第36話「4股女」
「百合葉ちゃんってすごいよねぇー。今度ギター教えてー」
「歌も上手かったー。カラオケも行こー?」
「あはは。ありがとう。僕もまだまだだけど、教えられる所があったら教えるよ」
「やったー」
「百合ちゃんおはよぉう」
「あっ、咲姫。おはよう」
僕が他クラスの女子と戯れていたら、後ろから咲姫が現れた。今日は僕が早く登校したと思っていたけれど、もう咲姫も登校したか……。いつもより早いな。
「じゃ、また今度ね。バイバイ」
咲姫が優しいまなざしで、しかし、威圧するように彼女らを見るので、僕は先手を打って別れる事に。いやいや、浮気はしてないよ?
不自然にならないように、廊下の静かな所に移動する。咲姫も、これ当然のように着いてくる。
「この浮気女。4股女」
「浮気はしてないなぁ。ただ、他の生徒と友好を深めようとしてただけさ」
「遊びの約束しようとしてたじゃないのぉ。アナタは下手に顔と声が良いモノだから、油断ならないわ?」
「ありがとう。褒め言葉と受け取っておくよ。少なくとも、咲姫には良いと思ってもらってるわけだし。いたっ」
ふくらはぎを蹴られてしまった。向こうずねじゃないだけ、まだマシである。
「そもそも、4股自体がおかしいのよねぇ。そろそろ何か考えようかしら」
「そんな。みんなと一緒に居るのは楽しいし、別れたりするのはやだよ」
「そう言っておきながら体の関係持ってるのがおかしいのよ。罪よ」
「僕に罪はない。君たちが可愛すぎるのが罪だ。いてっ」
「なんですって?」
「あ、やめて? つつくのやめて? わき腹のついでにおっぱいもつつくのやめて?」
なんでこう自然とセクハラしてくるんだか。もしやおっぱいがコンプレックス? と思って咲姫の胸元を見たら、余計につつかれた。図星みたい。
「ほらほら。そんな怒らないで」
「んん……」
と、彼女の顎を取り当たり前のようにキスをした。少しだけ舌を入れるやつ。人通りはほとんどない廊下の隅とは言え、ちょっとドキドキする。
唇を離し、彼女の可愛らしい頬を撫でる。こんな一瞬で表情を変えられるなんて、最初からそんなに怒ってないのかもしれない。
「ねっ? 咲姫は今の顔の方がもっと素敵だ」
「もう。とりあえずキスで誤魔化せばいいと思ってるんでしょ」
「いやいや。咲姫のとろけそうな顔を見たくなっただけさ」
「ふんっ。ちょろい女ね。私も」
「僕にだけちょろいんだから、それは愛って言うんだよきっと」
「4股女が愛を語らないっ!」
「いてっ」
嫉妬する咲姫ちゃんを書きたかっただけです。
可愛すぎる君たちが罪だっていう百合葉ちゃんを書きたかっただけです。
イケメン百合葉ちゃんを吸いたいのですが、私の技術不足でただ咲姫ちゃんがちょろい女に……。ごめんよ二人とも……。




