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ギルド長と

 後日の調査で、今回誘拐事件を起こした一味の中にベルーガー侯爵姉弟の失踪事件に関わっていた盗賊団に所属していた者たちがいて、その時の盗賊団は侯爵家の護衛と相打ちに近い状態で壊滅したらしいのだが、残った者たちが盗賊団の死体も侯爵家の死体もまとめて人に知られていない洞窟に放り込んだという証言を得られた為その洞窟を捜索したところイサドラとデニスの白骨死体を発見したとのことだった。

 侯爵家の者たちを殺害した後、残った盗賊団は散り散りに他国に逃れていたらしいのだが、今回7年ぶりに戻ってきたせいでイサドラとデニスが目覚めたのではないか、というのがシメオンの推測だ。

 発見されたイサドラたち侯爵家所縁の白骨死体はそれぞれの家族の元へと帰り、シメオン自らがその鎮魂の祈りをしたという。


 そんな事をクロードに聞きながらナリスとレイはギルト長の部屋でお茶を飲んでいた。


「お家に帰れて良かったねぇ、オネエサマたち。んで、この宝石の事は何か言ってた?」


 ナリスの目の前には例のルビーが置いてあった。


「おう、侯爵はそんな宝石は家に伝わっていないって言ってたらしいぞ。イサドラ嬢も持ってなかったらしい」

「えぇー、じゃ、たまたま?イサドラさんたちが投げ込まれたっていう洞窟にでもあったのかなぁ?」

「さあなぁ、だが侯爵はそれはお前の物だから好きにしてくれて構わないってさ。一応、今回の事件は侯爵家の人間は関わってない事になってるからな。なんせ相手は死人だし、砂になって霧散しちまったんだろ?表立って侯爵家は何も出来ないから詫び替わりにもらっとけ」

「ボクの手元でイサドラさんは納得するかな」


 確かにルビーは何の加工も施されていないし、やけに形の良い天然物といえば天然物だ。


「あ、そだクロードさん。クロードさん、宝石じゃらじゃら付いた宝剣持ってたでしょ?」

「あん?アパラージタの事か?」

「うん。それ、ちょうだい?」

「はぁ!?お前、あれは俺が必死になって潜ったダンジョンで唯一手に入れた宝剣だぞ!簡単にやれるか!!」


 若い頃にクロードが潜ったダンジョンで死にかけながら唯一持ち帰った宝剣。柄の部分にいくつもの宝石がついていて、小さいながらもその宝石の1つ1つが能力持ちの為、市場に出したらそうと高額になる事間違い無しの剣だ。飾っておいても良し、実戦で使用しても良しの宝剣だが、クロードはさすがに実戦であんな宝石付いた剣を持っていたら真っ先に狙われるので使った事は無い。時々、取り出して眺めては、あの頃は色々苦労したよな、という思い出の品と化している。


「もちろん、ただとは言わないよ。ボクさぁ、今回の事で体格差を如実に感じたんだよね。んで、成長の魔法を開発してみました」

「……お前、そう簡単に新しい魔法とか開発するなよ」

「元は植物魔法の『グロウ』だよ」

「……そっちも失われた魔法の1つだから」


 頭を抱えたクロードをつんつん突いて見たが、机に突っ伏したままだ。


「で、ボクは一時的に成長したかったから、時間限定の成長魔法を作ったんだよ。ついでに時間限定で若返りの魔法も作ったの」

「……つまり?」

「つまり、ボクは大人に成長して、クロードさんは肉体絶好調時まで若返って、本気でやり合わない?『剣聖』と本気で試合してみない?」

「乗った!!」


 ガバっとクロードは突っ伏していた机から起き上がった。


「いいのか?クロード。ナリスに乗せられて」


 関係ないとばかりにお茶を飲んでいたレイがクロードに声をかけた。


「構うもんか!『剣聖』だぞ、『剣聖』!!剣の道を行く者なら誰もが憧れる存在だぞ。そんな存在とガチでやり合えるんだぞ、こんな機会、一生に一度だけだ」


 ちなみにその一生に一度の機会をレイは成長したナリスに付き合わされている為、ここのところしょっちゅう体験しているのだが、クロードには言えなかった。


「だから、アパラージタちょうだいね?」

「くっ!!仕方ねぇ」


 クロードはあっさり陥落した。


 その様子を見て、レイは、はぁっとため息を吐いたのだが、本人が納得しているならいっか、と思って無言を貫いた。





 ナリスとクロードの周りを光が舞う。集約し、光が弾けるとそこには成長したナリスと若返ったクロードがいた。


「おー、ナリス坊。男らしいっつーよりも、何なんだその色気?」

「え?色気?…お父さんみたいな?」

「レイみたいな男らしさは皆無だな。どっちかっつーと、傾国の美女的な?お前の隣に立つ女性は相当勇気と自信がいるぞ」

「えー、ナニソレ?ボク、お父さん見たいなのが希望なんだけど。筋肉生活したいじゃん」

「しゃべると残念だな。外面良くても中身が残念すぎると女性陣は引くぞ」


 見届け人として来ているカリアスに突っ込まれて、20歳くらいまで成長したナリスはぶーぶー文句を垂れた。


「おおう!久しぶりのこの身体ぁ!!」


 こっちは20台後半くらいにまで若返ったクロードが久しぶりに見る自分の若い頃の肉体をマッチョポーズをして堪能していた。


「クロードさん、剣技で勝負するタイプって言ってたじゃん。何でそんなに筋肉ついてるの?」

「ふはははは、いいか、ナリス、冒険者に筋肉は必須なのだ!剣技で勝負するタイプだが、基礎筋肉はしっかりある!!」


 フンっとマッチョポーズを見せつけてくるクロードにナリスはイラっと来ていた。


「チクショー、ゼッタイ吹っ飛ばす!」


 どう頑張ってもナリスにあそこまでの筋肉は付かない。母や親友や師匠連中からさんざん言われていたのだが、肉体からこっち仕様になってればあるいは、という儚い想いをまだ持っていたのだ。

