ご家族らしき人々
誤字脱字等は見つけ次第、直していきます。
一通りステータスを確認すると、とりあえずヤバめのものを隠していく。
(全属性、とか絶対ダメだよね。あと、愛し子とかその辺も隠して、っと。属性は風と水くらいにしておこうかな。あんまり害はなさそうだし。あ、あと、何となくセカンドネームも隠しとこうかな。よし、こんなもんか)
日本的に、真名、という考えが浮かんだので隠しておく。魂は別の真名を持っているが、この世界の身体に引きずられてしまう部分はどうしてもある。だからこそ、信頼できるかどうかもわからない相手に自分に全てをさらけ出す気はない。まして、家族と言えどステータスに”疎まれている”と書かれているならなおさらだ。
ステータスの書き換えも済み、さて、お次は、などと思っていたら、扉の外で騒がしい気配がしてきた。
何人かの足音と声が聞こえてきたと思ったら、扉が勢いよく開かれた。
「これだ、早く鑑定しろ」
先頭で入ってきた金の髪を短くしている男が愛想のない声で部下らしき男に命令を下した。
「旦那様、ナリス坊ちゃまです」
THE執事、といった感じの初老の男性が短髪の男にそう言ったが、男はふん、と言うだけだ。
「名前などどうでも良い。これが私の役に立つかどうかが重要だ」
「旦那様」
何かを言いたげな執事を旦那様と呼ばれた男は視線だけで制した。
(コレが父親っぽいかな)
人をこれ呼ばわりした見知らぬおっさんの個人情報を守ってやる必要性など一切感じないので、サクっと鑑定してみる。
名前:ヴァル・イエル・ラグナ
種族:人間
年齢:30歳
ジョブ:ラグナ辺境伯、フォラス王国の騎士
LV:68
魔法:火属性LV:60、土属性LV:43、毒属性LV:32
スキル:剣技、呪術
称号:奪いし者
(スキルと称号に不穏な感じものがついてるじゃん、ってか、ボクの役には全く立たなさそう)
実の息子をこれ呼ばわりした父親も父親だが、異世界産の魂を持つ息子はそれをさらに上回っていた。
ナリス本人としては、宿る身体を生み出すための相性で選ばれた両親や家族に愛情を求めることは無い。
愛情は実の母親から溢れるほどに貰っている。父親の愛はいまいち解らないが、父親代わりの叔父2人からは溺愛されて育っているので、家族愛に困ることは無かった。それだけに宿った身体の血の繋がりに特に何かを求めること無い。もちろん今まで何度も転生しているのだ。中には自分を大切に育ててくれて、愛情を注いでくれた家族だっていた。彼らには感謝も情も持ったし、その死後は優遇もした。中にはそのままスカウトされて、神界で社畜…ではなくて、有能な官僚として日々業務に追われている人も存在していたりする。そして、今回の家族は、愛情?ナニソレ?美味しいの?状態である。
(上に立つ者としては、無能に近いかなぁ。血生臭いだけで、人を導くあの感じがないし、狂戦士っぽい感じの方が強い)
ナリスは過去の転生の中で、幾人もの上に立つ存在、善きにつけ悪しきにつけ人を導く存在を見てきた。直接会話をしたことがない人間もいるが、王侯貴族であろうが農民の生まれの者であろうが神や仏に仕える者であろうが、皆、独特の存在感を放っていた。
惹きつけられる、目が離せない、その言葉の一つ一つを聞き逃してはならない、人たらし。
一言で言えば、魅了、されるのだ。
スキルとしての魅了では無く、その醸し出す空気や紡がれる言葉といったものに思わず目がいき、その言葉を聞いてしまう。
この男にはそれが無い。
だから、狂戦士
武は持っているのだろう。最前線に立つ気骨もあるのだろう。だが、それだけだ。
軍神にはなれない。
(よし。おさらばの方向で)
幸いお互いに嫌いあっているようなので、何の問題もない。
あっちは役に立たないなら要らない。こっちは役に立つ気もさらさらないから出て行く。
WIN-WINの相思相愛の関係だ。
「早くしろ」
ラグナ辺境伯に促されて、部下らしき男が杖をかざした。
「鑑定」
そう一言いうと、杖に魔力を込めていくのがわかった。
「領主様、ナリス様の属性は、風と水です。称号はありません。スキルも特にお持ちではないようです」
「風と水?火は無いのか。本当に役立たずではないか」
魔獣や侵入者との闘いを強いられる辺境では、攻撃力の高い火属性が最も尊ばれる。
それ以外の属性は下に見られがちなのだ。
実際、領主であるヴァル自身が火属性以外を下に見ている。
