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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第60話「ぬいぐるみは似合わない」

 仄香とゆずりが降りたこの駅でグッと車内の人が減り、大きく座席が空いたところを指差して蘭子と二人座る。さて。僕が降りる駅まではそんなに時間がない。すぐに本題に入ろう。



「蘭子?」



「なんだ?」



 僕が視線を合わせ呼び掛けると疑問顔の彼女。



「今日、蘭子の誕生日だったんでしょ」



「……なんで知ってるんだ?」



 一瞬、眉を上げてハッと驚くも、すぐに冷静を取り繕い訊ねてくる彼女。そりゃあそいだろう。まさか祝われるだなんて思ってなかったのだから。



「咲姫の件もそうだけど、蘭子だって連絡先交換したじゃん? そのプロフィールだよ。おんなじさ」



「ああ……。私としたことが、細かく設定したのが仇となってしまったか……」



「別に"あだ"じゃないでしょ。こうやって僕は知れたんだから」



「いや、私の個人情報が漏れてしまう……」



 変なところ気にするなぁ……。だけど、大人ぶってる彼女も、そういう気にしたがりなお年頃なのなのかもしれない。



「でも、僕は知れて良かったと思うよ?」



「……何故だ? 君が得する情報でも無いだろう。大人な私がこんな歳になって、お誕生日パーティーというのも恥ずかしいし」



「ちょっと待ってね」



 蘭子の問いには答えず、僕は背中のリュックを前に向け、チャックを開けて中から袋を取り出す。



「な、なんだそれは……?」



 袋から顔を出し、包まれていたその姿があらわになる。ふわふわとした茶色いクッションみたいな……。



「ぬいぐるみ……買ったのか……」



「そうだよ。かわいいでしょ」



 動物のカピバラをモチーフにしたキャラクターのぬいぐるみ。彼女の手元に押し付ける。



「これは蘭子へのプレゼントっ」



「えっ……」



 目を見開き戸惑いつつも、押し返すわけにもいかないと思ったのか、おずおずと、でも素直に受け取る彼女。



「そんなっ、咲姫の祝いだけで充分だったろうに……。みんなで買ったのか?」



「いーや? みんなで祝うのは照れくさいみたいだったから、僕一人だけだよ。子供っぽいって言ってたしねぇ」



「あ、ああ……。でも、私には似合わないぞ……」



 ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめつつもそっぽを向く。うーん、クールビューティーな美少女にキュートなぬいぐるみ……これまたなんとも可愛い。



「素直になりなよぉ~。欲しかったんでしょ?」



「ど、どうしてそう思うんだ?」



 大人の仮面がバラバラとはがれ落ちるようにうろたえる彼女。ああやばい、ニヤける……可愛すぎる……っ。



「だって、このぬいぐるみの前でだけ見てる時間長かったもん。それに、遠くからたびたび見てたじゃん。わかりやすいよー」



 つんとほっぺたをついてやる。すると恥ずかしがりながらムスッとした表情になって。とてつもなく可愛い。



「私は、大人……だからな。こういう可愛いぬいぐるみは似合わないんだ」



「僕は似合うと思うなぁ。蘭子かわいいもん」



「なっ……」



 そしてさらに紅潮。怒りのような複雑な表情を向けられるも、そんな反応もまた可愛くて、ついついイジっちゃうんだなぁ。



「まあまあそんな怒らないで。ちょっとサイズは小さいけど、蘭子に持ってて欲しいんだ。このシリーズは僕のお気に入りで、それに……僕とおそろいだからね」



「お、お揃い……?」



「そうだよ? 僕だって似合わないかもしれないけど、いっつも抱いて寝てるんだ。蘭子もそれを僕だと思って抱きまくらにすると良いよ」



「な、何を言ってるんだ……っ?」



「ふふっ。みんなには内緒だからね?」



 調子良く「二人の秘密っ」と口に人差し指を当てる。そんな風にさらっと冗談を交えてみたが、効果はバツグンのようで、赤面し顔を背ける彼女。果たしてそれは慣れない友人関係に対する戸惑いか、それとも……。



「今日は無理言ったのに来てくれてありがとね。今日はこのあと、家族と食事に行くんでしょ?」



「まあ……。でもみんなとの用事が早めに切りあがったのだから、問題ないさ」



「そう? それならいいけど。蘭子のお陰で楽しかったよ」



「それは仄香が居たからだろう」



「うーうん? 話が面白いとかじゃなくて、蘭子と一緒にいるだけで楽しくなっちゃうからさ」



 にっこりと歯を見せ屈託のない笑顔を向けてみる。楽しいのは本当なのだから、こういうのはお手のもの。



「私なんか……つまらないだろう……。冗談はやめろ……」



 一つ遅れての返事。しかし、その顔色は長い髪の毛に隠されて伺えなかった。



「えへへっ。蘭子と一緒に帰れて楽しかったなぁ。それじゃあねー」



 ちょうど開かれたドアをくぐりながら後ろ向きにバイバイと手を振る。僕が前に向き直る直前、寂しそうに小さく手を振る彼女の姿が、しばらく瞼の裏に焼き付いて離れなかった。

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