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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第65話「調理実習」

 そうして、三四時限目の家庭科。調理実習の時間だ。



 轟々と換気扇の音が鳴り響く教室。シンク付きの大きな机の上には、人参玉ねぎジャガイモなど、一般家庭には欠かせない具材が並ぶ。それを囲う僕ら五人。



「さて。では、お米研ぎと野菜の皮むきを始めましょう。次の時間には炊き上がりますから、順調にいけばそのままカレーライスを食べられますよ」 



 黒板に手順を書き終えた家庭科の先生が僕らに言う。



 各グループ、わいわいと話ながら担当の作業にとりかかる。



「さあて、僕らも始めようか。ユズと仄香がお米と鍋係、僕ら三人が野菜係ね」



 遅れないようにと僕らも役割分担を確認して作業に入る。包丁ではなくピーラーとはいえ、指の皮を切らないとは限らないから、危なっかしい二人を楽なほうへと割り振ったのだ。



 しかし、それが不服なのか仄香は口角を釣り上げて怪しく笑う。



「へっへーんだっ。包丁使ったことないからって、あたしを舐めてるね? しょっぱい思いをさせてやるぜー」



「何それ汗なの……? お米をしょっぱくしないでね?」



「多分だいじょーぶっ! よーっし。腕によりをかけちゃうぞぉー」



 僕の言うことなんかどこ吹く風で。お馬鹿なことを言いながら仄香はニンニクだのコンソメだのを両手に構えだす。それはカレーに入れたいんだよね?



「ところで、『より』ってなーに? 塩じゃないの?」



「なに、おにぎりでも作りたいの……?」



「それだ! おにぎり!」



「カレー"ライス"を作るんだけどなぁ」



 確かに色々食べ方はあるだろうし、カレーおにぎりは……難しくない?



 そこで、譲羽が見えない何かを手に持って素振りをする。



「……! 百鬼夜行を切り裂き無双、鬼斬リ!」



「おおう! やるなぁゆずりん! 辻斬り!」



「なんと……辻斬り使いだなんて……。ならこちらは回転斬りでボウギョ!」



「なんだってー! じゃーあたしは閉店ギリギリ!」



「意味が違ってきたよ……いいから早く作り始めようね……」



「そうだった! それじゃあ手塩にかけてジャパニーズおにぎりを作っちゃうかっ!」



「だからおにぎりじゃないよっ」



 本当にコントみたいな生き方をする子だ。でも、譲羽のボケを拾ってあげる彼女の優しさも感じたりする。なんだかんだ譲羽も自由だけど、仄香のノリの良さも合って成り立つのだ。彼女一人の場合、その中二病具合はどうなるのか見てみたいところ。



「カレーにおにぎりは食べにくいだろうな」



「ナンみたいに付けながら食べるのならぁ~……う~ん、食べにくそうねぇ。おにぎり食べて、カレー食べてかしら」



 ふざける仄香に巻き込まれている間にも、手は留まることを知らず。ずっと準備してくれている咲姫が、僕らに目もくれず作業をしたまま声を挟む。その姿、なんだか主婦っぽいぞ? ピンクエプロン主婦咲姫ちゃんスーパー似合う。ぜひ嫁に欲しい。いや、ママに欲しい。



「とにかく、仄香はあんまり張り切らなくていいからね? 僕らが頑張るし」



「ほぉー? 確かに? あたしの情熱で焦げちまうかもしれないし? しょうがないなぁー」



 ニンニクのチューブをピストルに見立て、フッと銃口の煙を吹く素振りをする彼女。



「焦がすのも味付けも心配だからさ……。ニンニク入れすぎそうだし……」



「んんーっ! ニンニクは元気の源なんだぞぉー!?」



「だからって入れすぎは良くないよっ」



「お口が臭くなっちゃうわよぉ~っ」



 ラーメンに油多めの前科があるから怖いなぁ。本気なのか冗談なのか分からない仄香を説得しようとする僕と、その後にぷんぷんと言いながら咲姫がツッコむ。



「量次第では胸焼けしちゃうしさ。やめようね?」



「胸が……焼ける? おっぱいがバーニングファイヤーなの?」



「なんで英語……。僕らの歳じゃあ中々ないけど、"胸焼け"って知らない? ラーメンみたいな油っこい料理とか食べ過ぎで胸が焼ける――というか……」



「あたしに惚れると……胸焼けするぜ? ってやつ?」



 またしてもニンニクチューブに息を吹きかけ、逆の手の指をパチンと鳴らしながらキメ顔を作る仄香。胸焼けするとか……クドくて重い女という事だろうか。合ってる様でこれまた間違ってるのが可愛い。



「それを言うなら『火傷するぜ?』でしょ」



「バーニンッファイヤー!」



「うるさいわっ!」



「炎の精霊イフリートの魂を宿した仄香ちゃんが、今、その力を、解放、するというノ……ッ!?」



「ユズもノらないでね~っ!?」



「うえぇ……」



 ペンッと優しくツッコみ叩けば呻くゆずりん。ちょっと口調が強くなってしまったかな……。でも可愛いからもっと叩いてみたいところ……。ペンッ、うえぇ。ペンッ、うえぇ……。もはやぬいぐるみじゃないそれ……?



