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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第54話「ベンチ休憩」

「まさかユズが三件目もまわるなんて……思わなかったよ……」



「当たり前だぁっ! 乙女の買い物を~ナメるなー!」



「なんで仄香が怒るのさ……。乙女というか全部本だし……」



「本ダシ本ダシ!」



「鰹、ダシ……」



「昆布ダシからの~!」



「黄金ダシっ……じゃなくてねっ!?」



 疲れてるのに変なテンションにノらされてしまった。



 まあでも、乙女達がいっぱい出てくる本だから乙女の買い物で間違いではない? 二次元百合乙女のために買い回ったとも言えるし。



「こりゃあ後、二軒くらいは周りたいなー。ゆーちゃんには汗だくになるまで働いてもらわないと」



「流石にキツくなってきたんだけど? これ以上は持てないよ。手が痛いし」



「どーれどれぇー?」



 仄香は僕の手から紙袋二つを取り上げて自分の腕にかけると、僕の手をムニムニするように開き出す。ちょっと汗で湿っているので恥ずかしい……。



「大丈夫っ! 舐め回したい位に綺麗な手だぜぃっ!」



「そうじゃないでしょっ!?」



「ゆりはすの黄金ダシがきいた汗だぜぃっ!?」



「汚いからやめなさいっ!」



 なんて、冗談をかまして、彼女は紙袋を僕の手に戻す……。ああ、持ってくれないのね……。



 だらしなく猫背な僕。ニヤニヤと笑みが抑えられない譲羽と、ワクワクとステップを抑えられない仄香の後ろをのろのろと付いて行く。仄香は思い出したように僕の腕の中を覗き込み、はえーと息をもらす。



「いやー。古くても良いのたくさんあるんだねー。百合って最近流行ったモノだと思ってたからビックリだよー!」



「昔だからこその良さもある……帰ったら一緒に……読ム……ッ」



「おけおっけー! 楽しみだぜ!」



 仄香は右手と左足を上げ、テンションの高さを身体で表す。しかし、そんな楽しそうな横で僕は頑張って微笑みキープに勤しむだけであった。



 それに気付いたのか、申し訳無さそうに眉尻を下げる譲羽。



「新品じゃあ見つからない商品……たくさん買えた……。ありが、トウ……っ」



「ああ、うん」



 せっかくのお礼だというのに、僕は顔に苦しさを出さないのが精一杯で、ろくな返しすら出来なかった。まだまだ女の子をリードするには甘いなと反省点である。本格的に筋トレでもしようかなぁ。筋肉女子って、かっこいいだろうし。



 そんな僕の手元には三十冊超えの本の山。これでも厳選した方だと言うのだから怖いものだ。



「ゆーちゃんまじ大丈夫? 辛そうにしか見えないんだけど」



「……まあ平気平気。二人とも細腕なんだから、こんなに持たせてられないよっ」



 この二人に頼るのは諦めて、実にやせ我慢である。実は痩せたい願望もあったり……? 女の子にモテる女というのは一体どう行動すればいいのか予想つかないけれど、こういうときは尽くすに限るのかなと思う。



 そんな僕から目を離し、仄香は道路の先を指差す。



「あー。あたしのど乾いたしぃー? そこでベンチ休憩しよーよ」



「そうだね」



「うん、ちょうど空いたトコロ……」



 僕らは提案する仄香に賛同。この子は空気が読めないようで気が利いたりするから、わりとあなどれなかったり。学ばせてもらおう。



 立ち去ったカップルの後に三人が収まる――と、思いきや、二人はカバンを置いて僕の両隣に場所をキープするだけ。僕の前に並び立つ。



「頑張るゆーちゃんへのご褒美に、何かおごったるよー」



「ジュース買って……アゲル」



 ピシィッと財布を構える彼女ら。息ぴったりノリッノリである。



「ほんと? 助かるなぁ」



「そうだぜ? あたしたちのありふれた……優しさ? いぇあっ!」



「ありふれちゃあ駄目でしょ……」



「違う! あり余る……でもないし……!」



「溢れんばかりだよ……」



「そうそれっ! 溢れるばかりの優しさ! 細かい事は気にしないっ!」



「一文字違いでニュアンス変わっちゃうよっ!?」



 飲む前から喉が涸れてしまいそうだった。いや、それは丁度いいのか。



「うーん、さっぱりしたものを飲みたいかなぁ」



「えっ? おしるこ?」



「いや熱いから。どろっどろだから」



「うへっへー」



 今度は定番のボケであった。



「まーまー、冗談はさておきっ! 何系がいい!?」



「えーっと」



 振り向いて後ろにある自動販売機を見ようとするが……。



「だめー。選んだら面白くないじゃんかー」



「見たら……メッ」



 二人に目隠しされてしまった。しかも片方ずつ。ここも息ぴったりで可愛い。



「じゃあ甘い水系で」



「おーけーおーけー」



 これならハズレは無いだろうと考え伝えてみれば、間もなくスタタッと二人は駆けていく。



 その先、わざわざひそひそ話で相談してるようで、僕にはその会話の内容が聞こえてこない。なんで君らはそんなに可愛いの? 萌え殺しなの?



