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プロローグ

初投稿です。ゆるーい感じで見守ってください。

 まるで映画のセットのような見事な桜咲く日本庭園を眺めながら、青年は傍らに置かれた盃を手に取った。庭師が丁寧に世話をしている庭園は月明りの中で美しく、縁側で夜桜見物を決め込む彼の目を存分に楽しませてくれている。

 ゆらりと陽炎が生まれ、1人の青年が姿を現すと、彼は微笑んで盃を差し出た。


「おかえり」

「ん。ただいま。呼び戻されるのは、もう少し後の予定だったんデスケドー」

 

 日本酒セットの置かれた盆を挟んで同じように縁側に座り込み、夜桜見物を決め込みながらブスっとした彼よりは年若い青年を見てクスリと笑う。


「まぁ、仕方あるまい。初めての休暇転生は終了だ」

「急に呼び戻されたら休暇じゃないよー。ってゆーか、休暇なのに転生って…」

「いいじゃないか。久しぶりに殺伐としてない時代に転生して何の使命もなく人生を満喫できただろう?旅行にも安全に行けたおかげで、俺も各地の酒を堪能できたしな」

 

 彼らは末端とはいえ、神に属する存在。自分は気楽に人の世に干渉することはできないが、彼は違う。

 人の世に降りて、人に紛れて密かに活動することを最高神より使命として与えられた存在。

 その時々で与えられた使命の内容は変わってくるので、彼は性別さえも違う。

 

 初めて会った時は少年だった。

 

 人の世で、人が殺し合い争いまくっていたあの時代に、忘れ去られ取り残されていた力弱き神々の回収をしていた彼に初めてあった時には驚いたものだ。深夜の神社で出合い頭に、心底嫌な顔でゲっと呻かれた瞬間に見事な飛び蹴りを食らったことは未だに忘れていない。その後はふらりと自分の前に美味しいお酒とともに姿を現してはさりげなく情報をくれたり、時には命さえも救ってくれた。そして、自分が人としての生を終えた時には迎えにも来てくれたものだ。

 

 警備の厳しい自分の居城の寝所まで、どうやって誰にも見とがめられずに侵入してきていたのかは謎だったが、気にしてはいけない。

 最終的に自分の臣下の者たちが彼に、お願いですから堂々と正面から入ってきてください!と泣きついていたのはご愛敬だ。


 神として昇華した後、時には美しい女性の姿で帰ってくる彼を見て、何度、同一人物か疑ったことか……!

 ただ、彼はあまりにも何度も転生していたせいかその魂は疲弊してしまっていたので、最高神よりこの時代に休暇を与えられていた。彼はその休暇で各地、時には世界各国に旅行して、お土産と称して色々な種類の酒を奉納して届けてくれた。もっとも自分も彼も最終的には日本酒に落ち着いたのだが。やはり生まれ故郷の酒が何よりも合う。


「それで、呼び戻された理由は聞いたのか?」

「まだー。母上ってば取りあえずボクを呼び戻しただけで、詳しい説明はしてくれなかったんだよね。なんか、知り合いの神様?に頼まれた、とかナントカ」

 

 ちびちびと酒を飲みながら、体育座りをする彼は幼ささえも感じられるが、自分などよりは遥かに年上だったりする。

 

不意に気配を感じそちらを見れば、先ほどと同じように陽炎が立ち昇り彼の母親ーすなわちこの国の最高神、天照大神が姿を現した。

 優雅に息子のそばに座るとその手から盃を奪い、こちらはグイっと飲んだ。


「ははうえ~?」

「ふう。…悪かったのう。無理やり戻して」

「それはしょうがないけど、今度はどうすれば良いの?」

 

 使命を与えられては転生しているので毎度のことだと慣れしている息子だけに話しは早い。とは言え、今回は不本意極まりない。


「次の転生先だが……異世界だ」

「「は?」」

 

 2人分の困惑した声。当たり前だ。何度も転生しているとはいえ、今まではこの国、すなわち天照大神の庇護下で転生を繰り返していた。それが、いきなり異世界?トラックにも轢かれてないのに?

