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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第78話「自動ドアポージング」

 映画館から歩いて少し。人もまばらなファッションエリアで、トイレから出てくる僕ら四人。ベンチでみんなの荷物を脇に寄せている蘭子。その傍から妙にお洒落なイケメンが立ち去る。



「蘭子どうしたの?」



「今のけっこーイケメンさんじゃなかったー?」



 僕と仄香が疑問に訊ねてみる。一度僕らを見やった彼女は「ああ」と、冷たい目線を遠くに向ける。



「なんだかモデルがどうのこうの。私の写真を撮りたいと言っていたが、気持ち悪いから断った」



 僕らの質問を受けて、敵視するように目を細め遠くを見つめる彼女。たとえイケメンでも気持ち悪いとは、拒否反応の強さが伺える。男嫌いか何かだろうか。



「ほほうっ! それってもしかして読モとかそーゆー系じゃないのっ!?」



「毒……モ? 毒草属性ナノ?」



「違うよゆずりん。読者モデルってことー。つまりはファッション雑誌とかに載るかもしれないんだよー!?」



「はぇー」



 それは年下の子どもに説明するようで。仄香が珍しくお姉さんな一面をみられた瞬間だった。



「それに声掛けられるなんて蘭たんすごいなぁー」



「いや、ただのカメラマンかもしれないし読モとかどうかは分からないが……。まあ、私は美しいからな」



「おういえっ! クールビューティー蘭子様最強だぜ!」



「そうだとも、そうだとも」



 そんなテンションばかりな仄香のおふざけ煽りで、鼻高々と調子に乗り始める蘭子。……薄々、大人ぶりたい厨二病っぽいとは思ってたけど、ナルシストもこじらせてるのかな? 可愛いね? 可愛いよ?



「蘭子は美人でかっこいいしかわいいから。そういう声も掛かるのかもねぇ」



「そ、そうだ。もっと言うといい」



 僕が褒めると少し恥ずかしそうにする彼女。僕に褒められたからなのか、"かわいい"と言われたことに対してなのか分からないけど。



 みんなが褒めちぎって蘭子は有頂天。その様子をじっと見ていた咲姫がトコトコと僕の横に歩み寄る。



「わ、わたしも、街中で何度か声掛けられたことあるからねぇっ」



「そうなんだぁ。咲姫すっごくかわいいからね」



「うんうんっ」



 蘭子に対抗してなのかな? 『咲姫も』とは付けなかった。耳打ちする咲姫ちゃんも可愛い事この上ないのであった。

 

※ ※ ※



 映画を見た後だと言うのに、「一時間でいいからカラオケ行きたい!」という仄香を先頭に、大きな道から逸れた近道らしいルートを通っていく。そうして、大型店舗の中にしては珍しく、ほとんど人通りの無い場所に出たとき、仄香の「はいはーい」という声が響く。



「自動ドアの前でさー。みんなポーズとろうよ。開く瞬間ねらってさ!」



「なんなのそれ」



「イイ……。それ、イイ……」



「いいの?」



 疑問顔の僕をよそに譲羽は乗り気で。提案の意味は分かるにしろ、僕は突然の謎テンションに着いていけそうにない。



「まあまあ~。面白そうだし付き合ってあげましょうよぉ~」



「絶対恥ずかしくない? 恥ずかしいでしょ」



 だと言うのに、咲姫ちゃんは頷き意外と受け入れるようで。しかし、よく考えても人がもし通ったときに辛いなぁと、仄香と譲羽に顔で問い掛ける。



「蘭たんは?」



「…………」



 仄香の問い掛けに、蘭子は軽く閉じた拳の、指の間接をアゴに当てて考えるポーズ。ちらとこちらを見るそぶりは狙ってやっているとしか思えなかった。やっぱりナルシストだ。



「はいっ、きまりー! 蘭たん無効ひょーにつき、3体1でうちらの勝ちー」



 そんなキメ顔を僕に向けているうちに仄香が進めてしまった。少し戸惑いの色を見せるも、すぐに「ふっ、仕方がないな」と笑う蘭子。多分これはこれで乗り気なのだろう。やっぱり、ナルシスト可愛い蘭子ちゃんだ。



