第76話「再試験のあとには」
そうして勉強を一通り教えきった翌日。
「試験……どうだった?」
ガラッと勢いよく開かれたドアから、縦に並んで行進してきた二人を訝しげに見ながら問う。
「バッチリバンバン!」
「カンペキバンバン……?」
「なにがバンバンなの……」
両手サムズアップする二人。行動と言動が合わさってない。相変わらずノリだけの子たちであった。その息ピッタリ具合、もう双子なんじゃないの?
「無事に通りそうなのよねぇ~? 良かったじゃないのぉ~」
「せやで! こりゃあ余裕っしょ!」
「ほぼ埋められ……タッ」
「おういえっ!」
片手を意気軒昂と掲げる仄香の前で、中腰になって腕をクロスさせる譲羽。やっぱり意味が分からないけど、仲が良さそうで何より。
「とは言っても、まだ答案は帰ってきてないのだから、喜ぶには早いぞ? どこか問題を落としている可能性だってあるのだし」
「のーんっ! ツカノマの夢を見させてくれよぉ!」
蘭子の現実を突きつける言葉。仄香は顔を伏せ泣き崩れる小芝居を打つ。その両肩を撫で慰め、
「ノーノー、仄香ちゃんイジメ、ダーメッ」
「そーそー。ツカノマだぞー!?」
「そ、そうか……」
困惑の蘭子。なんなんだろうそのノリは。安心するにはまだ早いんだから、間違ったことを言ってないんだけどね。
「もう終わったことだし、今は好きにさせてあげよ?」
「……そうだな」
つぶやく彼女。真面目な蘭子に対してノリとテンションだけの仄香と譲羽である。彼女たちが上手く相容れるように、上手く立ち回らないといけないだろうか。
※ ※ ※
その後。教室に入ってきた渋谷先生が譲羽と仄香にさり気なく用紙を渡して、ニヤリとしながらウィンクしたのが見えた。隣同士の席で小さくハイタッチする二人。僕は咲姫と蘭子の肩を叩く。
「どうやら、大丈夫だったみたいだね」
「どーよ蘭たん。七割越えだぜー」
「だ……ゼッ」
全ての授業が終わって早速とのように。三教科の用紙を見せに来る仄香と譲羽。そんなに根に持っていたのか、仄香は蘭子にドヤァッとしたり顔。まあ恨みというよりは、話を盛り上げたくて蘭子に突っかかってるだけなんだろうけど。
「なんだ、ギリギリじゃないか……まあ、ともかく良かったな」
呆れ顔だった蘭子も、そのウザったい表情を見てやれやれと微笑む。「へっへー」と言いながら仄香は蘭子の肩に腕を回す。身長差があって大変そうだけど。
「蘭たんも教えてくれたしなー。あんがとねーっ!」
「あ、ああ……」
大げさなスキンシップに目を逸らす蘭子。やはり距離の近い交友には不慣れなようだ。でも、このくらいで戸惑ってたら保たないよ? 百合百合な意味でね……。ふふふっ……。
「百合葉ちゃんと咲姫ちゃんも……ありが、トウッ。感謝」
それを見た譲羽も、立ち上がっていた僕と咲姫の腰に両手を回し、三人でギューッと……。子どもっぽいあざとさ満点である。もちろん咲姫と二人して「あははっ」となでなでしちゃう。そして「うへへ」と不器用に笑うゆずりん。ああ、なんて可愛いロリなんだ。この子の為ならパパにでもなっちゃうレベル。性別の壁を乗り越えちゃうぞ~?
「せっかく終わったんだしさ。このあとみんなで遊ばない?」
24時間フル営業でも味わいたい百合百合タイムであったけれど、程よいところで僕が声を掛ける。「いいねそれっ」なんて仄香はテンションをあげる。
「今日の授業も終わったものねぇ~」
「いい機会だな」
「みんなで……遊、ぶっ」
「うーん、行きたいところはたくさんあるなぁーっ。カラオケにー。ボーリングにー。みんなで歌って~、カラオケにー」
「どれだけカラオケに行きたいのさ……」
「じゃあキャバクラっ!」
「女子高生の遊びじゃないよっ!?」
呆れる僕。しかし、すぐにでも提案せねばキャバクラ……じゃなくて、カラオケになってしまう。それではいけないと僕は「行きたい場所があるんだけど」と手を挙げて。一呼吸置きまた口を開く。
「みんなで映画を見に行こうよ」




