第83話「個人攻略へ」《一章終わり》
「じゃあ、また学校でねぇ~」
「うん、ばいばい」
ウイスキーボンボンの酔いが抜けてしばらくした帰り道。別れを告げる僕ら。踵を返す最後の一瞬まで、いつも通り柔らかで可愛らしい咲姫。その自然さがむしろ不自然で、ただならぬ違和感を感じてしまう。
ウイスキーボンボン事件もそうだけれど、でもどうにも何にも無かったかのようで……。しかし、"いつも通り"というのは、いつの"いつも通り"なのだろう。気付けば、カーテンの裏でキスをされたあの放課後こそ、甘酸っぱい青春を駆け抜けたものなのに、それから、まは二人きりの帰り道をどう送ったのか。
そう、あれ以降。"いつも通り"なのだ。
自室に入った僕は早速椅子の上に体育座り。重ねた両手の平の親指に顎を乗っけて、フラフラと左右に揺れながら思索に耽る。考えをまとめたいときのポーズだ。ちょっぴりカッコよくは無いかなとは思ってもいる。
ようやく僕の百合ハーレムの、原型どころが完成も間近と言っても過言ではないところで、関係にヒビが入ってしまった様子。蘭子は咲姫を訝しげに見つめ、咲姫もまた、以前のような好き好きアピールをしなくなった。そもそも最初から変だったけど、さらにおかしくなった事は確かだ。
先ほどの帰りだって、"いつも通り"というのは僕と咲姫の二人きりの間の話であって、横に蘭子が居たときには、咲姫は蘭子を気にすることなく、僕へのスキンシップを始めたのだった。それこそ、友情を少し踏み外した、キスを交わしたあとみたいなむずがゆさで……。見せつけるように。
しかし、そんな甘酸っぱい僕らの横で蘭子は何も口を挟まなかった。いや、挟めなかったのかもしれない。その整った唇を引き締めたまま……。
この二人の関係を良好にすることが、これからの僕の課題かなぁ。その先にこそ、僕が求めた夢の百合ハーレムが待っているはず……。
と、思ったところで疑問が……。
僕ってハーレムのために特別なことってしたかな? 場所作りとメンバー集めにちょっと頑張った位じゃないか……。
唯一、オトそうと頑張った自覚のある咲姫にだって、言うほど大した事はしていない。自惚れて聞こえるけど、向こうが勝手に惚れてくれた――のかな? それだけに近い。
彼女の好意は出会った当日から薄々感じるものであったから、一目惚れ? まあ僕は顔立ち自体は悪くないからかな……。いやいや、これこそ自惚れか。
もしかしてレズ特有の勘違いだった? 僕が勝手にぬか喜びしただけであって、彼女は女子校のノリで接しただけだった?
おっとと、これはいけない。失敗ばかり考えていては夢は叶わない――と、どこかの偉い人が言っていた気がする。空振りだとしても自信は持たないとね……。今、僕がすべきことは精いっぱい百合ハーレム作りに奔走することであって、くよくよすることじゃないんだ。
難易度が思ったより低かったのならそれでいいんだ。ただ、油断は出来ない。ステージと役者が整ったのだと思えばいい。あとは僕の演じ方、シナリオの練り方だ。
じきに外が寒い日も無くなるだろうから、外出が増えるだろう。仮にも写真部の活動として、屋上と裏庭も使える。百合展開を彩るイベントスポットが増える分、二人きりで行くのと複数人で行くのと、タイミングを分けて考えないと。
でも……"複数人"……。これがネックになりやすい。意外なことに、仄香と譲羽も難点だったりするのだ。ここはもはやカップリングと言って良いほど常にベッタリ、住んでる場所でもベッタリ……。なのだろう多分……。ともかくいつも一緒なのだ。
彼女らとは三角百合でイチャイチャもいいけれど、どちらかというと個人個人で愛を深めた関係に持ち込みたいから。それぞれの攻略に持ち込みたいもの……。
となると……。
立ち上がり言う僕。やることは決まりだ。誰にも邪魔されず接する機会を増やせばいいんだ。みんなの友情もいいけれど、個人攻略へ重点を置くべきだ。
絶対に叶えてやるっ!
決意を再確認。そこできゅうとお腹が鳴る。そろそろ夕ご飯を準備しないと。続きは作りながら考えるとしよう。
明日からまた、意気込み新たに百合ハーレムを目指して。