火属性+何か、なら良いが、風と水など領主の息子として到底許せるものではない。
元より黒い髪、黒い瞳の時点で気味が悪かったのだ。
役に立たないモノを切り捨てて何が悪い。
ここは辺境。戦える存在こそが正義なのだ。
ヴァル自身、己の武を磨き、領主としてこの地を守ってきた。
辺境伯家の男として生まれ育った者として、戦えない者など一族にはいらないのだ。
だからこそ、今、自分が辺境伯としてこの地に君臨している。
これが女子なら有力者に嫁がせることもできるが、男、それも三男など戦えなければ何の役にも立たない。そう信じるからこそ、実の息子であろうが簡単に切り捨てることができる。
「捨ててこい。これの母も娘でないのならいらんと言っているしな。殺されないだけましだろう」
「お待ちください、旦那様。戦えずともこの方はラグナ辺境伯家の血を引く方です。王国法により、貴族の血を引く者は全て貴族院に届け出なければなりません。万が一、この方が将来なんらかの能力に目覚められた時、届けが出されていなければ、ラグナ家にお咎めがきます」
執事の言葉にチッと舌打ちをすると、ヴァルはナリスを睨みつけた。
睨みつけられた当の本人は、イミガワカナライヨー、という顔をしつつ、内心では、捨てられたらラッキー、ぐらいに思っていた。
おさらばの方向で意思は固まってはいるが、別に血みどろ案件にするつもりは無い。まぁ、殺しに来るつもりなら報復としてご自慢のスキルやら魔法やらを全部封じてあげよう、とは思っていたが。自分を殺しに来た人間を返り討ちにするだけで済ます、そんなありきたりで簡単なことをするつもりは無い。まして、ご貴族様の死体なんて出た日には大事間違いなしだ。ひっそりこっそり出来なくなってしまうではないか。いくら自分に嫌疑がかからなくても、それなりに騒がしくなってしまう。それくらいなら、ご自慢の能力をことごとく潰して生かしておい方が良いに決まっている。
だって、殺されないだけましなんだから。
本人たちだってその覚悟はあるに決まっている。誰かを殺すつもりならば、自分も殺される覚悟を持たなければならない、そんなのは当たり前のことなのだから。
などと、常に自分たちが強者で正義で裁く側であり、絶対裁かれないと信じている者たちが聞いたら怒りに震えること請け合いのことを考えながら、ナリスはちょっとあぶあぶ言ってみた。
「旦那様、貴族院への届は絶対です。過去、届を出さなかったことで後々問題になり、おとり潰しになった家もございます」
執事に言われて、確かに過去の事案で届がなされなかった者が問題になったことを思い出した。
だが、届を出せば、ある程度の年齢までは目の届く範囲で生かしておかなければならない。
不自然な事が少しでもあれば、王家や他の貴族たちに弱みを握られかねない。
「チッ、面倒だな」
顔を歪ませて、どうしたものかと思案していると、また扉が開き、幼い子供たちが入ってきた。
「おぉ、アルフレッド。どうしたのだ?」
ナリスに向けた目とは全然違い、嬉しそうな笑顔でヴァルは子供たちを迎え入れた。
3人の子供たちは全員、ヴァルと同じ金髪に緑の瞳の持ち主でどことなく顔立ちも良く似ていた。
(良く似た3兄弟だねぇ)
一応、身体的には自分の兄と姉にあたるのだが、そんな感覚は全く無い。
「父上、この子が末の弟ですか?」
代表して聞いてきた長男の言葉にヴァルは再び顔をゆがめた。
「アルフレッド、これにお前たちの弟たる資格はない」
「資格…ですか?」
「そうだ。これは、火属性を持たない。お前たちみたいに特別な称号やスキルも無いのだ。我がラグナ家の血を引きながら、そこらの民草となんら変わらぬ下等な存在だ」
(うわー、選民教育ってこんな風なんだぁ)
のんきにそんな事を思っていたら、アルフレッドと呼ばれる少年の頭の上が少し赤みがかり、空間のゆらぎと共に小さな赤い蜥蜴っぽいものが現れた。きょろきょろと周りを見渡し、誰も自分を見ていないことを確認しているかのような仕草を見せた後、蜥蜴っぽいものはナリスに向かって深々と頭を下げた。
(うん?精霊?)
蜥蜴の鑑定ついでに、兄弟の鑑定も一緒に見てみた。
名前:アルフレッド・ヴァル・ラグナ
種族:人間
年齢:7歳
ジョブ:ラグナ辺境伯の長男、剣士
LV:10
魔法:火属性LV:10(サラマンダーによる補正あり)、風属性LV:4、地属性LV:2
スキル:剣技
称号:サラマンダーの契約者
(あれ?この子、セカンドネームがこのおっさんと同じ?)
