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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第08話「雨に濡れて」

 好きな人トークをした後に寮生組二人と別れるも、咲姫と蘭子の嵐の起こらない冷戦な帰り道を終えただけで……そんな日の翌朝。



 バラバラと窓を強く叩く音。少し肌寒い廊下。ブルッと震えながら歩く僕。猫背でどんよりオーラを全開に、教室後ろのドアを開けて席に向かう。



「おはよう百合ちゃ~んっ。ヒドい雨だったけど大丈夫……だった?」



「……びしょ濡れじゃないか。傘は差したんだろうな?」



「いや……車に雨水かけられたんだ……」



 教室左の最後尾が僕の席であり、その前の席と――そして僕の右の席。そんな角っこを囲む二つ席に座っていた彼女ら。近づくにつれて僕の異常事態を察したのか、半ば立ちあがり不安そうに声を掛ける。咲姫と蘭子だ。



 異常事態というのも、白の映えるブレザーもグレーのプリーツスカートも泥で薄汚れているのだ。そりゃあ見るからに異常だろう。



 ブレザーとスカートは撥水はっすい加工だからほぼ問題ないにしろ、その間はもちろんノーガードである。僕はブレザーを椅子に掛けてびしょ濡れになったカーディガンを机の上に脱ぎ捨てる。……ああ、ブラウスまで汚れちゃったかぁ。こりゃあクリーニングだなぁ。節約を心掛ける家庭としてはクリーニング代が手痛いところ。



「うう、まさか正面から水が飛んでくるとは思わなかったよ」



 僕はハンカチで顔や頭を拭きながら言う。しかし、心配顔から怒り顔に変わる咲姫と、したり顔に変わる蘭子。なんだろう。



「百合ちゃん、やっぱりブラウスの下には何にも着てこなかったのね?」



「あ、ああ……朝急いでてね……。ごめんごめん」



 そういえば昨日、透けないように下に着て――と言われたばかりだったなと思い返す。つまり、咲姫は僕の醜態を好ましくないから、白い目を向けているのであった。一方で蘭子が吟味ぎんみするように僕の身体を眺めているのもそのせいかな……? 変態かっ。



「やはり君はいボディラインをしているんだなぁ……。雨水と言わず、私の手で濡らしてあげたい……。欲情した私の中の男が叫んでいるぞ?」



「なんかさかってる人が居るんですけれどでも……アホなの? クソレズなの?」



 この子は朝から下ネタきついなー。以前は下ネタ嫌いのように見えたけど、僕が好きだからってここまで言っちゃうのはある意味すごい激変だ。



 『本気を出す』とは言っても、蘭子ちゃんはどこまでレズ堕ちしてしまうのだろうか。もしかして実はこれが素だったり? じゃないと、そんな風にレズジョークはポンポン出ないと思うけど?



 なんて思っていれば、両手の指をわきわきとさせる彼女。



「あームラムラするなぁ。このうずきをどうするかなぁ」



 そう言って蘭子は立ち上がり、ドアへきびすを返すと――――。



「ちょっと性別変えてくる」



 振り向きそう言いながら、スチャッと手を軽く挙げる蘭子。



「決断軽すぎでしょっ!」



「冗談だ」



「蘭子が言うと妙な真実味があるんだよなぁ……実際、男になった方がいいんじゃないの?」



 そう。仄香と他二名はまだ微笑ましい百合娘って感じだけど、この子は子供っぽさが無い分、ただのエロおやじにしか見えないのだ。クールビューティーだと思っていればとんだムッツリさんである。



「こんなにも美人だというのに、男になったらもったい無いだろう。そもそも私はレズで居たい」



「あー、はいはい」



「軽く流すだなんてひどいな。私は本気でレズだぞ?」



「まあそうだね。レズだからって嫌いにならないから安心してよ」



「嫌いには……か……」



 そんな僕の一言に少しかげを見せる蘭子。この突然のキャラ変更にも思うところはあるのだろうか? ネタでのレズキャラなら良いけれど、あんまり"好き嫌い"という言葉で刺激するべきで無くなってきたかもしれない。



 この数日のセクハラ魔っぷりのせいで彼女を罵しることが増えてしまった。その結果なのか、彼女はレズとしての自覚を持ってきたようだ。レズビアン的にも百合厨的にも良いことなんだけど、その結果セクハラされるのでは内心複雑である。



「とりあえず、保健室に……行こうか」



「保健室でナニしようっての……。その手には乗らないよ?」



 昨日は真面目に惨事さんじだったから受け入れたとはいえ、今の彼女なら何してくるか分かったものではない。僕はノーと平手を突きつけるが、



「馬鹿か君は。着替えないと風邪を引くだろうが……」



 言いながら蘭子は、自分の席からジャージ袋を取り、中から出したタオルを僕に掛ける。柔軟剤の良い香りがするから、昨日洗ってから持ってきたみたいだ。



「羽織っておけ」



「あ、ああ……。セクハラじゃないのね。ごめん」



「構わんさ。……今日はジャージを持って来てはいないだろうから、私のを貸してあげよう」



「ありがとう。なんか優しいね」



「私はいつでも優しいぞ?」



「それならわたしのを~っ!」



 そんな、まともに優しい蘭子に対して好感度をあげている最中さなか、前のめり気味で手をあげ割り込んだ咲姫。こちらも取り出したジャージを手に掲げている。



「咲姫のじゃあサイズがキツいだろう。特に胸元が」



「ガビーン!」



 妙に古臭い漫画的な反応の姫様。意外なギャグチックで可愛いよ?



 ともあれ、そのジャージは細身用。咲姫の体系に合わせて作られているのだから、仕方がない。



「ちょっと、咲姫を虐めないであげてよ」



「事実じゃないか」



「う、うぅうう……」



 なんて正論をぶつける蘭子を恨めしそうに見つめ呻き声をあげて。そんな様子なものだがら、慰めようとショックを受けている咲姫の肩を優しくポンポンと叩く。



「咲姫はそのままが一番可愛いよ?」



「そ、そぉ……?」



「おっ……? 咲姫にセクハラか?」



「違うから。スタイルや服装的な意味でだから」



「ほら、やはりセクハラじゃないか」



「もうそれでも良いよ……」



 やれやれと僕は溜め息をく。だがそこに、調子を取り戻したのか、咲姫はフッと怪しく微笑み、



「ボクはいつでもWELCOMEだよ?」



 低めに作った声で、僕のあごに手を掛けてくるのだった。



「僕、そんな言い方してたっけ? てーか、ウェルカムなの?」



 ウェルカムなのは"セクハラ"が……でなければいいけれど。

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