 エレベーター前へと繋がる自動ドアの前で、僕ら五人が並ぶ。先に一つ前に出たのはもちろん仄香。



「じゃああたしっから――」



「アタシ……最初……」



しかし、そんな意気揚々と踏み出した一歩もむなしく、譲羽が仄香の腕を掴んで制止する。こんな強引なゆずりんは初めてだ。



「マジで? まあ良いけど」



 引き止めにビックリするも、生き生きノリノリな譲羽を見て嬉しそうであった。やはりみんなでお馬鹿な事をやるのが好きみたい。



「稲妻の力を宿し精霊達よ。我が願いを受けとめ、扉よ、今……開かれよっ! スライドアクチュエーション!」



 扉の前で両手のひらを合わせ陰陽師のように。そして唱えるのは魔法の呪文のように。そして彼女は強く振り向いて満足げにニタァッと笑う。



「おおー」



「ふむ」



「決まってるね」



「ゆずちゃんかっこいいわよぉ~」



「う、うぇへへ……」



 でも、やはり恥ずかしがりなのか、ニヘラァとぶちゃいくに嬉しさを表情に浮かべる。そんな温度差ある不器用さがまた可愛い。



「次、わーたしっ!」



「はぁー!? マジかよぉー。みんなやる気かよぉー」



 そんな譲羽を見てか、咲姫もノリッノリで。仄香はテンションの高い二人を見て、「ゆずっちゃうぞー!?」とよりテンションをあげる。



 僕らからスキップしながら前に進む咲姫。そうして、両人差し指を頬に当てて、片足を曲げ後ろに上げたと思えば……?



「みんなのアイドルぅ~? ちゃそりんっ!」



 その体勢のまま、星でも出しそうな可愛げのある声で言い放つ。



「うー……ん?」



 ぶりっこポーズ……なのかな。戸惑ってしまい、なんにも声をかけられなかったのはミスだった。



「後ろ姿じゃ……ワカンナイ……」



「うむ……」



「がびーん!」



 振り向いた彼女は各々の感想に両手を添えてあんぐりと口を開ける……ウケると思ったのだろうか? そんな姫様も可愛すぎるので、持ち帰ってショーウィンドウに飾りたい。僕だけのお姫様であって欲しい。



 その中で、仄香は興味津々な面持ちで咲姫に近付く。



「ねぇー、ちゃそりんってなにー?」



「よ、幼稚園のころ友だちに呼ばれてたのよぉ……。咲姫ちゃんお姫さまでアイドルみたいだからってぇ……。咲姫ちゃそちゃそりんって……」



「ほほうほう」



 ハテナと首を傾げる譲羽と違ってこちらは純粋な笑顔である。そんな顔を向けられて余計に恥ずかしくなったのか、顔を伏せる咲姫ちゃん。



 しかし、小学生や中学生ではなく幼稚園のころを持ち出すとは……。幼稚園の頃って現実の感覚から遠くない? そんな時期の褒め言葉を真に受けてなのか、未だに引きずる咲姫ちゃん痛い子説が僕の中でぐいぐい得票率をあげている。実際のところ可愛いから気にならないのだけど、もし痛い美少女だとしても大好きでしかないよ?



「ちゃそりんだと、"咲姫"要素が無いよな」



「咲姫ちゃそ……ちゃそ、りん?」



「おういえっ、次から君の名は咲姫ちゃそちゃそりんだ! アイドルだぞぉー?」



 やはり疑問はあるようで、蘭子と譲羽は首を傾げるが、対して仄香は楽しそうに、落ち込む咲姫の肩をポンっと叩きプロデューサー気取りなのか、偉そうにタバコを吸う素振りをする。



「ちゃそりんいいねっ! あたし、次からちゃそって呼ぶわー!」



「そ、それは略し過ぎじゃなぁい……?」



「細かいことはお気になさんなー! ついでだから、語尾も"ちゃそ"にしよっ!」



「そ、そんなの……」



 そこで一度うつむいて言葉を止める彼女。



「そんなの、イヤ……ちゃそ……」



 あぁ~。かわいすぎかよ~!!!



