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図書館にて

「こっちこっち、あそこの棚から裏に行けるんだ!」


 アザーディーに案内されたのは図書室の中でも奥まった場所、ではなくて入り口から奥でも近くでもない、中間地点のような場所だった。ただし、置かれている本が古語で書かれている物ばかりだったので、よほどの専門家でなければ読めない代物ばかりだった。だからこそ、ある程度人が出入りする日中でもこの場所に人気は全く無い。ユーリはスキルの読解があるので読めるのだが、古語の本の中でもありふれたタイトルばかりなのですでに解読済みの物ばかりだ。おかげで余計に誰も近づかない。


「うわー、上手く考えてるね。奥だと何か怪しいし、かといって入り口近くでは人の目がある。でもここは普通なら見向きもしない本ばかりだもんね」


「そうなのか?よくわかんないけど、ここの奥が出入り口なんだ」


 そう言うと、アザーディーは壁の中へと姿を消した。


「待って、アザーディー。普通の人間は壁抜けとか出来ないから」


 実体を持たない精霊であるアザーディーは当たり前のように壁を抜けていったが、肉体的には普通の人間であるユーリにそれは出来ない。


「え?そっか、出来ないのか」


 起用に上半身だけ壁から出したアザーディーがそう言ってびっくりしていたが、壁抜けなんて普通の人間には無理な方法だ。…ナリスならやりそうな気もしたが。


「他の、その黒い服の人たちとかはどうやって出入りしてるの?」

「どうだったかなー。オレいつも先に入っちゃうからわかんないや」


 アザーディーはちょっぴり使えない子だった。まぁ、精霊なんて基本自分本位で自分が楽しければオッケー的なところがあるのでそれはもう仕方がない事としてユーリは半ば諦めの境地に達した。


「じゃ、僕は勝手に探すからアザーディーが何か思い出したら教えてね」


 アザーディーの記憶の掘り起こし待ちをしていたら時間がかかって仕方がない。覚えていない確率も高そうだし。そんなわけでユーリは図書館の隠し扉を開くというミッションに挑むことにした。


「基本は、本の置き場所、とかかな」


 ここにある本は、各巻で大きさも太さも違うので本の重さや、本そのものが鍵となっている可能性もある。


「さて、何かの法則みたいなのはあるかな?」


 ユーリは置かれている古語の本のタイトルをじっくりを見返していった。頻繁に動かしているのなら、本や棚に不自然な汚れ、もしくは綺麗な場所があってもおかしくない。ましてここの古語の本は訳されているものばかりなので、新しく見直す必要のない本ばかりだ。その中で動いているような形跡があるものがあればそれが一番怪しい。

 順番に見ていくと不自然に空いている箇所が何カ所かあった。巻数が前後していたり、同じ作者の本が不自然に別の場所にいたり、と。


「これかなー」


 ユーリは巻数を元に戻し、同じ作者の本を並べ直した。すると、奥の壁の方から、カチリと小さな音がした。


「鍵、空いちゃったみたいだね…」


 さて、どうしたものか、と悩む。さすがに1人でここに入る気はない。あからさまに怪しいし、ユーリの戦闘能力はそこまであるわけじゃないので、捕まって人質になるのがオチだ。一度全員集合、とはいかなくてもナリスを連れてじゃないと入れない。


「うーん、ナリスってばどこにいるかな?」

「え?呼んだ?」


 ユーリのつぶやきに返答が返ってきたので振り向くと、モグラを抱っこしたナリスとなぜかルカが一緒にいた。


「ちょうどいいところに!ってゆーか、どうしてここに?それになんでルカさんとノームが一緒にいるの?」

「何かこの子のお友達が連れてかれたらしくて探してたらココに来た。で、ルカさんは…おまけ?」

「ひどい、ナリスくん。僕はおまけなんだ」

「一応聞くけど、ナリス的にオッケーなの?」

「オッケーどころか、もう騒動の大本なんじゃないかと思ってる。でも、こっち側の存在だから大丈夫だよ」


 ユーリの問いかけにナリスは即答した。ルカの正体はいまいちわからないが、ナリスが良いと言うのなら問題はないのだろう。


「ナリスがいいなら大丈夫だね」

「うん。ところでユーリ、こっちの子はなに?」


 ふよふよと漂ってるアザーディーを指さしてナリスが聞いた。


「すげぇ!!あんたもオレが視えるの!?すげぇ!すげぇ!」


 アザーディーが興奮してバタついてるのを見てユーリはため息をついた。さっき警告したばかりなのになぁ、神様やそれに連なる存在は違うと言ったのにアザーディーには自分より強い力を持つ存在を感知する能力もないようだ。とりあえず今のところナリスはまだ消滅させる気はないらしい。


「何かどうがんばっても不自然な生まれの多分中級精霊?生まれ付き持ってるハズの知識も能力も無い残念な子みたい」


 ユーリの説明もアザーディーをかばう気など一切ないほど単純なものだった。


「へぇ、うちのあいるびぃーばっく…じゃなくて、ターちゃん(仮)が微妙に嫌がってるんだけど、本当に同じ精霊族??」


 ナリスに抱っこされたモグラ型のノーム、ナリスの考案の(仮名)ターちゃんがアザーディーをイヤそうな目で見ている。


「一応、自己申告だとそうみたい。ってゆーか、この世界で自分だけが精霊だと思ってたみたいだよ」

「周りにこんなに精霊がいるのに?」

「この子たちは精霊じゃないって教えられたんだって。だから回収してるんだってさ」


 今この場には人型こそ取れていないが、下級精霊たちがうようよいる。だが、その子たちは精霊じゃないと教えられていたから回収、つまり捕まえていたらしい。


「じゃあ犯人?ボクがこいつを拘束してイェルシさんに差し出せば解決する?」


 さっくりと捕まえる気満々でナリスが言ったが、さすがにそれはユーリが止めた。


「だめだよ。この子を拘束したら黒幕までたどり着けない」

「その前にナリスくん、この子をその瞳で視てくれないかな」


 おまけと言われて少し落ち込んだルカが、落ち込みから立ち直ってナリスに言った。

 この中で森羅万象の瞳を持つのはナリスだけだ。その気になればナリスの瞳に視えないものはない。本人が意識して閉じているだけで。


「いいよー。……あれ??」


 さっそく視たらしいナリスは、ちょっと間の抜けた声を発したのだった。

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