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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第72話「ロシアン筆箱」

 怒涛の百合ラッシュを乗り越えて。昨日は僕の百合ハーレム計画への大きく変動した一日だった。



 譲羽と仄香との食べさせ合いっこ。仄香の口渡しハイチュー。咲姫とのカーテン裏。疑惑を向ける蘭子……。



 しかし、今は昨日のことを回想している場合ではないのだ……。



 朝のショートホームルームの時間。部室で見つけた写真の、照れるような笑顔なんかちっとも浮かべない、堅い口調でしっかりはっきりと重要事項を告げる渋谷先生だが、僕はそんな美人教師を眺めてなんか居なかった。優等生であるはずのこと僕は僕にあるまじき行動をしており……?



 前の席に居る高身長蘭子ちゃんの影に隠れて読書しているのである。まるで隠れ弁当だ! なんとも不良! マジあるまじき! ……このギャグはつまらないかもしれない。みんなの前で言わなくて良かった……。



 昨日届いたばかりの新作……。病的な愛を表現しつつも、同性ならではの純粋な愛憎劇を一冊で上手く描きだす、この作者の大ファンなのだ。ちなみに発売は明日。



 まさかのフライングゲット。事前入手出来るとは思わなかった。金曜日に届くのだから、休日で読み終えようという僕の日程が総崩れ。



 そんなウキウキ気分が拭えないまま読み耽ってしまえば、知らず内にホームルーム時間はいずこへ。いつものように仄香に



「ねーねー」と声を掛けられ、油断していた僕は「えっ、な……何?」と挙動不審全開な始末であった。



「ゆーちゃんナニ読んでんの……。まさかエロ本……っ?」



 何をどうして、セクハラ娘が今更純情ぶるのか。顔を塞ぎ「やらしー」なんて言いながら仄香は僕の手元を覗き込む。だが、その姿はやたらに嬉々としており、興味津々駄々漏れ漏洩だ。セクハラ事故が目に見えてるよ。



「僕がそんな物読むワケ無いでしょ。そもそも大きさが……」



「ゆーちゃんのエロ本、気になるなー。読ませて読ませて!」



「違うって言ってるでしょ……っ!? 大きな声で言わないでもらえる!?」



 僕が学校でエロ本を読んでいただなんて一生の恥。間違って広まればただただ屈辱でしかない……。



 そのような僕の手を掴む仄香を静止しながら、そそくさと小説をカバンにしまう。



「あー、なんでしまっちゃうのぉー。やっぱエロ本……」



「エロエロうっさいねぇこの子は!」



 流石は思春期。エロ本に騒ぐのは男子のイメージが強いけど、女子とて性に対する興味はさして変わらないのだろうか。



 そして、見せまじ――と、僕は小説の定位置であるクリアケースの間へと閉じ込め、チャックを締める。



「ねー。なんだったかくらい、おっしえってよー」



 それでも興味の糸を断ち切れないのか、僕の肩を揺すり食い付いてくる。僕はそうだなぁ……と一瞬考え、



「哲学の小説だよ」



 同性愛とは何たるかを描かれているため、大嘘とも言えない事実を平静を持って返す。すると、彼女が「うげっ」と嫌悪を示すのは予想通り。



「てつがくぅー? そんなもの読んでどうすんの。サトリでも開くの? シュギョーソー?」



「人間の感情とはいかなる原動力によって突き動かされ、どのようにして理屈では測れない衝動を起こすのか――って感じ?」



 これまたあながち嘘ではなく、いわゆる恋愛衝動のこと。理屈っぽすぎて、いくら理系の僕であってもさっぱりよく分からない言葉の連なりを言い終えると、仄香は渋柿の様な顔をする。オレンジ色の髪の毛にぴったりだ。



「うへぇー。めっちゃムズそう。そんなヘンテコなの読んでるとアホになるよ?」



「ははっ、ありがとう。"アホノカちゃん"ほどには"ゼッタイ"ならないけど、気を付けるね」



 ちょっとこれはキツい冗談だったかなと思いつつ。要所をわざと強調させ、爽やかスマイルで彼女に微笑みかける。そうすれば、ほら……。



「あっ! 今バカにしたねバカにしてるよね! ムキーッ!」



 可愛らしくも怒り出すのである。そして「怒っちゃうぞぉ~っ!」と追加したあたりも可愛い。どことなく怒り方が咲姫ちゃんぽいけど。



「あはは。からかってごめんね。やっぱり、小説よりも仄香と話してる方が面白いよ」



 からかいの慰めにクサめ少々な味付けで言ってみる。百合はテンプレクサい味付けも好みなのだ。



「そ、そんなフォローは要りませんーッ!」



 プイッとそっぽを向くも、少し頬が緩み嬉しそうな仄香。好感度のリカバリーは叶ったのだろうか。小説の話題もフライアウェイだ。



「仄香、決まったか?」



 そうしているうちに、ドアから向かって来た蘭子が話し掛けてくる。咲姫と譲羽も一緒だ。トイレにでも行っていたのだろうか。んんん? 僕の仲間外れ臭? まあ読書中だから気を遣ってくれたのだろう。仲が良いとて程良い距離感だ。



