1話
異世界は確実に存在する。
それに俺が気付いたのは、友人が謎の失踪から帰還した時のことだった。
彼曰く、失踪していた3日間、不可思議な世界で過ごしていたという。
彼の話の中で最も俺が興味を抱いたのは、異世界で彼が出会った魅力的な女性についてだった。
ある者は犬のような耳を生やし、またある者は爬虫類の尻尾を有していたらしい。
これはまさに、俺が何年も読み漁ってきた異世界系小説の世界ではないか!
俺もそこへ行きたい。
そして叶うなら、よくあるなろう小説のようにチート能力を手に入れて、冒険者になって、分かりやすく悪いやつを打ちのめし、同僚の美女や奴隷美少女と結婚したい。
俺は友人に異世界へ行く方法を問いただした。
彼もまったくの偶然で異世界に飛ばされたらしく、有用な情報は殆どなかった。
しかし一つだけ、決定的なものがあった。
異世界に行く瞬間、彼の足元に魔方陣が現れたらしい。
俺はその魔方陣について、無数の書物やインターネットの記事、オカルトサイトなどで呼び出す方法を調べた。
そして遂に、俺は異世界への道となる魔方陣の召喚に成功した!
友人の部屋で!
「やった……やっと俺は行けるんだ……長かったなぁ」
「何回も文句言ったけど結局俺の部屋に作りやがったな……」
俺の友人であり異世界経験者であるユウジが俺に冷たい目線を向けてきた。
だって参考にしたオカルトサイトには「一度魔方陣が発生した場所にはマナが残るため、再発しやすい」って書いてあったのだからしょうがないだろう。
異世界経験者は異世界童貞に対して最大限協力すべきだ。
「なんだよそれ。まぁ、お前がそこまで必死になるのもわかるけどな……ふふ」
ユウジは何かを思い出して気持ち悪く笑った。
こいつの脳内に何があるかは大体想像がつく。
多くは語らなかったが、ユウジは異世界で男になって帰って来たと俺に言った。
つまりはそういうことなのだろう。
……絶対に俺もそうなってみせるからな!
「じゃあ行ってくるぞ、俺の土産話を期待して待ってろよ」
「お、おう。荷物は本当にそんだけでいいのか?」
ユウジは心配そうに俺が背負っている鞄を見た。
鞄の中には一通りの食料やいざという時に役立ちそうな道具を入れてある。
あと砂糖と胡椒も入れた。
異世界ではこれでぼろ儲けするのが定番だ。
「平気だろ、手ぶらのお前も無事に帰れたくらいだしな」
魔方陣の上に立つと、神々しい光が俺を包んだ。
足元から徐々に体が透けていき、そのまま俺は部屋から消えていった。
「行っちまった……俺の時はただ運が良かっただけなんだと思うんだがな」
一人になった部屋でユウジはその場に座り込んだ。
「それにしてもこんな色だったかな……魔方陣」
口にした疑問はもうこの世界にいない俺には届かなかった。