アルフレッド・ヴァル・ラグナ→ラグナ辺境伯の嫡男。貴族の嫡男のセカンドネームは、父親の名前や名前の一部を入れることが慣例となっている。次男以降や女子については特に慣例は無く、セカンドネームを付けるかどうかも自由であるが、祖先や歴史上の人物にあやかってつけることが多い。
ナリス様のお名前はスーリー様が名付けられました。僭越ながら、セカンドネームは私が付けさせていただきました。ナリス様がセカンドネームをお隠しになったので、真名を知られる心配はございません。あ、名付けに際しては少し周りをいじって、不自然にならないようにはしましたので、この人たちは誰がナリス様のお名前を付けたのか、などという疑問は一切持たないのでご安心ください。
(あざーす、アルマ様。でも、気になるのは一番下です)
サラマンダーの契約者→ラグナ辺境伯家に稀に表れる生まれながらにして火の精霊サラマンダーと契約している者。主に火魔法に恩恵を与え、火属性のLVも上がりやすくなる。サラマンダーの姿は自ら現さない限りは基本的に周囲の人間には見えず、普段は契約者や特別な瞳を持つ者にしか見えない。
サラマンダーからの伝言です。
『お初にお目にかかります、愛し子様。この世にお出でになられたことに心からのお喜びを申し上げます。どうやら愛し子様はその事をお隠しになりたいご様子でしたので、ご無礼かとは思いますが、契約者の頭上より隠れてのご挨拶をさせていただきました。愛し子様がお隠しになる以上、我ら精霊も人に伝えたりは致しませんので、どうぞ御心のままにお振舞ください。ですが、愛し子様に何か危害を加えようなどという輩が現れた場合、我らは本能的に愛し子様を守るための行動を取ってしまいますので、その点はお許し下さい。愛し子様が契約者より優先となりますので、手出し無用の時はあらかじめ教えていただけると、がんばって我慢いたします』
(ボクのひっそりこっそり計画のためにも、ぜひともがんばってほしいよ…)
人間以外の存在がとても優しくて協力的なのはありがたいが、そろいもそろって強力すぎる気がする。
(次だ、次)
少年の隣にいる少女と、少年に抱っこされた幼児をついでに鑑定してみる。ちなみに一目見て役に立たないと思った父親について詳しく中身を視るつもりは無い。
名前:プリシラ・サーラ・ラグナ
種族:人間
ジョブ:ラグナ辺境伯の長女、治癒師
LV:5
魔法:聖属性LV:4、火属性LV:2
スキル:祈り
称号:無
名前:アレス・イフリート・ラグナ
種族:人間
ジョブ:ラグナ辺境伯の次男、火の剣士
LV:2
魔法:火属性LV:2
スキル:剣技、武技
称号:火の聖剣イフリートの主
(なんか、おもしろそうなの持ってるねぇ)
聖属性→持つ者が少ない希少属性の1つ。主に治癒能力に特化しており、LVが高い者は広範囲の治癒を展開したり、欠損の治癒もできる者もいる。
祈り→神々に祈ることによりその力を一時的に借り受けて、より強力な力を発揮することができる。このスキルを持つ者の祈りは神々に届きやすいが、答えてくれるか否かは、神の気まぐれによる。
火の聖剣イフリート→その昔、ドワーフの鍛冶師が火の魔人イフリートより炎のかけらを凝縮した鉱石を分けてもらい作り上げた聖剣。剣に高温の火を纏わりつかせることができる。ラグナ辺境伯家に代々伝わっており、その血族の中から時折主を選ぶ。
(称号やらなんやらを隠したボク、エライ!!)
うっかり自画自賛してしまったが、変なスキルや称号を視られた日にはひっそりこっそり出来ないことは確実だったようだ。その未来を回避しただけでも、自分で自分をぜひとも褒めたい。
「いいか、アルフレッド、お前の兄弟は優秀な妹1人と弟1人だけだ」
「…はい、父上」
チラリとナリスを見ながらも、アルフレッドは父親の言葉に逆らう気はなさそうだった。
未だ幼い子供だ。親の言うことが絶対なのは仕方ないが、教育する親が親なので、このままだと父親のミニチュアが出来上がって行くだけになるだろう。今まで色々な家族を見てきたが、同じようなかご家庭はいくらでもあった。そこから抜け出すのか同じになるのかは本人次第。ナリスが考えることではないし、他の貴族は判らないがこの国のお貴族様の教育の標準がアレなら、おさらばを決め込んでよかったとも思う。
「お父様、あれはどうするのですか?」
(娘も一緒じゃん)
父親がこれ呼ばわりで、娘はあれ呼ばわり。どちらかと言うと、兄より妹の目の方が父親と一緒の冷たさをはらんでいた。
「そうだな…、あぁ、森の小屋にいるやつに育てさせろ。それでいい」
その言葉に執事は一瞬ビクリとしたが、頭を下げた。
「かしこまりました。森の小屋にお連れ致します」
「すぐに連れて行け。目障りだ」
ナリスの方を一切見ずにそう切り捨てると、ヴァルは3人の子供たちと一緒に部屋を出て行った。
「…はぁ。ナリス坊ちゃま、申し訳ございません」
執事は細々とした物を袋に詰め込むとナリスを抱き上げて部屋からを出た。そのまま屋敷の外に出ると使用人用の馬車に乗り、森を目指して行った。