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心辺りは無いようです。

 緑が生い茂ってはいるが、森の中は何度も誰かしらが通っているらしくちゃんと道が出来ていた。

 獣道よりはマシ、というくらいだが、それでも踏み固められた地面は複数の人物が出入りしている様を表していた。


「あの仮面の人たちかなー?」

「そうだろうね。それ以外の集団がいたらこの小さな里の意志統一ってホントにどうなってるの?って感じだよ」


 ナリスとユーリの会話を聞いていたルカが「仮面の人?何それ?」と首を傾げた。なぜかターちゃん(仮)もナリスの腕の中で一緒のタイミングで首を傾げていた。


「この間、視た集団でさ……」


 ナリスは仮面に黒いローブを着た集団の話しをルカに聞かせた。


「ルカさん、心当りは??」

「さすがに無いかな。血統主義者か神崇拝系かでだいぶ違ってくるんだけど」


 血統主義者の集団だと父親不明のルカは本当に命が危ない。この里の血統主義者は最初の使徒の血にこだわるだろう。父親不明のルカは汚れた血が!!とか言って命を狙われそうだ。

 神崇拝系だとどの神様を崇拝しているかでだいぶ事情が変わる。崇拝している神がアルマだった場合はナリスとユーリで何とでもなる。だが、イル=ルカヴェラーダだった場合はその使徒の血を引くルカがいるが、やはり父親不明が響いていちゃもんとか付けられそうだ。リクがいれば解決しそうだが、さすがに政所の執政官を毎日連れ回すわけにはいかない。


「おおぅ、どうしたもんかなー」


 ベストは気付かれずに偵察出来ることだが、さすがにそれは少々難しいかもしれない。何せナリスたちにはこの土地に対する知識がなさすぎる。初めて来る場所なので、どこに隠れたら良いのか、とかが全然分からない。というより向かっている方向があっているのかどうかも若干怪しい。


「案内が…まともな案内が欲しいよー」


 ナリスの今一番切実な願いだ。一応、アザーディーはいるが精霊と人では感覚が違いすぎる。なにせ扉もすり抜ければいいと思っていたくらいだ。人間は壁をすり抜けれない、という事実を知らない精霊は案内には向かない。


「案内ねぇ、いらないんじゃないかな。君たちもよく目をこらして視ればいいよ」


 ルカの言う『みる』は精霊眼、ナリスの場合は森羅万象の瞳を発動させる、ということだ。


「えっと、あ、ホントだ。ナリスも視て」

「えー、どれどれ。…あらま、精霊の光が完全に道案内になってるや」


 精霊に頼り切らないように普段はあまり使わないようにしている瞳で視てみれば、精霊力を抜かれて幼くなった精霊たちがこの場に留まって奥に行けば行くほどその量は多くなっているので、視る者が視れば正しい道はすぐに分かる。


「ずいぶん抜かれてるね」


 ナリスは漂っていた光を1珠捕まえて手のひらに乗せた。下級の精霊の中でもまだまだ卵の状態のような子がふわりと浮いている。精霊力が存在できるぎりぎりくらいまでしか無いので自我もないし、自分の属性が何なのかもまだ確定しておらず、ただただあちこちを浮遊しているだけの存在のようだ。これから精霊として成り立っていく精霊の卵。


「属性まで抜かれているからまっさらな状態だ。ここまでなってるともういっそう清々しいね」


 これからどんな精霊力を吸収していくかによって属性は変化していくのだろう。精霊たちが生まれる場所だと珍しくもないのかも知れないが、こんな場所で視る光景でもないし、初めて視るのでこの量が多いのか少ないのかがわからない。


「精霊の里や世界樹ユグドラシルがある場所なら視ることが出来る光景だけど、これだけ無垢な精霊の卵があるのは珍しい」


 同じように光る珠を手の平の上に乗せたルカがそう言った。


「問題は抜かれた精霊力の行き先か…」

「でもナリス、精霊力って精霊以外に注いだらどうなるの?」

「…あ、ホントだ。どうなるの?ルカさん」


 ユーリに言われて気付いたが、この世界の初心者であるナリスにはさっぱり分からないのでここはルカに丸投げをした。


「えーっとどうだったかな…基本的には同じ精霊にしか意味がなかった気がする。注がれた相手がそれを自らの力に変換する能力がなければ、注がれた精霊力はそのまま体内に留まる事なく世界に放出される。その力を核に新しい精霊が生まれたりするよ」


 つまりこの場にいるのは精霊力を抜かれた精霊と新しく生まれた精霊の2種類いる可能性が出てきた。


「アザーディー、君の親って精霊?それとも他の種族?」

「え!えぇっとぉ、多分、精霊、だと思う。精霊力をあげると水晶とか光るし…」


 アザーディーの言葉が少し小さくなってもにょっとした言い方になっていった。アザーディー自身もあまり確証がなさそうだ。


「水晶か、それも怪しいね。精霊力を吸い取る水晶なんて聞いたことないし、そもそも水晶は大地の精霊と水の精霊が生み出した物だから精霊の味方であるはずなんだよね。水晶だけじゃなくて宝石の類いは大地の精霊たちが大きく関わっているから精霊を傷つけるようなことはしないはずなんだよね」


 ルカがそっと手首を見せてくれた。そこには綺麗な青色の宝石がはめ込まれた腕輪が付いていた。


「これは小さいけれどサファイアだよ。宝石は大地の精霊と他の属性の精霊の合作だ。例えばこのサファイアは大地の精霊と水の精霊、ルビーは火の精霊、ブルーダイアモンドなら風の精霊、といった具合にね。同じ属性同士なら宝石は精霊の力を癒やすことも出来るくらい近しい物なんだ。だから水晶が精霊から精霊力を奪うことはない。むしろ水晶は最上級の癒やしの力を持つ宝石であるはずなんだ」

「じゃ、どうしてアザーディーの水晶は精霊力を奪ってるの??」

「わからない、1つ考えられるとしたら、その水晶が治療している存在が近くにあって、水晶が持つ力だけでは切り抜けられなくて他から力を奪ってまかなっている。くらいかな」


 後はその水晶が独自に持っている能力だ。増幅なのか浄化なのか、と言ったあたりは実物を見なければわからない。


「ルカさん、心当たりは??」

「…あったら今ここにはいないよ。全く心当たりが無いから今この場にいるんだし」


 当たり前のように一緒にいてしゃべっているが、そもそもルカはこの里の執政官の弟、という立場だ。ここが里近くに広がっている森の中だと言うのならば、ルカはこの場のことを知っていても可笑しくは無いはずなのに、全く心当たりが無いようだった。

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