5話
「ガチャの世界ねぇ……いいじゃないか?、面白そうで。俺の行った場所とは全然違うが」
「面白いのはいいけど、違う、違うぞ」
俺の悪友であるユウジは物珍しそうに、俺が持ち帰ってきたカードを観察していた。
ちなみに肝心の金色の封筒はいくら探しても見つからなかった。
恐らく向こうに置いてきてしまったのだろう。
「どうなってんだ。俺はお前が行った世界を目指してこの魔方陣を作ったんだ」
俺が睨み付けると、ユウジは肩をすくめた。
「俺にも分からんけど、確かお前が異世界に行く瞬間、魔方陣の色が以前見たものとは違った気がする。それが原因だろうな」
つまり、この魔方陣は異世界には行けるものの、どのような異世界に行くかは指定できないということか。
「……よし、じゃあもう一回行ってくる!」
「本気か?さっき戻ってきたばかりだろ」
せめて金のカードは回収しておきたい。
それにもし別の世界に行っても、次こそはユウジの行った世界に行けるはずだ。
「止めてくれるな。異世界ハーレムが俺を待ってる」
俺がリュックを背負い直すと、ユウジは俺の肩を掴んだ。
「まぁ待て、せっかくだからこのカードを確かめてからにしようぜ。俺こういうのワクワクするんだよ」
ユウジは楽しそうにカードを俺に見せてきた。
まぁ確かに、もしかしたら次の世界で役立つかもしれないし、試してみてからでもいいだろう。
「じゃあまず……これなんていかにもファンタジーだな、ファイアボール」
俺たちは庭に移動して、カードの試し撃ちをすることにした。
いいな、まさしくファンタジー系の必殺技って感じだ。
「いくぞ……ファイアボール!」
格好よくカードの名前を叫んでみたが、反応はなかった。
「……えーと、発動!召喚!サモン!ファイアー!」
カードはピクリともしない。
俺は恥ずかしさと怒りに任せてカードを地面に叩きつけた。
「全然変わんねぇ!」
「お」
ユウジが目を見開いたので見てみると、地面に叩きつけられたカードから煙が立ち上った。
次の瞬間、俺の目の前にソフトボールくらいの小さな火の玉が浮かんでいた。
「そうやるのが発動条件っぽいな」
「メンコかよ」
あまり格好よくはないが、まぁ気にしない。
俺は早速試し撃ちをするべく火の玉に手を伸ばした。
「よし、じゃあ早速あそこの缶に向けてってあっつ!!」
火の玉のあまりの熱さに俺は急いで手を引っ込めた。
「そりゃまぁ炎だからな。触ったら火傷するだろ」
普通浮いたまんま良い感じに飛ばせるもんだろうが!
「どうすんだよこれ、これじゃ何の役にも立たないぞ」
「あー、じゃあこれを使つかってみよう」
ユウジが差し出したのはフライパンのカードだった。
地面に叩きつけるとカードは鉄製のフライパンに変わった。
「これに乗せて投げつけたら戦えるんじゃないか」
「カッコ悪いなぁもう」
俺の想像していた魔法と違う。
「まさか他のもこんなんじゃないだろうな」
「試してみろよ。ほら、次のカード」
ユウジが放り投げたカードを見てみると、大きな穴に落ちる人の絵が描かれていた。
落とし穴のカードだ。
「まぁ面白みはないが、これならシンプルで使いやすいかな」
床に叩きつけて見ると、小さな煙が立ち、その場にはカードが残った。
「……これで終わり?」
ユウジは周りの地面を見渡した。
確かに何かが変わった様子はない。
「振り落とす威力が足りなかったか?もう一度おぉ!?」
「威力はばっちりだったらしいな。……思ったより深いな、平気か?」
平気なわけあるか。
道路の溝より3倍は深い。
1メートル半ってところだろうか。
「これはかなり強力だな。いざ逃げるという時には役立つだろう。さぁ引き上げてくれ、足が痛すぎて登れん」
「全部試し終わった後に行く場所が病院にならなきゃいいがな」
次からはユウジに向けて投げよう。
その後色々カードを試してはみたが、どれも一癖ある妙なものばかりだった。
アイスニードルのカードは名前は一丁前だが、実際はただの氷柱だった。
一つ特筆すべきことと言えば、いくら放置しても溶けなかったという点ぐらいだ。
巨大化のカードはかなり期待していたが、身長が15センチほど伸びただけだった。
すごいけど、すごいけども。
他のカードもボロボロの剣だとか、読めない文字で書かれた本とか、使えそうにないものばかりだった。
またそれらの道具はしばらく時間が経つと消えてしまい、カードを見ると文字の部分が赤く変わっていた。
恐らくクールタイムが必要なのだろう。
「いよいよ金のカードを持ち帰れなかったのが悔やまれるな」
「だからもう一度行くんだよ」
俺は部屋に戻り、再び魔方陣の上に立った。
それに呼応するように辺りが輝きだし、足元が透けていく。
「じゃあ行ってくる。期待して待ってろよ」
「はいはい。……また違う色になってる気がするが、まぁ大丈夫か」
彼の呟きはまたも俺の耳には届かなかった。