第63話「どうして特別なの?」
「またねー蘭子」
「また明日ぁ~」
「ああ、また」
蘭子との間にドアが閉まり、次の駅へと向かう電車を見送る僕ら。誕生日パーティーの後、次々と皆と別れていき、ついには咲姫と二人きりとなっていた。今の駅でだいぶ席がすいたけれど、そのまま立ち続ける。
今日のサプライズの発案者が僕だということで、少なからず彼女の中での僕のポジションがまた特別なものになったと思うんだけれど、どうなんだろう。
心の隅で期待と不安が蜘蛛の糸みたいにグルグルと絡み合う。でもこんなところでくすぶっているワケにはいかない。せっかく二人だけのこのチャンス。今日も彼女の気持ちを揺すぶらなければ。
「今日のパーティーは楽しかった?」
「うんっ! まさか誕生日を知ってるとは思わなくてびっくりしたぁ~」
ドアが閉まって間もなくして語り口を切る。もちろん今日の出来事だ。
ぬいぐるみ入りの袋を抱きしめて満面の笑みで答えてくれる咲姫。オシャレな彼女にファンシーというのは、少し勝負に出たところだけど、成功したみたいで内心グッとガッツポーズ。
「良かった良かった。友達になって連絡先を交換したときに思い付いたんだー。狙い通りだよ」
見つめウィンクしてみる。そのとき一瞬だけ咲姫の微笑みがニヤけに変わって、やっぱり意識してくれてるんだなぁって嬉しく思う。
「そんな時から考えてくれてたの?」
「そうだよ。だから部室を早く用意しておきたかったんだし。咲姫を驚かせてうんと喜んで欲しいからね」
素直に答える。そうすると、穏やかな笑みから疑問顔に。
「どうして、そこまでしてくれるの?」
「……だって咲姫は特別だから」
「特別……どうして?」
首を傾げ質問を繰り返す。しかし、その可愛らしいパチクリとした目を見ると、理由もなく尽くしてあげたくなるのだ。強いて言うなら美少女だからというゲスな理由に過ぎないけど。
そこで……。
「わ……」
「おっと」
びゅうと風が吹きこむ。長いロングウェーブの彼女が煽られ、僕に体を預ける形に。なんと、良いタイミングだ。
「どうしてだろうね」
もののついでに、額をコツンと当てて問いかけてみる。そうしてみるとやはり効果はあるようで、みるみる顔が赤くなるのが分かってたまらない。
震える唇が動揺していることを教えてくれる。声にならない声を出し、しゃべろうとしているようだけれど言葉に出来ていない。
「ふふっ。やっぱり咲姫ってかわいいね」
彼女の頬に手を添え微笑んで。メイク無しでこれだけ可愛いんだからそりゃあ特別に決まってるさ。なんて。
「もうっ! もうっ! かわいいって言えばいいと思ってるんでしょ!」
「あっ、バレた?」
返しに困ったのか、頬を赤く染めたままぷんぷんと怒り出すので、ここでちょっとおどけてみたり。
「でも、本音ではあるよ?」
「ー~ッ!」
そこでまた真顔で返してみると、彼女がやんわりと僕を押し返して……ちょっと姫様そこは胸なんですけれど。
それに咲姫も気付いたのか、触れたままムニムニと。
「い、意外とあるのよねぇ……」
「そこは気にしないでもらえる?」
つい苦笑いしてしまう。僕だって好きで胸を大きくした訳じゃあ無いんだ。走るときなんか重たくて邪魔だし。下手にブラのサイズなんて間違えられないし。
「こんな女の子なのにイケメンぶっちゃってぇ……」
「えっ、なんだって?」
「なんでもなぁ~い……」
「もう、何さぁー」
少しはイケメンに見えているかな? 高校デビュー前に色々頑張ったり研究しただけであって根っからのイケメン女子ではないから不安ではあるんだけど。
それにしても、ちょっと前までは余裕も見せていたのに、だいぶどぎまぎした素も現れてきた。良い傾向かもしれない。それでも、蘭子への好意をみたいな何かをぶつけるかな?
そうして駅前の道路から静かな住宅地へ抜けた僕らは、小鳥カップルみたいに戯れ、小突いたり揉まれたりして帰路についた。




