている。


「ここ?別に普通の部屋だろ?」


 前に一度見せてもらったが、物こそ入っていなかったがごく普通の部屋で冒険出来る要素は皆無だった。


「まあね。ユーリにボクの秘密の1つを教えてあげる。ユーリ、ボクは公にはなってないけど、アルマ様の愛し子だ」

「…!アルマ様の!?」


 ”愛し子様”自体めったに現れる存在じゃない。現れたらそれこそ国を挙げて保護しなければならない存在だ。しかも生と死を司るアルマの愛し子は現れた事が無いと習った。


「ボクの事を知っているのは家族と神殿でも教皇様を始めとした上層部だけだよ。アルマ様とボクがそう望んだんだ。……ボクが怖くなった?」


 色々規格外だとは思っていた。同じ年齢のはずなのに自分とはあまりに違いすぎる存在。


「驚いた。だが、怖くは無い」


 そう、規格外だが怖くは無い。ナリスはいつだってナリスとして行動している。今更”アルマ様の愛し子”だと聞いてもナリスが今までの態度を止めるとは思わないし、自分も”愛し子様”では無くて”ナリス”という存在と友達になったのだ。


「うん、わかった。ナリスは”アルマ様の愛し子”だが、その事は秘密なんだな。秘密を話してくれてちょっと、嬉しいかも」


 友達から秘密を打ち明けられて親密度が増した気がする。

 にやにやしたユーリに今度はナリスがちょっとうさんくさい目で見たが、ユーリが自分に恐怖感や疎外感といった感情を持たなかったのが、ナリスは照れくさくて嬉しかった。


「…ありがと。で、そんなアルマ様の愛し子であるボクにはアルマ様から頂いたスキルがあるんだよ。スキル名は”箱庭”、ユーリ見ててね」


 そう言ってナリスは部屋の扉を開けた。そこには何の変哲もない部屋が広がっているだけだ。

 ナリスは一度、扉を閉じると取っ手を握ったまま言葉を紡いだ


「ナリス・オウルの名において、ユリウス・イオ・レグルスに箱庭の使用を許可する」


 扉の取っ手が柔らかく光る。


「ささ、ユーリくん。扉を開けてみて」

「え…?う、うん」


 恐る恐る扉を開くと、そこには先ほどの部屋の室内では無くて、森が広がっていた。


「……えぇーー!!」


 思わず扉を閉じてナリスを見るとナリスはにやにやしているだけだ。

 もう一度、扉を細めに開いて中の光景を確認する。

 

 やっぱり広がっていたのは、どう見ても明るい陽射しの森の中の風景だ。


「………なりすさん?」


 説明求む。そんな感じのユーリにナリスは爆笑した。

 アルマから箱庭の存在をあらかじめ聞いていたレイとセバスはこんなリアクションはしてくれなかったし、アマーリエたちウィード家の者は驚いても表に出さないよう訓練されているので、ここまでのリアクションはしてくれなかった。本人たちは内心動揺がすごかったらしいのだが、そこはウィード家の意地を見せていた。


「このスキル”箱庭”はボク専用の森の家なんだよ。この地上のどこかにある場所らしいんだけど、アルマ様が選定した地に結界を敷いて、ボクが自由に出来る場所と家を用意してくれたんだ。好きな入口に空間を繋げられるんだけど、ここに行くには当然だけどボクの許可が無くちゃダメでね。この家ではここに繋げてあるんだ。ユーリにも許可を出したから好きな時に来ていいよ。扉を開く時に森の家に行きたいって思えば入口が繋がるから。そうじゃ無い時は普通のお部屋に入れるよ」


 いくらナリスが”アルマ様の愛し子”といえど、さすがにこれは規格外すぎる気がするが、神の寵愛は人によって恩恵が様々なので、そういうもんだと納得する事にした。


 もうこうなれば、これから先、何が起ころうとナリスだし、で済む気がする。


 皇都南ギルドの子供たちが早々に至った心境にユーリもようやく至った。


「さ、入ろ。森の家の中も案内するよ」

「わ、わかった」


 さすがに一歩目は恐る恐る踏み入れたが、地面の感触もしっかりしているし、濃密な森の匂いがしてきた。鳥のさえずりも聞こえるし、うさぎやリス等の小動物がユーリの方を見て鼻をひくひくさせている。


「……綺麗な場所だな」

「うん。さすがアルマ様だよね。いい所を選んでくれた。あ、ここにいる動物や魔獣や基本的にボクたちに敵意は無いから攻撃しないでね。敵意がない野生動物や魔獣、幻獣とかは入ってこれるんだよ。森の仲間とでも思っておけば問題ないよ」