 

「わたくしが妹のように可愛がっていた女神がいてのう。名はスーリー。彼の女神が創った異世界スーリーヤ、その世界に転生して欲しい」

「スーリーヤ?どんな世界なの?」

「スーリーヤは、アレだ。剣と魔法のファンタジーな世界じゃ。本人曰く、マンガとアニメとゲームの世界観に感銘を受けた、とのことじゃ。なので、幻獣なども数多くいるらしい。で、じゃ。その世界で何でも、魔素と呼ばれるものが大量に発生しているらしくてのう。魔素というのは、簡単に言えば空気みたいなもの。あちらの世界では、それがなければ生きていけぬのだそうじゃ。だが、濃すぎれば澱みを生み、時には怪物なども生まれてくるとのことじゃ。時に世界は創造主の思いもかけぬ方向に進むものだが、このままだと世界全体が不安定になり、最悪、崩壊しかねない。で、わたくしに泣きついてきたのじゃ。拒めぬ。1つの世界の崩壊は他の世界にも波及する。そなたが転生することで魔素をある程度は消費できよう。何せ、異世界の、とは言え神という存在が降臨するのだからのう」

「ベタだねぇ」

「ベタじゃ。とは言え放置は出来ぬし、他の神々からはお前んとこがやれって投げられたし。正直イラっときたが、そなたに頼みたい」

 

 チラリと息子を見れば、いつも通りに微笑んで隣の親友から新しい盃を受けとっていた。

 神に連なる存在ゆえに、転生してもそれほど長い時間は人の世では過ごせず、影響があまり出ないように30歳に届くかどうかくらいでいつも強制的に神界へと帰還させていた。どうせ中途半端な付き合いになるから、と言ってあまり人の世では他人と関わろうとしなかった息子が珍しく生前から友誼を結んだ相手。

 男女どちらにも対応できるように中性的な美貌を持つ息子とは違い、こちらは男性的な色気を持つ偉丈夫だ。酒を飲むそのしぐさだけで世の女性を虜にできるだろう。

 便宜上息子と呼んではいるが、男女どちらにもなれる我が子が、神界では好んで男性体でいることが多くなったのは彼という存在が来てからのこと。

 穏やかに酒を酌み交わし笑いあう彼らを見ているのは、密かな楽しみといえる。

 いつも飄々と物事をこなしていく息子は、今回だって文句の一つも言わずに転生していくのだろうが、正直、今回に限っては文句を言いたいのは自分の方だ。

 

 なぜに、愛しい息子を送り出して他世界の尻ぬぐいをしなければならないのか。


 お前んとこの人間が生み出した世界観なんだから、お前んトコで何とかしろ。そうのたまった他世界の神々には取りあえず伝統工芸品の呪いの人形でも送っておこう。

 何か、思い出しただけでさらにイラっときてしまった。


「いっそう、2人とも放り込んでやろうか・・・」

「え?ヤメテ、母上、それはダメ。マジでヤメテ」

「俺はかまわんが」

「黙って、軍神ちゃん!キミが来たら、ボクのいつでもひっそりこっそり計画が破たんしちゃうよ!気が付いたら、キミ、信者大勢作って突撃してそうじゃん!!しかもめっちゃ人を巻き込んで!!」

「ひっそり?こっそり?お前は自分の行動をきちんと思い出した方が良いぞ」

「ボクは無実だ」

「やらかし具合でいえばお前の方がひどいぞ」


 大変仲の良い2人の様子に満足してしまうのは、自分が腐女子の国の最高神だからではない。


 そんな仲睦まじい2人を引き裂いて(?)異世界に転生させろと?それも、マンガとアニメとゲームの生み出した世界観だから、という理由でだ。ならば、そこにさらにラノベの世界観を持ってきて何が悪い?否、悪くない。どうせ息子が降臨した時点で魔素は霧散するし、愛しい我が子がやりたい放題やれば問題など解決(?)するに決まっている。


「チートがん積みで送り出してやろうぞ」


 母は宣言した。


「イヤ、まって、母上。それこそ向こうの世界が不安定になるんじゃ…」

「かまうものか。マンガとアニメとゲームとラノベの世界の神をなめるでないわ!愛しい息子を守るためにも、母が精いっぱいのチートを付けてやろうぞ!」

「イヤ、まぁ、ボク一応神族なんで、すでに存在がチートな気がするけど」

 

 母の愛は海より深く、天より高い。


「その美貌とチートで逆ハーでもざまぁでもなんでもしてくれば良いのじゃ!」

「マッテ、マジマッテ。その考え方でいけば、ボクが受けなの?しかも逆ハー?ゲームって乙女ゲー

の世界も入ってんの?」


 その上、愛しい息子って言っちゃってる以上、男性体での転生は確定。

 BLですか、母上。

 隣でクスクス笑う親友をちょっぴり恨みがましい目で睨んでみるか、効果は全く無い。


「愛されていて何よりだな。ところで、天照様、あちらの神々は干渉してくるのですか?」

「うむ、干渉できるようじゃのう。ただしやりすぎて、おかしな方向に変質したものもおるそうじゃ」

「そうですか…なら、チートの上乗せだ。これを持っていけ」

 

