思ってたのと違う。
読んでいただいてありがとうございます。真夜中のにゃんこによる大運動会…すごいです。
ルカにとって大切なのは兄だけだった。
生まれた時より面倒を見てもらい、母より母らしく自分を育ててくれた。
幼い頃は、自分という存在がどういうものかわかっておらず、兄と容姿の異なる自分の姿を鏡で見ては泣いていた。泣いているといつも困った顔で兄が慰めてくれたのだが、容姿が違うのは「そういう存在だから」とだけ言われただけだった。成長するにつけ、自分がどういう存在なのか理解したのでさすがに兄と容姿が違うといって泣いたりはしなかったが、兄に育てられた自分はそれはもう立派なブラコンと化していた。
兄の方も自分が育てた弟が可愛くて仕方なかったらしくこちらも立派なブラコンと成り果てたので、今度は母の方が少し泣いていた。何をするにしても兄と一緒にいたい、そう主張してみたところ一番上の長兄ともいうべき存在が、「それもアリだな」と言って母の説得に一役かってくれた。むしろ困っていたのは兄の方だったかもしれない。だが兄はずっと一緒にいてくれた。
『それが当たり前だと思っていた』
あの頃の自分をぜひ叱り飛ばしたい。兄だって時には容量の限界を超えることだってあるし、自分以外の誰かを好きになることだってあったのだ。幼い感情しか持たなかった自分はそれが許せなくて……ただ1人で置いて行かれるような感覚がイヤで大喧嘩に発展し、気が付いたら兄がいなくなっていた。
久方ぶりに姿を現した長兄にグーで殴られるまでは、兄に置いて行かれた腹いせに自分勝手なことを考えて実行しようとしていた。
長兄にグーで殴られてそのまま命がけの勝負に持ち込まれて見事に負けて、自分が情けなくて大粒の涙を流して泣きじゃくった。
『お前の足はただ付いているだけなのか?お前は大切な存在を追いかけることも出来ないほどに無能か?ならばこの私自らがその命を刈り取ってやろう』
絶対零度の目をした長兄に文字通り命を刈り取られそうになってようやく自分がどうしたいのかを悟り、長兄にスライディング土下座をかまして見逃してもらった。
それからは一途に兄を追いかけてきた。時折心配そうな長兄の視線を感じるときがあるが、大丈夫だよ、と軽く手を振るとその視線は消える。一番冷酷そうに見えて実は兄弟姉妹の中で一番気苦労の絶えないせいか誰よりも気遣いが出来る長兄は、何だかんだと下の存在を甘やかしてくれる。もちろんそれに甘えっぱなしにならないようにしているつもりだし、時々長兄相手に本気で命の危険を感じる時もあるが、兄という存在は弟や妹に甘く、自分たちは守られてばかりだ。
そうしてやっと追いついた兄は過去のことを綺麗さっぱり忘れているのも関わらず、再びブラコンを発揮して自分を存分に甘やかしてくれる。だから、決めた。
『今度は、自分が守る』、と。
兄の平穏の為ならば自分の手がいくら汚れようともかまわない、そう思っていたのに、とんだ乱入者のおかげで思っていた方向と全く違う方向に物事が進んで行っている気がしなくもない。
最終的には兄を悩ませているあの仮面の集団を何とかするつもりだったのだが……
「おっかしぃなー、コレってこんな展開になるんだっけ??もっとこう、ダークな展開とか、血で血を洗う、みたいな展開になると覚悟してたんだけど?」
襲ってきた仮面の集団のうちの1人を顔だけ残して氷漬けにしながらルカは首を傾げた。
ルカの目の前では自分より小さい姿形をした子供が仮面の集団相手に大立ち回りを演じているのだが、セリフは「わぁ、やられそうだー」とか「こわいー」とかを棒読みで言っている。役者には向かない子供だな、としみじみ思ったのだが、同じようなことを思ったのか、安全地帯で見ているお友達の笑顔が引きつっている。だが、こんな展開になるように提案をしたのはこっちのお友達の方だ。大変良い笑顔で、「どうせやるならギリギリの線で攻めてあっちの戦力を全部つぎ込ませようよ」そう提案をして、ナリスに増援すれば勝てるかも、と相手に思わせるギリギリで勝ち続けろ、そして言葉で相手の神経を逆なでさせよう、と指示を出していた。それはけっこう難しいのでは、と言ってみたのだが、子供2人は笑顔で大丈夫と請け負った。
確かにこの子供達は生と死の神の愛し子と神の加護を持っている子供なので、そんじょそこらの大人には負けないのだろうが、それにしても力量に差がありすぎる。何だかんだと余裕をかましている子供相手に大人たちがどんどん向かっていく姿は、もう笑うしかない。
「がんばってー、ナリス。ほら、ルカさんもがんばったらリクさんに褒めてもらえるかもよ」
皇子様は実にルカのツボを心得ていた。兄に褒めてもらえるかも、と言われればがぜんヤル気も起きる。ユーリは確実に褒めてもらえるとは言っていないのだが、誰もが自分に都合の良いことしか耳に入らないものなので、ルカはリクに褒めてもらえる為にさらにヤル気を出した。
「何なんだ!!お前達は!?聞いていないぞ、ウル家の次男がこんなに強いなんて!!」
さすがに同じイル族(多分)だけあって、ウル家の次男の情報は良くご存じのようだ。
曰く、ウル家の次男は父親の解らぬ汚れた血を持つがゆえに何の能力もない、と。
「お前は能力無しのはずだろう!!」
ルカに向かって炎の魔法を放ちながら男が迫ってきたが、ルカは簡単に避けるとすぐに先ほどの男を同じように氷漬けにした。
「ルカさん、能力無しって思われてたの?」
別の男を剣で相手にしながらナリスがのんびり聞いてきた。この程度の剣技の持ち主相手ならば余裕でおしゃべりできる。
「一応。手加減が苦手なんだよね。なら最初から能力無しって思われてた方が無茶は言われないでしょ?」
もう隠す必要性を一切感じないのでこちらもおしゃべりしながら戦っているのだが、思惑通り、向こうはこのラミアのいる場所を神聖視しているのか、ルカたちを追い出そうと随時戦力を投入してきている。
「貴様…!1何者だ!?」
お決まりのセリフを言われたので、ナリスは何だか面白くなってきて思わず笑ってしまったのだった。