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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第81話「アルコールパニック」

 廊下にまで伝わるほどの賑やかな部室を後にし、一人寂しくトイレに向かう僕……なんてことはない。むしろどこまで目論み通りに事が進むか、胸が膨らむばかりだ。



 実際に用を足したい訳じゃあ無いけれど、アリバイ作りの為に行っておく。これは自分が食べるタイミングを遅らせ、アルコール入りに気付くのを遅らせ……あわよくば食べない為の寸法なのだ。もし自分が酔ってしまうようでは意味が無いからね。さて、あの中で誰が酔うだろうか。この後の展開にワクワクするなぁ……。



 温かい便座に座りながら、酔った場合の美少女たちをどう対応しようかと思考を巡らす。トイレと言えば、普通はちょっと汚い印象があるけれど、ここのトイレというのはまた過ごしやすい。クドくない芳香剤に機能満載ウォシュレット。個室にしては鞄置き場などもある広々空間。もちろん、除菌用エタノールも各場所常備。何も気にする事なく、ゆっくりと思索することが出来る……。んっ……? 今僕がやっている、軽く手を合わせて両親指に顎を乗せるポーズ。もしや、サマになっているんじゃないかな……? 



 なんて、便座に座り考えるポーズがキマっている訳は無いでしょ……。僕は脳内一人ツッコミをする。僕は中性顔ではあるけれど、蘭子みたいにクールな美少女ではないのだ。



 彼女等のアルコール耐性など傍から見たら分かるものじゃないけれど、そもそもチョコレートに含まれるほんの微量なんだ。効果がなかったらそれはそれで別に構わないし。何せ面白い事欲しさで投じたお遊びみたいなものなのだ。どう転んだにせよ、みんなのテンションを上げられたのなら良しとしよう。



 このウイスキーボンボン作戦。金曜日に"友だち以上"を意識させる映画を見た後、かつ、彼女等が完全に百合墜ちする前だからこそ出来る――それなりに好意が向けられる今こそが狙い目なのだと思っていたり。いや……最初っからレズ臭プンプンな気がしないでもないけれど……。



 しかし、もし毎日のように自身の想いを告げる機会を伺っている状態でもしアルコール酔ってしまえば、衆前大告白という核爆弾が投下されかねない。告白されれば、一人を選ぶなり誰も選ばないなり、答えを出す必要が出てくる。答えが出るという事は、他の遅れた子は諦めないといけなくなる。



 つまり、告白にまで意識が向いていない今こそが、酔いに任せて程よくイチャコラ出来る……。これが最初で最後のタイミングかなと思ってるのだった。みんな、どことなく僕への好意が恋愛的に見えてきているから。



 トイレの紙が渦に巻き込まれていくのを眺め終えたところで蓋をして思索にピリオドを打つ。手を洗い、酔ってしまったら僕は赤くなるのかなぁなんて、鏡の中の自分と目を合わせじっと見つめていると、トイレの入り口から咲姫が入ってきた。まだ酔ってないのか酔わないだけなのか判らないけれど、いつもの桃色の頬に桃のようなみずみずしい唇である。



「やっぱりわたしもお花を摘みに来ちゃったぁ~……えっ、何そんなに自分見つめちゃって。自分に惚れちゃったぁ~?」



「いや、見た目くらい気にするでしょ」



 化粧水を付けるみたいにピシピシッと顔を叩きながら言う。



「そうよねぇ~。でも百合ちゃん美少年顔だから、たまに錯覚しそうになるわよぉ~」



「そ、そう……?」



 美少年……かぁ。ただの中性顔だと思っていた矢先だから、喜ぶべき……なのかな? そりゃ褒め言葉なのだろうし、小綺麗に見えるという証拠とも言えるから、嬉しいには嬉しいのだけれど……。それが男扱いなのだとしたら、百合に目覚めさせたいのに間違われては困るかも。いやかっこいいなら良いのかな? ちょっと解らなくなってくる。



 そう考え黙ってしまうと、咲姫が個室の取っ手に手を掛けたままモジモジ。



「うふふっ……。もしかして待っててくれるのぉ~お? それともわたしのお花摘みを……聞きたいのかしらぁ~?」



 おっとっと。僕が彼女を視線で追ったままジッと立ち止まってしまったら、そりゃあ尋ねられるのは当然だ。高機能ウォシュレットで音姫も付いているとは言え、人の……お花摘み? を聞くのは気が引ける。そんな趣味は無い事は言わずもがなである。



「変態じゃんそれ……。とりあえず先に戻ってるね」



「もぉ~、いけずぅ~……」



「えぇー」



 それは待たないことに対して言ったんだよね? まあ、残って居て欲しいという気持ちなら気分は悪くないかな……。



 それにしても"いけず"だなんて使う人初めて見たなぁ。意地悪という意味の関西圏の言葉らしいけれど……。死語だろうなと思っていたよ。



※ ※ ※



 明らかに「ゆーちゃんゆーちゃん!」と僕を求める声の聞こえる部室。これは……? ドキドキワクワクしながら扉を開け



「ただいま」と言って、目の前に座っている仄香がこちらに振り向いたかと思いきや……。



「ゆーちゃぁあああんん!!! 大好きだよぉおおおーーー!!! 愛してるよぉおおおーーーッ!!!」



「うわっ! 何!」

 ガラッと引いたドアの音を聞くなり急反応。突然立ち上がり、不意に僕に抱きついて来た彼女。いや、半ば作為的にだろうか。猛烈ダッシュで突っ込んできた彼女を受け止め切れずリノリウムの床に倒れてしまい……。コンクリートでは無いにしろ腰が痛い。しかし痛みなんかよりも美少女優先である。この様子ならとりあえず成功だろう。



