入っちゃった。
信者の必死の声は彼らの神には届かない。
当然だ。あれはただの抜け殻。中身である魂は別の場所に存在しているのだから。
だからといってナリスは親切にそんな事を教えてあげる気は一切なかった。こいつらのおかげで精霊たちが要らぬ傷を負ったし、無駄に精霊力を抜き取られたのだ。それを許す気はない。
ナリスは精霊たちのことがけっこう好きだった。複雑に心や感情が織り混ざって生きている人間とは違い、精霊たちは自分の感情に素直に生きている。もちろん時にはいたずらで人を危険に陥らせる時もあるが、人に混じって長い間生きていると彼らに癒やされる時もあるので、ナリスはけっこう彼らが好きなのだ。その好きな精霊たちを傷つけられた。もうそれだけでナリスはこの集団を叩き潰すと決めていた。
「ルカさん、ルカさん、もううっとうしいからアレ、消すからね」
にっこり笑ってそう断言し、ルカに反論の余地も許さぬまま、ナリスはラミアの抜け殻に向かってその力を振るった。一瞬後、抜け殻が見た事もないような純白の炎に包まれ、炎の中で抜け殻がパチパチと爆ぜながら燃えていく様子を止めそびれたルカと抜け殻を神と信じる仮面の集団が呆然とした表情で見つめた。
「ちょ、ちょっとナリスくん。僕の大切なものがー」
「わ、われらのかみよ……」
ちょっと開いた口がまるで断末魔を放っているようだが、抜け殻なのだから声が出ることもない。
白い炎は浄化の炎でもある。ナリスは奪われた精霊力が変な風に作用しないように浄化して自然へと循環させた。循環された先でまた新たな精霊と成るのかもしれないが、それはそれで自然の摂理というやつなので問題はない。
心のダメージとしてはルカよりも仮面の集団の方が重いのかもしれない。なにせ彼らが自らの神だと信じている存在を燃やしているのだから。
「…お目覚め下さい。我らの神よ。どうか、御身に放たれし汚れた炎を消し去り、新たなる世界を!!」
呆然としていたかと思ったら、図書館の館長がルカによって氷漬けにされていたのを魔力で無理矢理氷を砕いて炎の中へと突進していった。
「我が身と引き換えに、どうか!!」
そう言い放って魔力で身体を覆いながら炎の中に突入し、抜け殻へと触れた。
「…アザーディー!!契約を遂行せよ!!」
魔力で身体を覆っているためにすぐに消滅することがなかった館長の叫び声と同時に、精霊を捕まえに行ったはずのアザーディーが突然現れた。
「え?オレ、なんで??」
「アザーディー!!その魂を我らが神へと捧げよ!!」
「はぁ!?え?ヤメロ!!」
抜け殻に触れながら館長がそう言うと、状況が一切わかっていないアザーディーがびくんっとしてまるで小さな穴に吸い込まれるように抜け殻の中へと入っていった。
「ふはははは!貴様は所詮生け贄よ!!見よ!我らの神の復活の時を!!」
館長が満足そうに高笑いしたのと同時に、ナリスが放った純白の炎が収束し、何も入っていないはずの抜け殻がぴくりと動いた。
「あーあ、ルカさん、アレに違う魂が入っちゃったよ」
図らずもルカが先ほど言ったとおり、力ある魂を入れれば動くかも、が現実となって目の前で抜け殻が動き出そうとしていた。ナリスの炎によって焼けたり消えたりした身体の部分も綺麗に治っていっている。
「そっか、魔物じゃなくても精霊の魂ならアレを動かせるか」
ぽんっと手を叩いて納得しているが、本来ならわりと危機を迎えているはずの場面でもシリアスになりきれないのは絶対この2人が悪い、ユーリはそう結論付けた。
「アレを始末せずに綺麗に飾ったルカさんが悪いと思うよ。一応、ボクがやっちゃうけど、後でぜぇったいアルマ様に言いつけるからね!」
「えー、勘弁してほしいんですけど。どれだけ生まれ変わってもお小言から逃げられないのー?」
ちょっとだけ悲壮感を出して言ってはみたものの、アレの後始末を愛し子にさせるのだから、お小言の1つや2つや3つ……出来れば1つだけを希望する、は甘んじて受けようと決心したのだった。