第41話「褒めポイント」
「咲姫おはよう」
「おはよ~百合ちゃん~」
とある朝。教室に入って、まず目に飛び込んだ咲姫に挨拶した。だって美しいから。一番最初に目に入るのは彼女さ……。
というワケではなく。早めの登校で僕の席の手前にいるのは彼女なので、当然の結果である。美しさも当然なのである。そう、教室という舞台装置は教室奥の姫様を輝かせるためのモノ!
「あっ、咲姫前髪切った? かわいいねー」
「そうなのぉ~。ちょっと気になるかな~って整えてぇ~」
「そうなんだ。表情明るくなった気がするー。元々、僕には眩しいくらい咲姫は輝いてるけどねっ」
「なぁ~にクサい事言ってるのよぉ~百合ちゃんは~」
と言い、照れたように手でパシパシ叩いてくる咲姫ちゃん。彼女もこういうお決まりのネタとは言え大好きなようで、つまり相思相愛なのである。
しかし、見逃しそうな違和感だった……。モテモテハーレムを目指してる割に鈍感だから、こういう変化はガンガン気付いていかないといけない……。いや気付けるか? 1センチも切って無くない? これに気付くとか無理すぎない?
しかし、咲姫がかわいい事には変わりがないので全く嘘は言ってないのであった。
「百合葉、私の変化にも気が付くか?」
そこに、後から登校してきた蘭子が、ぐいと割って入るように僕の前に現れる。あっ、咲姫ちゃん無言だけどめっちゃ目が冷たくなった……。かわいいよこわいよ……。
「えっ? なんだか今日はかわいいね」
「う……おお。そうか、百合葉には私が……可愛くなったように見えるのか」
「うん。なんならいつだって可愛く見えるよ」
非常にとても可愛い。ならばいつも可愛い。しかし今回は自分から変化を訊いてきちゃうくらいなのだ。可愛くないわけがッ……ないッ!
でも、どこが変わったのかは分からないなぁ。いつも可愛すぎてなぁ。100点オーバーな可愛さというのは、もう110だろうが120だろうが、もう満点。神の域。可愛いでしかないのだ。オーバースペック可愛いザオンリー。語彙力が死ぬ。
しかし、語彙力が死ぬなんてありふれた言葉で誤魔化すワケにはいかない。なんとか褒めポイントを探っていかないと。
「なんだか良い感じになったよね」
「そうだぞ? それを具体的に言って見ろ」
「具体的かぁ~」
厄介な理系である。同じ理系女としてシンパシー的なモノは感じるけど、こういう曖昧な感情表現だけで突き通せない点は大変だなって思う。
「じゃあ美人になった」
「じゃあってなんだじゃあって。気付いてないな?」
「そりゃあ気付かないよ。蘭子はいつだって魅力的で心をかき乱されるからね。冷静に見てられないさ」
「くっ……すぐそうやってキザを言って誤魔化す……」
「君に言われたくないなぁ」
キザの権化たる蘭子に思いっ切り返ってくるよ? 特大ブーメラン。そしてブーメランすらも星のエフェクトを出しながらキラキラ舞ってるに違いない。
「正解は、百合葉への愛が一層深まったという点さ……」
「な、なんだよそれー。分かんないよー」
「ふんっ。分からないという事は、百合葉の私への愛よりも、私の愛の方が勝っているという事だな。百合葉も励むが良い」
「蘭子の勝ちでいいよそれは」
「あ、励むというのは、夜の一人での慰み妄想だぞ?」
「知るかバカっ!」
「おっ? 照れたか? なんだなんだ?」
「うぐぐっ……」
思わぬ所で下ネタに走られて、赤面してしまうのであった。俯くも、煽るように覗き込まれて余計に恥ずかしい……。
そこに、コホンと可愛い咳払いの姫様。咳払いは可愛いけど、このパターンだと怖い展開が見える……。
「トリートメントでも変えたんでしょ? 艶がちょっと違うもの」
「えっ? ああ、言われて見れば、落ち着いた艶めきになった気がする……」
「百合ちゃんに分かってもらえなくて、つい愛が~とか誤魔化しちゃったのよねぇ~? 哀れな女ねぇ~」
「なんだ? 見た目に現れるようなモノばかり気にする女には言われたくないが。女は中身だぞ? 愛の深さだ」
「外見の変化も気付かれない女じゃ、中身も滲み出てないって事でしょ~? もしかして中身空っぽなんじゃないかしらぁ~。薄っぺらな愛ねぇ~」
「違うな。美しさとは絶対のモノ。だから、絶対的美しさの前では、些細な変化も見落としてしまったという事だ。百合葉もそう言っていただろう」
「そ、そうだね」
ただの誤魔化しキザゼリフだったのに、心の中まで見透かされたようでちょっと恥ずかしかった。そうだよ。百点は百点なんだよ。わかんないよ。
とりあえず、喧嘩はやめて?
ご無沙汰ばかりでご無沙汰です。
今年中に小説の展開を新しく進めるぞって思ってたのにもう師走。もう年末。早すぎません?
12月は忙しいので、12月に頑張る予定は入れてはいけないと思いました。