「何が?」



 決まったのだろうかと問いてみる。



「そうだよっ! ロシアン筆箱大会を開くんだから、参加してよねッ!」



 ビシッと僕に人差し指を向けた仄香は、ポケットから、線の引かれ折り畳まれたルーズリーフを取り出す。



「ロシアン……筆箱?」



 遊び企画だろうか。再び僕は尋ね……目の前でトンボ捕まえるみたいに指回すのやめません? 仄香ちゃん? 僕の目が回っちゃうよ?



「筆箱を交換するの、アミダくじで! ぐへへ……。ゆーくんの筆箱を丸裸にしちゃうぞぉ……」



 仄香が怪し気な表情で、グルグルしていた指を今度はワシャワシャと向けてくる。忙しい手だな……。



「僕の筆箱にナニが入ってると思ってるの……」



「えっ……? 授業中に眺める用のエロいおねーさんのエロ切り抜き?」



「妙にリアリティあって生々しいよ……」



「じゃあカンペ?」



「もっとリアリティ増したけど、カンニングするわけ無いでしょ、仄香ちゃんより頭が良いんだから」



「ぐえっ! ぐ……うん。まあそんなのはいいからー! ゆーちゃんの筆箱はあたしのミラクルでマイアイテムになるのでしたッ!」



「決定事項なのッ!?」



 僕が言うのをよそに、仄香は「うぉおお」とハンドパワーをアミダくじに送る。不正していないか心配だが、どんなマジックを使ってでも、まだ誰も記入していないアミダでは無理だろう――と。そもそもトリックを仕込むほど仄香は頭が良くない。手先も器用でない。



「やるなら早く始めないか? 授業が始まるぞ?」



 そんな姿を見かねた蘭子がゲーム開始を促す。時計を見れば次の授業まで残り五分を切りつつあった。



「そうだね、アホはほっといて始めようか」



「んっ……!? 誰がアホだって!?」



「アホノカちゃんの事だよ」



「アホノカじゃないしッ!」



「じゃあアホの子?」



「だからアホって言うなーッ!」



 僕がまくし立てる様に"アホアホ"連呼するので怒りを露わにしている。でも、ここは首を傾げて黙ってみる。



「なにぃその疑問顔わぁ~っ!?」



 沈黙したまま顔を逸らす。



「やい無視すんなー! こうなったらー……」



 短距離走のスタンディングスタートの様に、大きく予備動作をする仄香。こうなれば次の動作は決まっている……。まずいまずい……っ。



「ぐっへっへー! セクハラ仄香タックルだー!」



「技名なの!?」



 「てりゃー」と言い、僕に突っ込んでくる彼女を受け止められるよう、さり気なく身構え受け身。「うわっ!」と驚いたフリをする。



 その甲斐あって無事、椅子に座る僕にピタリと抱き着き、「えへへぇー」とスリスリ。主に僕の胸に……。そんな仄香の様子を見ていた咲姫が唇を尖らせ、



「あっ、ほのちゃん抜け駆けやぁ〜あ!」



 仄香ではなく僕をポカポカ叩いてくる。ナニコレ可愛い。『やぁ~あ』も可愛い。



 しかし、そんな百合百合タイムも束の間、「コホン」と蘭子が咳払いをする。



「スキンシップも良いが、アミダくじに記入していないのは仄香と百合葉だけだぞ?」



ハヤク……」



 いつの間に書き終えたのか。微かに呆れ顔の蘭子がアミダ用紙を「トントン」と叩く。そして譲羽はそんなに楽しみなのか、「フンス」と鼻を鳴らしている。



「じゃあ書きますか……」



 僕は仄香を引っペがし、アミダくじに名前を記入する。そして仄香は丸の中に『ホ』と記号を書く。一人だけ浮いてて実にアホっぽい。



 そして指で辿っていく線の羅列。何の因果かは分からないが、僕は仄香の筆箱を使うことに。彼女の筆箱は水玉模様の入れ物に反してビビッドな色ペンぎっしりで、きらきらシャープペンシルを取り出すだけでとても一苦労な中――――。



「うぬー。譲りんの筆箱かー」



 中二病的な銀装飾がチャラチャラと鳴る文具セットになったのだった。

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