「ようするにー? 食べ過ぎると胸が焼けると言うわけなんだね……。どうりで胸が膨らまないと思った。あたしの胸は食べ過ぎで焼け消えたのか……。ぐぬぬ。ラーメン通がこんなところに祟るだなんて……」



「最初っから消える胸が無いじゃん仄香……」



「んん~っ!? 誰の胸が焼け野原だって!?」



「そこまでは言ってないよ!」



「ほのちゃ~ん、"まな板"取ってぇ~」



「んん~っ!? 誰の胸がまな板だって!?」



「いや料理の話だから! 咲姫も悪ノリしないのっ」



 「えへへぇ」と咲姫は蘭子からまな板を受け取りながら照れる。彼女は"まな板"では無いのかな。僕はちゃんと見たこと無いけれど。



「うぬぬ……貧乳の自覚はあっても悔し過ぎてクヤシンス」



「意味が分からないよ……」



 そこに咲姫は野菜を洗い終わったようで仄香の後ろから両ほっぺたに手を当てる。



「ひぃ~やしぃ~んすっ」



「うへへー。ヒンヤリしてるぅー」



 実にウェルカム百合空間が出来上がった。



「んで、胸焼けになるってどんな風なの?」



「うーん、何と言うか……。胸がムカムカしたりキリキリしたりするみたいな……?」



「んんん? そっかぁ。ゆーちゃんのお胸はすごいなー。食べ過ぎるだけでお怒りヒステリックなのかー」



「いや、そこまでじゃないし。ってか体調不良の一環だし」



「これはストレスを解消する為に揉んであげるしかないねーッ!」



「うわぁっ! 変な理由付けてセクハラすんなっ!」



「ひやしんすっ?」



「咲姫も便乗して触らないっ!」



 美少女二人に前から揉まれ、エプロンの横から手を差し入れられ。僕はセクハラに嫌に思いながらも、胸がいっぱいでありました。



※ ※ ※



 ようやく本格的に料理を始める。しかし、もちろん集中なんか出来ない僕は、チラチラと横目に見ながら作業。



「ゆずりん。お米を洗剤で洗っちゃ駄目だよー? 水で洗うだけだからね」



「そのような愚ろかな真似は……シナイ。アタシをあまり舐めない方がイイ……。それにこの米はノー! ウォッシュ! ライス……!」



 水の流れるように両手と体でゆらゆら揺れて、最後に指揮者が曲を止めるような動作で片手をギュッと握る、即席創作決めポーズ。無洗米と言いたいのだろうか? 唖然としてしまう……けどこの子はやっぱり可愛いぞ?



「舐めるというか心配してるんだけどね。それに今回は無洗米じゃないよ?」



 手を休めて言う僕。クラスの誰かが遊びで持ってきたバニラエッセンスを、良い匂いがするというだけで舐めた彼女だから、つい過保護になってしまう。



「ウソ言った……。カッコつけたかったの……」



「……そっかぁ、なるほどねぇ」



 苦笑い。でも微笑ましくもあったり。こういうイベントだからゆずりんもテンションが高いみたい。百合漫画を買った時も誕生日パーティーの時もノリノリだったし。



「つまりこれは!。 イェス! ウォッシュ! ライス!」



 そんな譲羽に英語でノッかる仄香。



「それ意味違うんじゃない?」



「んー? ま、適当っ!」



 相変わらずのノリだけ娘であった。



「多分、無洗米がアンウォッシュドライスとかリンスドフリーライスだから、通常の洗米はウォッシュドライスだと思うがなぁ」



 あごに手をやり考える蘭子が模範解答を示す……よく英訳分かったねと、感心してしまう。



 すると、それを聞いた仄香は目をランランと輝かせたと思えば、手のひらを上向きに高く挙げ、



「ハァアッ! リンスドライスッ!」



「カッコイイ……! ならなこっちモ……。対抗魔術! ウォッシュドフリーライス……!」



 対し譲羽はバリアを張るように両手のひらでガード。何やってるんだこの子らは……。元気そうで何よりだけど。



 呆れつつ二人を見守っていると、横でずっと皮むきしていた咲姫がパンパンと手を叩く。



「さあさあ、早くやっちゃわないと食べれなくなるわよぉ~?」



「はぁーい、咲姫お母さーん」



「咲姫ちゃんママ……」



「だ、誰が年増ですかぁっ!」



 そんなこと言ってないよ?



※ ※ ※



 咲姫と蘭子のしっかり者二人はほっといても大丈夫だから、僕は米を炊こうとする残り二人をジッと見守ることにした。炊飯器の釜には乾いたお米が五人分。先ほど、グループごとに計り方を教わりながら入れたものだ。胸を張りながらカップに掬った精米を、炊飯釜に一合ずつ入れてゆく譲羽だったけど、一合という概念は正しく持ち合わせていたようだ。



 おや、意外とちゃんと出来るんじゃないかな? と思い返している間に、そのお釜をゆっくり持ち上げる。かと思うと、そのまま炊飯ジャーに嵌め込む……。んっ……?



「待ってよユズ。なんで、もう炊飯器に器を入れてるの?」



「……刻々と過ぎゆく時の中で、早いに越したことは……ナイッ」



「ちがぁ~うっ! 水が入ってないよっ!」



「――ッ!? 気付かなカッタ……!」



 つい強くなってしまった口調にビクッとする譲羽。ビックリなのはこっちの方なんだけどごめんね……。ただ、水無しで米が炊きあがるとか物理法則ガン無視だよ……。もうびっくりしちゃったよ……。



「水を入れないで炊いたらどうなんだろうねー」



「乾いたまま熱せられるから、弾けるかもしれないな」



「まじっ!? それ花火じゃん! やってみよ!」



「駄目だよ!」



 こちらもこちらで危なっかしかった。僕の作業が全く進まない……。役割配分間違えたかな……。

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