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使用許可が出ていました。

読んでいただいてありがとうございます。

 ウル家の屋敷の中で窓の外を見ながらルカは1人、ため息をついた。


「…さて、どうしようかな…」


 口元に人差し指をあてて困ったのポーズをしながらも顔はそれほど困っているようには見えず、ちょっと苦笑いが入ったような笑顔だった。

 先日からこのイル族の里に滞在している商人とお子様たち。内の1人がとてもめんどくさい。向こうの目的はあくまでもお米だというのは分かっているのだが、恐らく介入してくる、というか勝手に巻き込まれてくるだろう。すでにあっちの手の者が暗殺者を送り込んで失敗しているようだ。見た目お子様でも自分たちに手出しをされて黙っているような方ではないはずだ。噂によれば倍返しが基本だと聞いている。


「うーん、兄上は巻き込みたくないんだけどなぁ…」


 自分だけならともかく兄であるリクも巻き込まれたらさらにめんどくさい事になることは確実だ。できれば今すぐ速やかに里内から出ていただきたいが、目的を達していない上に余計な手出しをした者たちのせいで嬉々として介入してきそうだ。


「ねぇ、ナリス様。僕たちはこの里で穏やかに暮らしたいだけなんだけど…ひょっとして今が時代の分かれ目って時なのかな?」


 ルカは少年らしからぬ顔でぽつりと1人でつぶやいた。

 愛し子であるナリスは意図せずして物事を動かしているようだ。否、停滞したこの世界を強制的にかき回して動かすこと、それこそが女神スーリーが望んだことかも知れない。


「女神スーリー様、僕たち兄弟が巻き込まれるのも貴女の想定内の出来事なんですか?」


 応えが返ってこないことは分かりきっているがそれでも問わずにはいられなかった。そんなルカの視界の片隅で、小さな精霊たちがゆらゆらと漂っていた。




「さ、センリ、ヴェイユ、今日はボクと一緒にお出かけだよー」


 朝食をしっかりと平らげて今日もナリスは元気に里へと繰り出していった。ドーラとオリオンは昨日に引き続き市場の調査と交渉と情報集めに行き、ユーリは図書館へと出かけていった。ナリスは猫のふりをした神獣2匹と昨日の仮面のご一行捜しと精霊たちが言っている”あの方”探しをするつもりだ。あの方とやらの傍には傷ついた精霊たちが連れて行かれているようだし、あの方探しは一石二鳥だ。

 出かける前にユーリにはしっかりと注意事項を言われた、主にヴェイユが。なぜかユーリはナリスに言うべき注意事項をヴェイユにしっかりと言い聞かせ、ヴェイユもそれを黙って頷いて聞いていた。ついでになぜかセンリもヴェイユのすぐ横に座って、にゃん、と返事をしていた。


「なぜ、ボクに対する注意事項をヴェイユとセンリに言うのかなー」

「うむ。ユーリは今回に関してはナリス様のことを信用しておらん。我らにしっかり言い聞かせないとダメだと思っているようだ。だが、我もそれは正解だと思う。ナリス様はちょこちょこと暴走するからな」

「そうかなぁ。ボク、自分の出来る範囲でしかやってないと思うけど」

「ナリス様は、自分の出来る範囲が人より広いのであろう?やれやれ、ユーリの心配が現実になりそうで怖いわ。センリよ、我になにかあった場合は迷わず逃げよ。いざとなれば冥府の門を開いてアルマ様の元に逃げるが良い」

「え?待って待って!今聞き慣れない単語を聞いたから!何?冥府の門って。センリはアルマ様の元に逃げれるの?」


 センリはナリスが名付けた神獣なので、アルマの愛し子であるナリスを通じてアルマとは縁がある。そもそもが眠っていたダンジョンがアルマお手製の場所だったので何かとアルマに縁はあるのだが。


「冥府の門は文字通りアルマ様のいる場所に至るための門だ。この世界中、どこからでも開くことが出来る。ただし、開くことができるのはその資格を持つものだけだがな。当然ながら我ら神獣にもその使用許可は出ている。アルマ様はよほどナリス様のことが心配らしくてな、いつでも逃げて来いと言われたのだ」


 神獣が何らかの原因で傷ついたりしたらナリスが悲しむから、と言われて使用許可を出してくれた。もし、ナリス自身に何かあった場合も可及的速やかに開くように言われている。死者の神であるアルマの支配する場所に乗り込んできた場合、相手になってくれるのは、まず過去の強者たちだ。暇こいてる彼らは容赦なく死合ってくれるだろう。


「そっか。ボク、愛されてるねぇ」

「特大の親バカが付いているんだ、いつでも好きなように生きればいいのではないかな」


 現実世界でもちょっと権力と戦力を持っている方々が保護者になってくれているのだ。ならば自分は彼らの望むように好き勝手生きるだけだ。


「でもそうやって聞いておくとホントに何かあった場合はセンリの安全が確保出来るってわかってるから安心だね」


 ある程度の長さは生きて経験も豊富なヴェイユやラピスと違ってセンリは本当にまだ子猫だ。神獣にもなりたてで魔力だってまだまだ不安定なので、ナリスとしてもケガをしていないかとか不安なことがいっぱいだったのだが、アルマの元にいつでも逃げられるのならば安心だ。


「いい?センリ。君はまだ子猫なんだから。すぐに逃げること。ボクたちは危機になってもなんとでもなるから、むしろセンリが逃げてアルマ様を呼んできてくれた方がボクたちの危険度が下がる。いいね」

「にゃーん」


 本猫も言葉が分かっているようで、ナリスに向かってちゃんと返事を返していた。


「うむ。それが良いぞ。センリが安全かどうかだけでもナリス様のヤル気が全然違う。かといって敵がセンリを猫質(?)にでも取ろうものならナリス様が容赦なく葬り去るのだろうがな。手加減してもらえるかどうかの差は大きい」


 それによって敵の情報を得られるかどうかも関係してくる。容赦なく葬り去られるとそこで糸が切れてしまうので残りの情報を探すのも大変になる。生きて捕らえて情報を抜き取るのが一番てっ取り早い。


「ボク、そんな無茶はしないって」


 信用無いなーなどとぶつぶつ言っているが、ナリスは大切な者たちを守るためなら容赦がなくなることがあるので、まずは一番弱点となり得るセンリの安全確保が大切なのだ。


「…ナリス様、色んな意味で一度自分を顧みてみるとよいぞ」


 自由にすればよいとは言ってみたもののそれほど付き合いの長いとも言えないヴェイユでさえ思うことは多々あるのだ。赤子の頃から知っているであろう父のレイやシメオンなどはもっと思うことがあるだろう。

 ヴェイユは主であるユリウスのことも大切だが、愛し子であるナリスことも大切なのだ。それはこの世界に生きるものとしては当然のことなのだが、ナリス自身が自覚して自重していただけると大変ありがたいであろう事態もこの先は出てくるだろう。


「あはは。そうかもね。先に謝っとくね。迷惑かけてゴメンねーこれからもよろしくね」


 そう言ってナリスに微笑まれればヴェイユは諦めてユーリと一緒にナリスに付き合うしかない。


「センリよ。そなた早く大人になって一緒にナリス様に付き合ってくれ」

「にゃー」


 子猫の返事だけがヴェイユにちょっとだけ安心感を与えてくれた。

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