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ヤテ

読んでいただいてありがとうございます。

 精霊の卵たちの光に導かれてナリスたちがやって来たのは、森の中にある大樹の根元だった。


「ユグドラシル…?ちょっと違うかな」


 一見大樹は世界樹ユグドラシルに見えたがよく見ると葉っぱの形が違う。それに圧倒的な存在感や世界の調整を担っている源としての力を感じない。


「これって…」


 ルカが近づいてその大樹をじっくり眺めた。


「……へぇ、まだあったんだ。そこのノーム、答えて。これと同じ大樹は世界中に後どれくらいあるの?」


 ルカに突然名指しで聞かれたノームのターちゃん(仮)はびっくりしておろおろとしたが、、ちょっと考えるように頭を抱えると、土掘り用のその指を一生懸命たてて『7』という数字を答えた。


「まだそんなにあるんだ。大地に属する精霊たちはこれを枯らすとか考えなかったの?」


 ターちゃんは首を思いっきり横に振った。


「どんな植物だろうと味方になるっていう大地の精霊たちの考え方は嫌いじゃないけど、この木だけは例外でしょ?これは時に精霊たちさえも傷つける。貪欲さでは他に類を見ないやつだからね」

「ルカさん、コレ何?」


 たどり着いた先にあった謎の大樹のことをルカは知っているらしい。しかも植物のくせに精霊を傷つけるとかどんな魔物なんだろう。


「一応、植物だよ。ただし、これは自分以外を養分としか考えていない。精霊だろうが人間だろうが動物、魔物だろうが捕獲したモノを自らの養分にして育つ植物で名前は『ヤテ』。精霊や魔物たちはともかく、人間はほぼ丸ごと養分行きだね。かつて一度だけ大繁殖したことがあって国1つ滅ぼしたかな。さすがにその時にほとんどのヤテは燃やし尽くされて絶滅したはずなんだけどね。まあ、見た目がこうして立派な大樹だから雨宿りしてそのまま栄養行きの者が多かったみたいだよ。こうして森の木にまぎれているから中々見つけにくいんだ」

「へー、ボクたち、だいぶ近いけど食べられたりしない?」

「しない。植物なんだけど、ヤテは魔物に近い。自分より強い存在には手を出さないんだ。これだけ育ってるとなると相当歳月も経ってるはずだ。生き延びてるのは、弱い存在ばかりに手を出していたからだろうね。ここはちょうどいいのがいっぱいいるし」


 そう言って周りを見渡せば精霊の卵たちが漂っていて、ヤテの大樹の中からも出てきている。


「ヤテは精霊に関しては基本的には全部を養分にはしない。精霊が自分を育ててくれる存在であることを知っているからね。ただちょっとだけ精霊力を奪うんだ。ただし、飢餓状態になってる場合は別。飢餓状態のヤテは誰彼かまわずその全てを己の生きる糧にする」

「じゃ、このヤテは栄養は足りてるんだね」

「だろうね。でもこのヤテがあるせいでただでさえ奪われた精霊力をさらに奪われてる。ここら辺の卵たちが精霊になるまでには相当な年月がかかると思うよ。まず、この場を離れないといけないのにそこまでの力がないんだからね」


 アザーディーの親の為に精霊力を奪われてさらにヤテにまで奪われて、ここら辺の精霊にはいい迷惑でしかないだろう。


「この場所にやたら残ってるのはそういう理由なんだー。アザーディー、君の親の居場所は近いの?」

「あ…うん。てか、この木、中が空洞になってて、そこから水晶のある場所に行けるんだよ。だからみんなこの木の中に入って行くんだ」

「へぇー、すごいね。この木の栄養になるかもしれないのに入ってるんだ…」


 思わずそっとツッコんでしまった。正体を知らないからこそ出来るんだろう。この木が自分たちの命を脅かすものだと知っていたらさすがにこの木の空洞に入りたいとは思わないはずだ。空洞=体内と考えたらすぐに栄養価として取り込まれそうだ。


「ま、この木はそんなに害はないと思うよ。エサが豊富だから動物や人間にまでは手を出していないみたいだし」


 ルカが木を叩きながらそう言った。本来、精霊が卵の状態にまで戻る事態などあってはならないことのはずだが、その為にヤテに命を奪われるものがいないというのは変に皮肉な感じになってしまっている。


「卵が先か鶏が先か、って感じかなー。ま、被害がないならこれも自然の摂理として放置しちゃうけどいいかな?ターちゃん(仮)」


 ナリスの問いかけに、ノームのターちゃんはしっかり頷いた。どうやらノームたちもこの木を生かしたいようだった。


「じゃ、中に入ろうー」


 ターちゃんを抱っこしたナリスとユーリとルカは、ヤテの大樹に人が1人くらい通れる穴の中に入っていった。


 そこは木の中とは思えないくらいの巨大な空間になっていた。周りは輝く水晶に囲まれていて木の中であるはずなのに光に満ちている。精霊たちの力を奪う場所であるはずなのだが、その場に満ちているのはどう感じても清浄な空気。予め聞いていなければ、この場所は『神聖なる場所』、つまりは『聖地』と呼ばれてもおかしくない場所だった。


「…ナリス??」


 ここ最近、この手の感じにもずいぶんとユーリは慣れてきてはいるのだが、さすがに色々とツッコミたい。ギギギ、と音がしてもおかしくない感じでユーリはナリスの方を笑顔で向いた。


「……えっとね、ユーリさん、人を元凶みたいな顔で見ないで?その笑顔が怖いってどういうことだよ。はぁ、わかる範囲で説明はするけどね、ルカさんが!」

「僕!?僕なの?イヤ、分かる範囲でなら話すけどさ。何でユーリくんの静かな怒りまで僕が買わなくちゃいけないんだよー」


 とばっちりを受けたのか騒動の元凶の1人になるのかは分からないが、この場の説明はルカがすることになったのだった。

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