 そして三度、電子マネーの支払い音とボトルの落ちてきた音がしたかと思えば、再び駆けて戻ってくる二人。



「さあ! ミカン! モモ! ハスカップ! どれがいい!」



 右に仄香、左に譲羽。二人で三本持って訊ねてくる。ちなみに三本目は彼女らが手を握り合うように片手ずつで持っていて、やはり萌えポイントでしかなかった。



「ああ、選ばせてくれるの?」



 つまり二人も水系になるけど良かったのだろうか。



「さぁ、金の水と銀の水、選ぶのじゃー」



「どれもそんなに変わらないんじゃ……」



 君は泉の精なの……? 選ぶにしてはそこまで差がないのでちょっと迷ってしまう。



「それじゃあ」



 僕は譲羽が右手に持つ方を指差し、ハスカップ水を手にする。



「よぉっし! ミカンはあたし、ハスカップはゆずりんが飲みたかったやつだから、ゆずりんの負けー」



 ミカン水を高々とかかげ「やったぜ!」と仄香。



「僕が何を選ぶか――って話してたんだね」



「何も罰ゲームとか無いけどねー」



 そこで、腕をクロスさせて両手の平で顔を包み込むような魔術師のようなポーズを取るゆずりん。



「ふっ……。アタシは勝負には負けた……けど、試合には……。んん、アレレッ……?」



「"試合には負けたけど勝負には勝った"ってやつ?」



「そ、そう。それ。アタシは百合葉ちゃんと好みがいっしょ。だから勝った」



「な、なんだとぉ……っ」



 その勝利宣言は、仄香を愕然がくぜんとさせたのであった。



 ベンチに収まる三人。僕らはボトルの蓋を開けて一口。横で目を見合わせながら動作を揃えてプハァッとする。



「いやぁー良い酒ですなぁー」



「お酒じゃないよ?」



「百合収集の後の一杯……タマラナイ……」



「だからお酒じゃないよ?」



 この子たち、将来大酒飲みになりそうで怖いところ。でも、ゆずりんはアルコールの匂いだけで酔っちゃうタイプだよね? 想像できるよ?



「ともかく。悪いね、おごってもらって。二人で出したの?」



「そうそうそれよっ! その話!」



「んっ?」



 僕が切り出すと、思い出したように仄香。



「仄香ちゃんの自販機事件……始まり始まり……」



「何か始まったよ……」



 たかだか一分前後の時間で事件にまで発展したの? ユズの語り口にも苦笑いしてしまう。



「ちょっとふざけてさー。二人のカード並べて同時にかざしたらどうなんのかなーって。そしたら、ゆずりんのばっか反応したみたいで? あたしは全然お金出して無いんだよー。ぐぬぬ……」



 ジュース買うくらいでどれだけ遊び心満載なんだ……。楽しい娘である。



「なんか壊れちゃったっぽい? 手裏剣にして遊んでたのがマズかったかぁ……。だって、千円もチャージ入って無かったはずだし、どーせ学生証のを普段使おうと思ってたんだもん」



「そら駄目だよ……」



 電子マネーをなんだと思ってるんだ……。同じICチップ入りでも、学生証とか定期カードではやらないと信じたいけど。やらないよね?



「帰りは大丈夫?」



「電車のやつ持ってるしヨユーだよー!」



「最初からそっちを使えば良かったんじゃない……?」



 僕は当然ながら指摘。すると、目を大きく見開いて彼女は、



「へっ? あっ! しまったぁーッ!」



 両手で頭を抱え叫ぶ。ちょっと、声のボリューム下げて欲しいもの。周りの通行人に見られてしまっている。



「お馬鹿さんだなぁ」



「おばかじゃないやいっ! そんなこと言うゆーちゃんに、あ~げな~いぞー?」



 言って彼女は僕からペットボトルを奪い遠ざける。笑いつつ呆れる僕。



「ユズの支払いなんだから、ユズが許可するものでしょ?」



「はっ……! そうだった!」



 と、仄香は譲羽の方を見る。ぬるーっと動き、息をのむ仄香の手から二本のボトルを取り上げる彼女。



「おばかさんな仄香ちゃんにはあげません……メッ」



「調子に乗って申し訳ありませんでしたゆずりんさま……」



※ ※ ※



 各々が自分のペースで果物水を飲んでひと休み。疲れのせいか僕だけ一人、一気に飲んでしまっていた。



「ごちそうさまユズ。おいしかったよ、おごってもらってありがとね」



「いいの。たくさん本持ってもらってるし……、百合葉ちゃんが居なかったらこんなに本買えなかったし……」



 ユズはそこで俯き、一度口を閉じる。



「それに、お礼はまだ……アル」



 彼女は言うと、僕の頬へ顔を近づけ……。



「ありがとう、百合葉ちゃん」



 小鳥が呟いたような音がした。本当は何が起きたかすぐに理解できた筈なのに、思考がすべて停止。情けなくも僕はそのとき、何も言うことが出来なかった。ただ、頬に触れた柔らかい感触だけが五感のすべてを支配していたかのようで。



「ごめん。嘘だった。お礼でもなんでもない。実はしたかっただけ。アタシは……嘘つきだ」



 ニヘラァと笑う彼女の顔。それを見て、愛おしさのような温かさを感じたとき、ようやく口が動き出した。



「あ、ああ。ふふふっ、ユズにキスしてもらっちゃったー。嬉しいなーっ」



「んんーッ!? ゆーちゃんばっかずるぅいっ! あたしにもちゅーしてよぉー!」



「仄香ちゃんは何もしてない、デショ」



「ぐぬぬ……。これはもう嫉妬だよぉ! しぃーっと!」



「わ……っ! 八つ当たりにセクハラすんな! 胸揉むなっ!」

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