第61話無「部室パーティー」
「おたんじょーびぃー?」
「おめでとー!!」
百合定めのあと百合百合な食べ歩きしたり、プレゼントを選んだりした休日を終えて月曜日の放課後。部室に入るなり、上座に座らせられて目をパチクリと白黒させる咲姫に、仄香の声を合図として僕ら三人が両手をあげ祝う。ちなみに仄香の声が大きすぎて僕と譲羽の声はかき消されてしまったようだけど……。蘭子も口は開かなかったものの、ささやかに小さく拍手。
「わわわっ……え~っ!? ありがとう~!」
「はいはーい。それではケーキと紅茶でーすっ!」
未だに理解しきれていない咲姫を尻目に仄香は冷蔵庫に隠していたカットケーキとペットボトルの紅茶を取り出し、その間に譲羽は紙製の皿とコップを用意して、そこに仄香が盛り付ける。不思議なまでに息がピッタリだ。
「ローソク無いけど、ハッピーバースデーしようぜぃっ!」
「皆で詠ウ……。この世で最も詠唱される事の多い唄ヲ……」
「え、えぇ……」
仄香と譲羽のやる気に押され、戸惑いつつも嬉しさ半分に咲姫が頷く。仄香の「はっぴぃばーすでーとぅーゆー」と言うのに合わせて、僕らも歌う。
「ささっ! 火があると思って消してみて!」
キョトンとしつつも息をふぅ~っと吹きかける咲姫。そのとき、どこに隠し持っていたのか、仄香がパンッとクラッカーを鳴らす……やたら準備がいいな……。
「ふしぎ……。わたしの誕生日、誰にも教えてなかったのにぃ」
「それはなんとっ! スーパーハッカーゆりはすが情報を盗み見したのだー」
「そんな犯罪的な事してないよっ」
徐々にニヤつきを隠せなくなってきた咲姫にヘヘンと嘘を吹き込む仄香。ペシッと叩いておく。
「連絡先交換したときにプロフィールに載ってたからね。別に変な事はしてないよ」
「じゃ、じゃあ提案は百合ちゃんが……?」
「そうだぜいっ! しかもスペシャルなアイテムもご用意しとりますっ!」
「そうハードルをあげないでよ」
仄香に不満を漏らしつつも、ロッカーに隠してあった袋をガサゴソと取り出し、咲姫に渡す。プレゼント用に封もラッピングが施されていて、まだ中身は見えていない。
「だ、出していい?」
「いいよ。かなり迷ったけど、みんなで選んだんだ」
僕が言うと咲姫はスルスルとリボンをほどき、可愛らしいテープをはがしていく。
閉ざされていた袋の口が大きく開かれた先……覗くのはただの白い生地のようにも見えるが……?
「わ、わぁ~!」
咲姫が掲げて見せる。取り出されたのは白くてフワフワな犬のキャラクター。目が青くて耳は羽のようにも見え、まるで天使のような愛らしさ。子供の頃から居るファンシーなキャラクターだから、飽きていないか心配ではあったけど、顔色を伺うまでもなく嬉しそうだ。
「これっ、くれるのぉ~っ!? 懐かしぃ~! わたしこの子好きだったんだぁ~っ。もう、ふっかふかぁ~。大切にするねっ!」
「そう? 良かった。なんとなく咲姫が好きそうだなーって思ったんだよね」
「当たりよぉもう、大当たりっ!」
「おういえっ! 流石だぜゆりはす! 誕生日会提案もプレゼント見つけたのも、ゆりはすだもんなぁっ!」
「たまたまだよ。たまたま」
とは言いつつ、喜ぶ咲姫の様子を見て安心する僕。仄香はそれに背中をバシバシ叩いて煽ってくるけれども。
「このサプライズパーティーがやりたくて、部室がすぐに欲しかったんだよねぇ。すぐに先生に掛け合って、部員集めを急いでたのはこの為だったんだよ」
「そ、そうだったのぉ……! そんな……あの時から……っ!」
そう。咲姫の為にやらなきゃいけない事、というのは大げさだけど、あの時には咲姫の気持ちを無視して蘭子の元へ行ったり、一人で帰らせたり寂しく思わせてしまったからね……とは言わない。察しの良い彼女なら、僕の気持ちが届いてくれただろう。色々思い巡らせて感極まったのか、咲姫は嬉しさを押さえきれないように顔をとろけさせ……。
「もう……ありがとうっ! 百合ちゃん!」
「わわっと!」
よろける僕。なんと嬉しいことか、みんなの前で抱き付いてほっぺたにちゅーをくれたのである。最近つれなかった咲姫がだよ? 女子同士なら大丈夫かなーと、僕からも「へへへー」と調子づいてギューッと抱き締め返す。
「……おおうっ! ゆりはす王子とさきちゃそ姫、ご結婚かなッ!」
「……おめでとうございますっ」
「あははっ。そんなんじゃないよ」
仄香のハイテンションに譲羽もノリノリで、先ほどのクラッカーの中身を再度投げてくれる。多分女子校のノリだと思って良いんだろうけど、公認百合カップルで照れながらも内心グッと喜んでいた。
そう。特に最近の帰り際ちは、ずっと咲姫がつれなくて寂しかったんだ。こういう友情でも愛情でも、分かりやすく表現してくれるというのは嬉しいもの。好意を巻き返せたかな?
一方、ウッキウキな咲姫ちゃんとは対照的に、蘭子の顔がちょっぴり浮かないようにも見えた。