 レイはナリスの筋肉への憧れを知ってはいたが、聞かなかった事にして今まで成長したナリスの外見については黙秘を貫いていた。


「あの色気で静謐を現す大神官の服を着たら信者が一気に増えそうですねぇ」


 ケガ直し要員として来ているシメオンがにこにこしながら怖い事を言った。


「ヤダよ。お姉さま方のおもちゃになる気はございません」

「大変よくお似合いになると思うんですけどね。シスターたちが腕によりをかけて仕上げてくれますよ。機会があったらぜひどうぞ」


 お断りしても教皇様はあきらめるつもりは無いらしい。


 今、この場にいるのはナリスとクロード、見届け人兼やりすぎ停止要員のレイとカリアス、それからシメオンの5人だ。場所はアークトゥルスとベテルギウスの中間くらいにあるめったに人が近寄らない森の中だ。ここならば、ちょっと地面に穴が開こうが問題にはならない。


「うっし!ナリス、準備はいいぞ」

「こっちも行けるよー」


 外見は色気がすごい美人でも中身が残念なのでしゃべり方は一切変わらない。


「「行くぞ(よ)」」


 同時に声が出て2人は剣を合わせた。キンっという澄んだ音とガッという鍔迫り合いの音が辺り一面に響く。剣を一閃させただけで地面に穴が開き、木々がなぎ倒される。


「なんだ、その剣技!?見たことない型ばっかりだな!!!」


 嬉しそうにクロードが吠える。


「ボクのお師匠さんたちに叩き込まれたものだよ」


 ナリスの剣技は異世界の剣技。侍と言われた刀狂いの集団が長い年月1つの島国で争って血を流しながら作り上げた技だ。そう簡単に攻略されて堪るもんか、と思う。

 ナリスの使用している剣は、”夜”に似せてこちらの鍛冶師に作ってもらった物だが、その鍛冶師は新たな製法の可能性を感じた、とか言って今は引きこもってひたすら刀を打っている。いずれ、刀、と呼ばれる物が出来上がるだろうと期待している状態だ。


「ナリスも楽しそうにしていて何よりだ」

「レイー、感想それかよ」

「俺ばかり相手だとつまらないだろう。秘密を知らないやつらとは出来ないし、クロードなら問題は無いからな」

「そうですねぇ、ナリスもクロードも思いっきりやり合える相手が不足してますからね。レイやカリアスだけではつまらないでしょうから、もう少し相手がいるといいんですけどね」


 見届け3人組はのんびりピクニックしながら2人の試合を見物していた。




「あー、楽しかった」


 試合は夕刻まで続き、もはやナリスとクロードはへとへとだ。元の姿に戻ったナリスはレイに背負われていて、クロードはカリアスに肩をかりて支えられていた。


「やれやれですね。今夜はうちの屋敷に泊まっていきなさい。その調子では夜中に激痛が走るかもしれませんよ」

「うん、お願いします」


 若返ったクロードはともかく、無理やり身体を成長させたナリスはひどい筋肉痛を覚悟していた。シメオンの屋敷なら夜中でも部屋に駆け込んで痛みだけでも取ってもらえる。


「くっそ。やっぱ『剣聖』は強ぇな。これで剣技だけだろ?魔法まで組み合わさったらどうなるんだよ」

「あはは、何を言ってるんです、クロード。だから『剣聖』なんですよ。唯一無二とはそういう事です」


 シメオンに笑いながら回復の魔法を施されて元の姿に戻ったクロードはだいぶ息をきらしていた。


「そいうや、ナリス。アパラージタなんてどうするんだ?お前には”夜”があるだろう?」


 ナリスの真の武器は神刀”夜”だ。クロードはその刀の事を知っている。今更ナリスが”夜”以外の剣を持つとは思えなかった。


「ユリちゃんと約束したんだよ。ギルド長が持ってる宝石がついた剣をあげるって。ユリちゃん贅沢だよねぇ。ボクの持ってた実戦用の剣と装飾用の剣と2つとも欲しいって言うんだもん」

「お前…それって」

「いーんじゃない?ユリちゃんがそれを目指すんなら目指すで。しかもボクがあげた剣が『導きの剣アストラル』に変化しちゃったんだもん。もう、しょうがないよね」


『導きの剣 アストラル』、それはーーー


「……シメオン、俺たちすんげーこと聞いてない?」

「そうですねぇ。私もカリアスもクロードも当分死ねなくなりましたねぇ」


 のほのほと笑うシメオンとうげーという顔したおっさん2人が対照的で面白い。


「ってわけで、アパラージタはユリちゃん行きです」

「とうとう俺のお宝ともお別れか、切ないぜ」

「アパラージタもおっさんより若い男の子の方がいいかもよー」

「はっ!歳食えば皆おっさんさ!」


 ある意味真理をついた言葉をクロードは吐いたのであった。

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