 僕もまた、慰めるように彼女の肩を優しく撫でて、



「アイドル咲姫ちゃそも可愛かったから、今度またやってね?」



 イタズラに妖しく笑ってみせる。



「し……しかたない、ちゃそ……っ」



 うっへっへ、こりゃあやばいたまんな~い!!!



「じゃあ次こそあたしねー」



 てってってっ。と跳ねながらドアの前へ向かう仄香。さて。言い出しっぺの彼女のことだ。どんなに面白い一発ネタを披露してくれるのだろうか――と、皆が喉を鳴らし期待のまなざしで見つめる。



 ドアに平手をかざす彼女。そして、開くようにスライドさせ言ったセリフは……。



「うぃん!」



「コントかいっ!」



「ゆーちゃん、ナイスツッコミ、ありがとうっ」



 ドヤ顔で仄香はサムズアップする。しかし、その味気なさに他の三人はガクッと期待はずれの戸惑いを隠せない。



「難易度低過ぎだろう……」



「だってー! あたしとしたコトが、みんなを超える良いネタ思いつかなかったんだもーん! みんな個性つよすぎー!」



 どうやら彼女は周りを盛り上げたがりの性格みたいだ。しかし、ネタが思い付かないとは、奇才的なセンスがあるわけでは無いようでまた可愛い。ノリとテンションごり押し娘なんて可愛いに決まってるじゃないか。



「それともオープンセサミがよかった?」



「開けゴマよりは面白いかな」



「ふむ……」



「違うんだってー! まさか前二人があんなに盛り上げるなんて思ってなかったんだもーん!」



 二度目の言い訳。思い付かなかったにしろ、本人としては大変悔しかったご様子。



「ま、終わったことはもういいよ。また今度また今度」



「ぐぬぬ……」



 僕が頭ポンポンすれば、仄香は絵に描いたような悔しさをあらわにする。こういう分かりやすいところもまた彼女の美点であると思う。



「じゃあ僕は……」



 次にしようと、練り上げたネタの流れを思索しながら、前に進む。



「あ、終わった三人はガラスの向こうに行ってて?」



 なんて、振り向きながら彼女らへ。下準備も必要だ。



「向こうからじゃないと伝わらないってことねー。わかったぞよー」



 と、素直に三人は向こうに行ってくれた。何故みんなじゃないのかと訊かれたら、一人でやってたら恥ずかしいと言わざるを得なかったけれど。



「自動ドアがある分、声は向こうに聞こえないかも知れないぞ?」



「大丈夫大丈夫。セリフじゃあないから」



 目の前で閉まったガラスを隔てて向こう側。両手を握る彼女達の不安と期待の入り混じった表情が視界に映る。大丈夫。キザでクサクサな、キミたちのお望みのモノを見せてあげる。



