土鍋と精米と糠床
ちょっと投稿が遅れました。オリンピックをがっつり見てました。普段あまり地上波で見ないスポーツも見れたので、面白かったです。
ナリスという名前を持つ、この世界の最高神が他世界の神に願って招き入れた異世界の神族に頼み事をされたノームは大変張り切った。彼の神が作りたがっている『土鍋』なる物を作るのに最適な土を持ってきて欲しいという願いに全力で応えるべく、大地でつながった仲間たちへとその情報を流して土を探してもらった結果、まず普通の人間たちではたどり着くことの出来ない大地にある黒土が最適であるとの結論に達した。
その大地で黒土を管理する精霊たちもナリスが、アルマ様の愛し子にして女神スーリー様の愛し子でもある方が欲しいと言うのなら、と言って快く黒土を提供してくれた。ノームは大変喜んで、黒土を急いでナリスの元へと運んだのであった。
「うわー、すごい土だね。ありがとー」
あいるびぃーばっくしたモグラ姿のノームがナリスの願う土鍋に最適な土を持って帰ってきてくれた。持ってきてくれた黒土を見て笑顔でノームにお礼を言ったのだが、黒土を視た瞬間はちょっとだけ表情が固まった。
確かにその黒土は土鍋を作るのに最適な土だろう。実際に鑑定にもそう出ている。『土鍋』を作るのに最適な最上級の黒土、と。だが、それ以外にも何故か土に、大地の精霊王の祝福やら竜王の雛の寝床、などという鑑定結果が出ているし、黒土自体にも凝縮されたものすごく濃い魔力が宿っている。
「…これで土鍋作った日には、やっぱり外には出せない秘密の宝物になっちゃうんじゃない…?」
魔力の塊が宿っている黒土をふんだんに使って作られた土鍋って、煮炊きした食材にどんな付与効果を与えてくれるんだろう。下手したら普通の水を煮ただけでポーションとか作れるんじゃないだろうか。
「……ま、いっか」
例え本当に水を煮ただけでポーションが作れてしまうような土鍋でも、今は美味しいお米を炊くのに必要な物だ。ぱっと視た感じでは人が採れる場所には無さそうな黒土なので、これで作る土鍋に自分専用の設定をして外に出さなければいいだろう、何よりこの土を選んで持って来てくれたノームにちゃんと完成品を見せて美味しいお米のお裾分けをしなければ、そう思ってナリスはさっそく土鍋を作ることにした。
本来なら土鍋を作るには数多くの工程を経なければならないが、そこは時間もないし魔力によるゴリゴリの力業の錬金術で作っていく。
「土よ回れ。その姿は常に変化をする。無限にして有限。我の思い浮かべるままにその姿を変化させたまえ」
土鍋を思う浮かべながら魔力を黒土に注いでいく。多すぎても少なすぎてもいけないし、魔力を注入する速度が速すぎても遅すぎても思うままに操ることは出来ない。成形は最新の注意を払い、細かく神経を張り詰めて慎重に行わなくては、思い通りの物を作ることが出来ない。今この場だけで考えるなら、ナリスの多すぎる魔力が徒となって細部まできちんとコントロールが出来なければ暴走してどんな作品が出来るかわかった物じゃない。黒土がゆっくりと浮き上がり、その形を徐々に変化させていく。ナリスの願い通りの形と性能を持った土鍋へと自らを変化させていった。そして土鍋の形をした土が周囲を照らすほどの赤い光を放った後にそれは完成していた。
黒く艶やかな外見を持つ見事な土鍋。大きさも家族4人で鍋を囲むくらいは十分にある。
「土鍋ちゃんー、久しぶりだよ」
日本から転生してきて以来なので、6年以上は触れていなかった土鍋。日本にいた時も最後は一人鍋だったので、このサイズもお久しぶりだ。
「これで美味しいお米が炊けるし、冬はこたつで鍋だね」
先ほどの心配はどこかに吹き飛び、完全に食い気が勝った。
「ナリス、出来たの?」
「うん。これが土鍋。文字通り土から作った鍋だよ。煮炊きには最高だから、ユーリも一緒に食べようね」
「あ、ナリス、ナリス!俺も!!」
オリオンが迷わず手を挙げた。その隣ではドーラも手を挙げている。
「当然、私もです。ナリスの欲しい食材が手に入るか否かは私にかかってるんですから」
ドーラ商会の取引範囲が広がればそれだけナリスの欲しい物が見つかる確率が高くなる。お米のことだって、ディオニシスから聞く前にドーラは見つけてきていた。タイミングが悪くてディオニシスの方から先に聞いてしまったけれど、ドーラはナリスたちがフォラス王国に行く前には見つけてきてくれていたのだ。まだ、醤油や味噌といった物も欲しいし、豆腐とかも作りたい。
オリオンには料理全般でお世話になっているし、ぜひ和食を再現して欲しい。それにこの世界の食材や調理法と合わさればもっと違う料理が出来上がる可能性だってある。
「もちろん、2人とも一緒に食べようね」
美味しい食事こそ生きる源だと思っているナリスは、この2人を手放すわけにはいかないので、異世界の知識を惜しみなく使って2人を縫い止める所存だ。ずぶずぶの癒着関係を作るつもりでいる。
「さて、と」
土鍋を一通り撫でた後、ナリスはまずは分けてもらった玄米の処理にかかった。現代日本の精米機で精米した物と同じようになるように細かい魔力の調整をして精米していく。さすがに一升瓶にお米を入れて棒でひたすら突くという昔ながらの技は使わない。あれは時間も体力もいるので、手っ取り早く魔力で精米していった。出た糠で糠漬けでも作ろうかな、と思い糠も風魔法で集めてちゃんと袋に入れていると、リクが不思議そうな顔をして見ていた。
「…その米のカスをどうするつもりですか?」
「漬物つけるんだよー」
「漬物とは何ですか?」
「お米によく合う食べ物って言えばいいのかなぁ。でも、作るにはちょっと材料が足りないからこれはまた今度までとっておこうと思って」
「そんなお米のカスで出来るんですか?」
「正確には、これで糠床って言うのを作ってそこに野菜を入れると美味しくなるんだけど。でも、ちょっとクセがあるから好き嫌いは出るかな?」
お酒のあてにもなるのでナリスは好きだったが、独特の味や匂いがダメだという人も多かった。昔は大酒飲みの親友とは、酒と漬物でいくらでも飲んでいられたものだ。現代ではおつまみも色々出ていたので試していたが、たまに日本酒と漬物という組み合わせでひたすら飲む時もあった。
「その材料とやらが揃ったら私にも食べさせていただけますか?」
「いいよー。海にも行かないとダメだからちょっと時間がかかるかもしれないけど、いつかリクさんにも食べさせてあげるね」
領都カナリアで昆布があるかどうかを見てくるのを忘れていた。なかなか衝撃的な領主様との出会いもあったのでその辺は全部吹っ飛んでいたようだ。そういえば、人魚姫もいるし今度は海底神殿の探索にでも行こうかな、と山の次は海に繰り出す気でいるナリスであった。