第33話「脚広げ座り」
とある日の電車の中。僕は蘭子と立ちながら、座れない座席の前に立っていた。
やがて次の駅へ。その時、僕はの前の端っこの席がちょうと空き、ちょうど二人が座れるように。
「百合葉、立ちっぱなしで疲れただろう。椅子に座ろうか」
「ありがとう。短い距離でも、やっぱり座りたくなるよね」
と感謝しつつ座ろうとしたら、まさかの彼女が先に座り……。んっ?
私服で彼女はデニムだからとは言え、女が大きく脚を広げるとは何ごとだ。彼女は脚も長いから、二人席が一人だけの席になってしまった。実にギルティである。
僕の理論として、オッサンを中心としてこういう行動に出てしまう人は、単純に疲れているから。脚を閉じておく筋力が衰えてるから。女に比べて腰幅が狭く脚を広げないと安定しないから。あとは子どもの時にちゃんと躾されてないからとか。そう考えているけど、どんな理由であれ、一人で二人分の席を独占するのはよくない。
そんな事に気が利かない彼女ではないだろう。何を考えているんだと見ていれば、彼女は僕を見たまま、膝をポンポンと叩く。無言のままである。なんとなく分かった気がするけど、僕は呆れて普通にツッコむ。
「蘭子……。そんなオッサンみたいに脚を広げて座るものじゃないよ……? 女子として恥ずかしいでしょ」
「違うぞ? 君が座る場所は私のひざの間だ」
「アホかっ!」
案の定だった。公共の場だと言うのになんてアホなんだ。
「私が優しく包み込んであげると言ってるのに、アホとはなんだアホとは。もうしてあげないぞ?」
「普段からしてるみたいに言うな……っ。してもらってないし、恥ずかしいなぁ」
いくら声を絞ってるとは言え電車の中。僕らの声が周りに聞こえていないだろうかと心配になる。
「二人分空いたからと言っても、二人で座ったら少し狭いだろう。これは少しでも百合葉に余裕を持たせてあげる為の私なりの気遣いなんだが」
「どんな気遣いだっ!」
そりゃあ横じゃなくて縦に座れば横のスペースに余裕があるから、周りに気を遣わなくていいけどさぁ!
と、そこで僕は思い付いた。
「じゃあ蘭子。とりあえず脚を閉じて、端にズレてよ」
「んっ? こうか? これじゃあ百合葉が座りにくいだろう」
それで僕は両手で吊革を持ったまま、蘭子の顔に顔を近付ける。
「僕より目線が下になったね。こういう角度で蘭子と喋るのも良いなぁ」
「くっ……。一本取られた……」
「これ一本扱いなの?」
何が一本なのか分からないけど、とりあえず本日の勝敗は僕の勝ちとなったみたいだった。
電車の中で思い付いたネタです。
色々な理由はあるでしょうが、出来るだけ脚を広げて座る人が減って欲しいですね。
 