 僕に抱き抱えられた形になった仄香が胸元に顔をうずめモゴモゴしている。この際、ヨダレが付くとしても大目に見よう。



 そうして、



「うっはぁ~っ! 美乳最高ぉーーーッ!!!」



 そう言いながら両手で僕の胸を揉みしだく。それもいつもと違い乱暴に。ちょっと痛いぞ? まあ、この程度で美少女が喜ぶのならと思えば、多少の我慢はしなくてはだけれども……。早速のセクハラに恥ずかしくなってきたなぁ……。



「おっさんかいアンタはっ! ねえ仄香どうしちゃったの!?」



 自分で撒いた種で"どうしちゃった"とは随分なペテン師であるけれど、気が付かないふりをしなければならない。作為的とバレる訳にはいかないのだから。



「ぐへへー。ゆーぅちゃあぁ~ん」



 僕の質問には一切答えず。なおも胸にこだわる仄香をやんわり引き剥がし立ち上がると、気付けば真っ赤な譲羽が側に立っている。こちらも酔っているのだろうなぁ。何も言わず、僕の両脇を持ち上げ……られはしないけど。誘導し椅子に座らせたかと思うと?



「百合葉ちゃんほっぺたすべすべー」



 僕の膝の上に対面になるように座り、頬をムニーッと引っ張ってきたかと思えば次には頬擦りをしだす。ムニムニゆずりんほっぺに勝てはしないけれど、その本人に褒められるというのは誇らしいこと……だよね?



「ほか三人はアタシのほっぺに堕ちたというのに、百合葉ちゃんだけは、全然触れてくれナイ……ショック……。だから、ワカラセルっ」



 しょぼくれたかと思いきや、すぐにまた頬ずり開始。これはビックリ。自分の頬にどれだけの自信を持っているのだろう。意外と自覚を持って、愛玩動物となっていたということだ。伊達にいつもムニムニされていた訳じゃない、媚びっ子の誕生であった……いや媚びてはいないか。



 ところで『三人』って、いつ蘭子はゆずりんほっぺをムニムニしてたの? 人前でムニるのが恥ずかしかったの? そう思い蘭子を見てみれば、ぷいと視線を逸らされる。ほほう。僕に隠れて百合百合していただなんて――大変結構であるよ……? 秘密の百合は至上で至高。



 いつもとは違う立場で僕の頬をムニムニ堪能する彼女。背後にはまたしても仄香が抱きつき出すからエラいこっちゃ。やはりそこがこだわりなのか、僕は胸を揉まれている。抵抗するに出来ない状態。



 やれやれと溜め息をついて、ふと視線を外すと机を挟んで蘭子は座ったまま、携帯をこちらに向け始めていた。何かレンズが気になるよ? いつもはもっとクールな表情なのに、やけに穏やかな微笑みで大変怖い。



「嗚呼、素晴らしいなぁ百合は。なあ百合葉……」



 僕らの百合百合を見てご満悦《のご様子。しかし、口にされる"百合"という単語。蘭子も百合好きだったのかな? そういえば、この子が読んでいる小説は女子同士の恋愛が主軸だった気がするし。



「ねぇ……みんなどうかしたの?」



 訊ねる僕。蘭子はその質問を受け、仰々しく天を仰ぎ、酔いしれるように。



「君が悪いんだ……。チョコレートがアルコール入りだったから、みんな酔ってしまったのさ」



「そ、そうだったの……」



 そう言って机に視線を戻した彼女は、愛おしいような手つきで机の上のカメラに触れる。いつの間に置いていたんだろう。



「この携帯で写真を撮って、こちらのカメラではずっと君を録画している。抜かりはない」



「いや、やめてよ!」



 いや、是非とも続けて欲しい。後に僕自身が回収する。そして毎晩百合百合タイムを思い出しながら僕は安らかに眠るのだ。う~ん、良い百合夢を見られそうっ!



「そろそろ……私もうつりたくなってきたな」

 そう言いながら横、譲羽が頬擦りしていない側に立ち僕の腕を取る。そうして、この子も頬擦りを始めるのかと思いきや……。



 かりっ……。と。



「……っ!」



 耳から伝わる甘い感触。離れていく薔薇の香りが鼻孔をくすぐる。



「おおっとすまない。頬擦りのつもりが耳に甘噛みしてしまった。許してくれ」



「どんな間違いなの、それ……」



 この子絶対ワザとでしょ……。恥ずかしいながらもきょとんとしてしまう僕。蘭子も酔っているのだろうか。床にへたれ込んでいる僕を囲うのは、右手に譲羽、背後に仄香、左手に蘭子と。もはやよくわからない混沌と化してしまった部室。僕は三人の美少女に……んっ? 混沌じゃなくて天国じゃないの? あまりの収集つかなさに混乱してしまったようだ。



 でも、酔っているとはいえ、こうも無意味にベタつかれるのはなんか違うなぁと感じる。せっかくの百合百合タイム。嬉しいのに、ときめかない。うっひょ~う! とまで、テンションが上がりきらないのだ。僕は日本に数多と存在する恋愛作品のように、"駆け引き"や"すれ違い"を求めているのだけだろうか。もしや恋に恋していた?

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