 さようならと言うように、軽くひらひらと左手を振りつつ踵を返し、足先を揃える。



 斜め向かいに居る蘭子は腕を組み黙している。僕は貼り付けたままの常時スマイルを解いて、キリッとしたシニカルな笑みを作る。



 そして――――。



 左足先を軸にクルッとターン。扉に向き直るまでそのうちに左腕を伸ばし拳銃のポーズを取って、



「バン」



 彼女達のハートを打ち抜く。フリだけど。



 そうして伸ばした手がセンサーに反応し、発砲した瞬間に自動ドアが開く。うへへっ。計算通りさ。



「ほぇー! くさいー! やばいー!」



「百合ちゃん! 今のすごぉい! かっこいい!」



「決まり過ぎて……惚レタ……」



「あっはっはーっ! いやもう優勝だねっ!」



 もうベダ褒め山の如しだった。キザッたいからどうかなと思っていたんだけれども、彼女たちもノってくれる感性で良かった。一般的な感性なら引いてしまうかもしれないから。



「中々やるじゃないか」



 後ろから蘭子が右肩をポンポンと叩き、僕の横を通り過ぎてゆく。蘭子もキザったらしいコトが好きなのは知っているけど、素直に褒められるのは、やはり嬉しいものである。



※ ※ ※



「あーっ! 蘭たんだけやってない!」



 それは、皆で笑いながら歩き、エレベーターの前に辿り着いてからの叫びだった。



「何が?」



「自動ドアポージングだよ! さり気にゆーちゃんと一緒に店内に入って来てたよねー! きーっ!」



「んっ……? そうだっただろうか。おっ、エレベーターが到着したな。他の人に迷惑が掛かるから、急いで乗り込まないと」



「あっ! やばやば」



 蘭子の言葉に急いで乗る仄香。僕らも後に続く。



 そして扉が閉まってから訪れる沈黙。エレベーターに他人が乗ってると会話途切れちゃうんだよねぇ。



 しかし、次の階で降りた人々を全て見送り終えると、その静寂も破られる。



「逃げても無駄だぞぉっ!?」



「エレベーターだから逃げられないのだが」



 諦めない仄香。地団駄を踏んでエレベーターを揺らす……。



「うぇぇ……」



「だ、大丈夫? ユズ」



「え、エレベーター酔い……」



「大丈夫、大丈夫だからねぇ~。あと少しよぉ~」



「仄香ッ」



「う……ごめんごめん」



 と、苦笑いで申し訳無さそうに仄香は謝る。しかし、咲姫に背中をさすられ、けわしい表情がゆるむと、仄香はまた蘭子に向き直る。



「あたしらが降りるまで誰も乗ってこなかったら、蘭たんにポージングしてもらうかんねっ」



「蘭子ちゃんの、決めポーズ……見タイ……。ううぅ……」



「わたしも見ったいなぁ~?」



「蘭子?」



 ビシッと指差す仄香に、上目遣いでねだる病人ゆじゅりんと咲姫ちゃそ。そして僕までもが蘭子の肩をポンッと叩いて諦めを促す。



「むぅ……、賭けだな……。まあそこまで言うのなら仕方が無い」



 そうして、お決まりのように誰も乗り込まない二階を過ぎるのである。



「ほらっ! 次が一階だかんね!」



「大丈夫さ。考えてはある」



 ゆっくりと重力加速度が落ち、頭がふわっと重くなる。その一挙手一投足を逃さぬように見張る僕と仄香、譲羽を抱き締め撫でる咲姫を背に。二十人位は乗り込めそうな密室で扉の前に立つ蘭子は、大きく息を吸って万全に整える。



 ポーンと鳴る電子音。そのときサッと、人差し指を扉へ、エレベーターが開かれる瞬間――――。



「君に……アイ、ラブ、ユー」



 告白の言葉と開くドアに合わせて指をパチンと鳴らす。



 横一線に切られたくう。決めた手とは反対に顔を斜め下へと向けて止まる蘭子。セリフと相まって、とんでもなくクールでナルシストでエクセレント……。見た目もさながら。すごいかっこ良く見えはした……のだけれども……。



「あっ……」



 下向きでも"唖然"の焦りが見て取れる彼女。その心の目で見る視線の先には……。



「す、すみませーん。今降りますね」



※ ※ ※



「ぷぷぷ……。ら、蘭たん……。気にしないで、いこ? ぷぷぷ……」



「こんな屈辱は初めてだ…………」

「ほらっ、早く」



 顔を両手で覆う蘭子の腰を取り、支え引っ張ってやる。普段クールな彼女も、恥ずかしいとここまでしおれてしまうのか。こんなにも力ない姿は初めてだ。



 クスクスと笑うお姉さん方を尻目に僕らはそそくさとその場を後にし、通路に並んでいたベンチに腰掛ける。



「蘭子、大丈夫?」



「もう少し……もう少しで良いんだ……。休ませてくれ…………」



 指を組んだ両手にひたいを乗せて、明らかに落ち込んでいる彼女。これはフォローが必要かな。



 そう思った僕は、俯いていても分かるほどの真っ赤な耳元に口を近付け、



「でも、ものすごい……かっこよかったよ」



 甘く囁く。



 ハッと顔を上げる彼女。みるみるうちに頬までもが紅に染まる。



「この馬鹿……っ」



 ああやっぱり、クールな美少女はたまらないなぁ~。

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