「わかった」


 きょろきょろと辺りを見回しながらユーリはナリスに付いて行った。家では部屋の扉が出入り口だったが、箱庭側は1本の樹の幹に扉があり、そこが出入り口になっている。

 ナリスは出入り口の樹のすぐ横にある巨木にユーリを案内した。


「ここが、家。樹が丸ごとボクの家になってるんだ。中の空間も拡張されてるから見た目より中は広いよ。ユーリの部屋も出来てるんじゃないかな」

「へやができる?え、どーゆーこと?」


 もはや何が何だかわからなさすぎて言葉と思考が追い付かない。


「ここに招待された人にはなぜか1人1部屋、専用のお部屋が出現してくるんだよ。お父さんやセバスの部屋もあるし、ユーリの部屋も好きにしていいからね。出現直後だと、机と寝台くらいしかないから後でセバスたちに基本的な物は持ってきてもらおうか」

「ヨロシクオネガイシマス」


 片言でお願いしてみる。


「ここ、アルマ様の結界が張ってあるから魔法の練習とかもがんがん出来るよ」


 ギルドの奥にある闘技場の結界より強力な神の手による結界なので、人が生み出す魔法ごときではビクともしない。ただ、ナリスにはやりすぎ注意が出されている。

 

 樹の家は外側からみると、幹に扉や窓、煙突等がはまっていて、形さえ気にしなければちゃんと家のようになっている。窓から考えると3階建てのようだ。扉を開くと、入口の横に広めの台所と大きいテーブルとイスがセットしてあり、その奥がリビングのようでソファーやラグ敷いてある。


「あ、そだ。ユーリ。ここの家は基本的には土足禁止だから、入口で靴を脱いでスリッパを履いてね」


 玄関の所に棚が設置してあり、脱いだ靴をそこに収納するようになっている。少し段差がつけてありそこからが土足禁止エリアになっているようだ。元・日本人として、靴を履かない場所も欲しくて、この家は土足禁止にした。最初はレイたちも戸惑っていたが、案外慣れると良い感じらしく、皇都にある本邸でも土足禁止にしようかと本気で考えていた時期があった。さすがにそれはちょっと、という話しになり土足禁止はあくまで箱庭ルールとして守られている。


「すごい、としか言いようが無い」

「何か、いろんな人の趣味嗜好が集まってこういう感じになったみたい」


 主に、ナリスの実の母の趣味嗜好による。もっとも、ナリスも実際に暮らしてみた結果、だいぶお気に入りの場所と化している。ジ〇リ好きは一度はこういう家での暮らしを夢見るようだ。


「1階がリビングと台所、それと奥にお風呂があるんだけど、外に温泉があるから、そっちで入ってもいいよ」

「温泉?」

「そ、大地から栄養素たっぷりのお湯が沸き出ててね。アマーリエやメリアはお肌がツルツルになるって言ってたまに入りに来てるみたい。普通のお風呂より断然気持ちが良いから、今日は一緒に入ろうねー」


 皇都の本邸にあるお風呂も広めだったが、温泉とはまた別のもののようだ。何もかもが初体験となるユーリはうなずくしかない。


「2階は図書室とセバスたちのお部屋。ボクたちの部屋は3階にあるんだ。ユーリの部屋も3階だと思うよ」


 ナリスに連れられて3階に行ってみると、扉が並んでいてそこにネームプレートが取り付けられている。『ナリスのお部屋』の隣に『ユーリのお部屋』は出来上がっていた。


「ユーリのお部屋、覗いてみよっか」

「うん」


 ユーリのお部屋の扉を開けるとそこは明るい陽射しの入っている部屋になっていた。ナリスが言った通り、部屋の中にはまだ机と寝台しかない。後の家具や寝具はお気に入りを自分で持ってくる形だ。


「……ここがぼくの部屋なのか」

「そうそう。ユーリのお部屋。見つかるとヤバイ系はここに隠しておけば見つからないよ」


 それはもう隠すとかいうレベルじゃないだろう。この森の家自体が神の結界によって隠された場所なのだから。


「ボクのお部屋も見る?」

「見たい!」


 即答だった。隣のナリスの部屋に行くと、作りは同じようになっているのだが、家具が持ち込まれ、少し厚めのラグが敷いてある。ラグの上にはソファーと机が置いてあるのだが、机から毛布のような物が垂れ下がっていた。


「ナリス、あれは?」

「……コタツ、と言います。寝落ちします」

「寝落ち?どーゆーこと?」

「入ってみればわかるよ」


 ということでユーリとナリスはコタツの中に入った。


「天井に火の魔石が付けてあって、適度に温めてくれてんの。今はまだちょっと外も温かいからそうでもないけど、真冬にこれに入ったら二度と出て来れなくなるよ。そして気持ちよくてここで寝ちゃうんだよねぇ」


 ゆえに日本ではコタツ禁止のご家庭もあるくらいだ。


「……わかる気がする。足がぽかぽかしてきて気持ちいい。………ナリス、ぼくの部屋にもこれが欲しい」

「……了解。セバスに言っておくよ」


 何となく2人で静かにしゃべって、ユーリのお部屋にもセバス特製のコタツが入る事となった。

 ナリスは触れなかったが、各自の部屋にはすでにこれが設置されており、冬になるとコタツモリが各部屋で出現しているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