 そう言って、軍神と呼ばれた青年は1本の刀を取り出し、ひょいっと放り投げた。


「わーい、悪目立ちしそうだねぇ。あちらの世界に刀なんてあるのかなぁ?どっちかって言うと剣の

世界っぽい。ってゆーか、ナニコレ?すっっっごい力を感じるんだけど。こんなん持ってた?」

「うむ。ちょっと前に鍛冶師たちが酒宴を開いてな。その時に、今の人の世では刀剣が熱い、という話しになり、無骨なのが良いとか切れ味で勝負だなどと好き勝手言っていたのだが、何がどうなったのか解らないのだが、いつの間にか、みんなで1本作ろうぜ、的なノリになっていてな」


 酒宴というだけあって酔っ払いどもに変なスイッチが入っていたのは確かだ。しかも、拘りの職人集団。

 俺たち死んでんだし、ここ神界だし、ちょっとやばめの物を作ったところで影響ないし、やっちゃおうぜー、的なノリであったのは間違いない。


「招かれていたヘパイストス殿やドワーフ達も日本の刀鍛冶に興味深々で、素材を提供してくれることになったのだが、あちこちで、やれミスリルが良いだの最強はオリハルコンだの、日本的にヒヒイロカネが良い、など現物を持ち寄ってあーだこーだ言ってるうちに、気が付いたら誰かが、それらを合体させててな。そこから酔っ払いどもが次から次へと色んな素材を合体させて行ってたから、正直、誰がどんな素材を持ち込んで、どんな力加減や触媒で合体させたかも謎な状態だったなぁ。で、出来上がった謎の鉱石を鍛冶職人の代表として、|天国<あまくに>殿が鍛え上げてつくったのがこの刀だ。ちなみに炎を提供してくれたのは、ガグツチ様だ」


 ナンデソウナッタ?最高クラスの武器ってそんな感じで生み出されるもんだっけ?


「……どうしてキミが持ってんの?」


 過程はともかく、上位の神々に献上されてもおかしくない神器。


「俺も招かれていてな。………飲み比べの優勝賞品だったんだ………」


 それも酔っ払いどものノリと言えばそれまでだが、神々が関わった誓約として成立してしまっていた以上、最後まで飲んでいた彼の手元に賞品としてやってきた。

 所有者の彼が譲る分には問題は無い。ハズだ。


「まぁ、使い手を選ぶが、お前なら使いこなせるだろう。お前には武闘派たちが寄ってたかってありとあらゆる戦闘技術を叩き込んだはずだからな」

「ああ……うん」


 若干、遠い目になりながら、うっかり黄泉平坂の扉を開きそうになっていた日々を思い出す。

 ひょっとして、ボクの魂が疲弊してたのってそのせいじゃ……うん、考えないでおこう。

 イザナミ様には当分の間お会いする予定は無い。


 だが、くれるというならもらっておいても良いのだろう。だって、今から行くのは異世界だし。


「冒険者ギルドとかあるのかなぁ?確かに、今までとは全く違う世界に派遣されるから、自衛って大事だよね」

「最悪、創造神スーリーさえ残しておけば何とかはなるが、一応、もう一度だけ言っておくが、崩壊だけはさせるでないぞ」

「質が悪いのに絡まれたら、致し方なくない?」


 ニッコリ笑う息子を見て思い出した。この息子は基本頭脳派のはずだが、面倒くさくなると脳筋派に変身するんだった。破壊神だったよ、うちの息子。ちょっと人選間違ったかな?でも、転生慣れしてて、あっちの世界にもすんなりと順応できそうなの、この子だけだし。異世界崩壊さえさせなければ、後はなんとでもなるだろう。


「まぁ、行ってみるよ。住めば都?だし、ってゆーか、向こうの世界で何すれば良いの?」

「あぁ、そうじゃな、そなたが転生しても魔素の増大が止まらぬようなら、その原因を取り除いてほしい」

「絶対、世界樹ユグドラシルとかあるよねぇ。ベタな感じだとその辺が原因かな」

「スーリーヤは神々が干渉する世界。そなたが思うように動けばよい」

「はーい。んじゃ、さっそく行ってくるね」

「もう行くのか?」

「うん。ぐだぐだしたら軽く100年くらいたっちゃいそうだしね。」


 そう言って立ち上がり手を振りながら息子は現れた時と同じようにゆらりと消えていった。

 もちろん、チートは積み込み済みだ。


「行ってらっしゃい」


 親友の旅立ちに彼は盃を傾けた。

 

 行って好きなように生きてこれば良い。帰る場所はいつだってココにあるのだから。

 


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