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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第04話「"あの日"のできごと」

 朝からずっと一日中、心の休まることはなく。なんだか疲れたなぁ……と思うもまだ放課後があるのであった。我が美少女たちが居るのなら、つまり僕も帰るわけにはいかないと、気だるい身体と心にムチ打って部室に残る。



 だが体育後で疲れているのはみんなも一緒なのか、どこかテンションは落ち着いていて。どうせ騒ぐ気力も無いのなら課題をやってしまおうと、それぞれのペースでペンを走らせていた。とはいっても、僕と咲姫と蘭子は課題なんぞすでに終わらせていて、予習の勉強に入っていたけれど……。



 しかし珍しくも、勉強の得意でない仄香と譲羽は、今回は僕らの手伝いを求めることなくはかどっている様子。頼られずちょっぴり残念ではあるが、彼女らの成長の証だと思えば嬉しく思える。



 咲姫が淹れてくれたローズヒップティーの程よい甘酸っぱさが疲れた身体に染み渡り、ぼんやりしていた頭も冴えていく。BGMとして流れているヴァイオリンソナタもまた集中力向上に一役買っているだろう。



 ちなみに、蘭子が「なんという曲だ?」と訊ねて「ブラームスよぉ」とだけ答えた咲姫ちゃんは、やはりクラシックに詳しい様子は無かった。曲名を聞かれているのだから、なんとか短調とか第何番とかという返答が普通じゃないのだろうか。……僕は知らないけれどね。



 そうして、なんの弁明なのか、「聴ければなんでもいいでしょっ?」と僕に耳打ちしてきたりしてきたけど。それ、ある意味で暴論じゃない? うん、お上品目指して背伸びしていることは可愛いと思うよ咲姫ちゃん。



 さて。今日の一日を過ごして気付いたことがある。咲姫も蘭子も、いがみ合ってこのグループの和を乱したいわけではなく、日常生活の上では普通に会話し笑顔で返すようだ。まるで朝の修羅場なんて無かったかのように。つまり恋愛面で僕が関わらない限りは、嫌味な口喧嘩をふっかけない……。あれっ? それなら僕が消えればこの二人の関係は良好になるんじゃないの? 本当のおじゃま虫は僕だった?



 なんて、手が止まっているうちに足元でカラカラと鳴り思考も止まる。



「あーシャーペン落ちちゃったー」



 その音は、静かに課題に取り組んでいた仄香の仕業だったみたい。床に落ちたペンを拾いに机の下へ潜る。



「ゆーちゃん、足邪魔だから開いてもらえなーい?」



「えっ……? こうっ?」



 何も考えず、机の下から響く声に言われるがまま従って。僕の椅子の下まで転がってしまったのだろうかと、言われた通り脚を広げれば――――。



「と、見せかけてぇー。ゆーちゃんのおパンツにぃー、ダーーーイブッ!!!」



「ほあぁっ!? 何やってんのバカッ!」



 僕の股に顔を突っ込んで来たのだった。



 椅子ごとしがみついているため上手くひっぺがすことができず。仄香の頭をテシテシと叩きまくる――が、そんな弱い攻撃じゃ、やめてくれる訳も無い。美少女に強く当たるのはどうしても苦手なのだ。



「すんすん……かすかに生臭い……? ゆーちゃんもしかして……」



「やめてっ! 生々しいからやめてっ!」



 うわぁ……。ただでさえアレな日だってのに、こんな出来事があっていいものなのだろうか。スカートに顔を突っ込まれるだけじゃなく臭いまで嗅がれてしまうなんて……。恥ずかしすぎて地面に飲み込まれて沈みたい……。どんな羞恥プレイなんだろうこれは……。



「あらぁ~百合ちゃん女の子の日なのぉ〜? 痛み止めとか必要ならあげよっかぁ〜?」



「いや、大丈夫だよ……。僕、あんまり辛くないタイプだし……」



 赤面し両手で顔を覆う僕に、咲姫が心配してくれる……が、なんでかニマニマするその姿は、お世話好きのママに見えてしまう。その、動じない仕草が僕の羞恥心を余計にくすぐって、弱々しく返事することしか出来なかった。もう、全身が脱力して仄香の相手もしてられない。



「月より溢れ出る紅き鮮血。百合葉ちゃんのマナが、限界を超えたの……ネ……!」



 続けて「月の儀式……」なんて、譲羽がいつも通り中二病を発症している。見えぬ夜空を仰いで一人盛り上がっているみたいだし、悪いけど無視無視。そこに蘭子が僕の肩を叩く。



「ここには女しかしないのだし、そんな恥ずかしがる必要は無いだろう。……ところで、トイレで替える場合は私に言ってくれ。持ち帰らず、ちゃんとゴミ箱に捨てるのだぞ? 後で私が――――」



「えっ……はぁっ!。 ナニ考えてるのド変態じゃん! 絶対言わないよッ!」



「はっ!? 使用済みナプキンを使う……っ? いやぁ天才かよぉーッ!」



「いや変態だよっ!?」



「いや冗談だ。そう慌てず、真に受けないで」



 セクハラに"本気"を出した今の蘭子なら妙に洒落にならなさそうで怖いんだよなぁ……。いや、冗談の加減が分かっていないのだろうか。というか生理以前に、誰だって股に顔突っ込まれていたら慌てるに決まっているじゃんか……。パニックのあまり、仄香を剥がし忘れていたけれど……。



 でも蘭子の軽口のお陰で普段の力を取り戻せた。そろそろこの子から逃れないと……。



「あぁーこの臭いと感触はたまりませんなぁー!」



 なんて、僕の太ももに挟まれならが頬ずり。



「いい加減どけてよ! スケベッ! 変態!」



「うっひょーっ! ゆーちゃんの罵倒、頂きましたッ!」



「ドMなの!?」



 とは言いつつも、これはどちらがといわずとも"攻め"に近い気がした。まあ彼女も、僕が根に持たず許すことを知っていてやっているのだろうけど……。それ完全にドSな手口じゃない? 侮れない娘め……。



「もういいっ! トイレ行くからね僕っ!」



 やっとの事で仄香をひっぺがし、僕は大きく音を立てて椅子から離れるが、そこに蘭子も立ち上がって、



「おお、それなら私も……」



 なんて、変態と化した彼女が真後ろに。



「ついてくんなクソレズセクハラ魔っ!」



「おお、これはこれは、手厳しいお言葉だ。確かにゾクッとするな」



「アンタもマゾかっ!」



 その言葉にまた口角を上げ、したり顔の蘭子。僕がどうしようと彼女には逆効果とか……どうすればいいの? いつの間に僕の罵倒大会になっていたけれど、 美少女を言葉攻めして悦ぶなどという趣味は残念ながら持っていない。僕ばかりが損だ。



「アタシも……行キタイ」



「あんたも来るなっ!」



 そんな今までの流れからつい、譲羽にまで強く当たってしまう。



「ヒドイ……っ。連れションをしたかっただけなの……に……」



「ユズ言い方下品っ! また今度にして!」



 せめて中二病らしく、"月の衣替ころもがえ"とか上品に言ってくれれば僕は拒否しなかったのに。いやお断りだけど。



 わいわいやかましい後ろを振り向くことなく、逃げるように僕はドアを出てトイレに向かう。全員がガソリンを撒いているんじゃないかと思うほど、僕の心はバックバクの爆炎大火事だった。顔を洗って一度冷静にならないと、戻った後に対処できなさそうだなぁ……。

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