第47話「体力測定」
美少女たちに着替えを見られないように神経質になりながらジャージ姿になり終えて。チャイム前になんとか駆け込むことができ、そうして間もなく始まった体育の授業。
前回の授業の続きである体力測定が行われることになっていた。校庭での短距離走、長距離走は終わっていて、室内向けの測定がメインとなる。
「あぁ~ん。蘭ちゃんと組みたかったぁ~」
「僕も……蘭子と組みたかったなぁ」
「あたしも! 蘭たんのおっぱいに触りたかった!」
「蘭子ちゃんの素早い動き……この目で見たカッタ……」
「一人セクハラ娘が混じっているな……」
僕の美少女たちは蘭子に完全に気を許したようで、もうモテモテである。なぜかと理由を考えるなら、彼女の運動能力がずば抜けてカッコいいからであった。そりゃあ嫉妬とか無ければ組みたくもなる。その美しさを見るだけで、こっちのやる気も数値も上がりそうなんだもん。
「譲羽も仄香も咲姫も小さいから論外だが……」
「んん~っ!? 誰が小さいってーっ!? 寄せて上げれば多少はあるしっ!」
「わ、わたしもそんなに小さくないわよぅ!」
「……身長は足りない……ケド」
「誰も胸の話なんかしていないぞ? 自意識過剰なんじゃないか?」
「まあまあ……」
蘭子の言うとおり、ここで小さいというのは体格の話であった。しかし、蘭子がジャージの上からでも分かるほどにグラマラスでしかも運動も出来るというのだから、気にせざるを得ないのだろう。僕もこのくらい美しく生まれたかったものだ。自意識過剰になってしまうのも頷ける。
「百合葉も駄目なのは少し寂しいな。十センチ差あるかどうかだろう?」
「まあ、仕方ないよね。測定自体は問題ないけど、準備運動で体格差があれば大変なことになっちゃうからね……。前回とペアは変えないようにって言われたし」
そう。クラスでトップクラスに背の大きい蘭子だけれど、前回の授業で先生と組むことになってしまったのだ。測定の二人一組だなんて恐ろしい決まり事だけれど、こればかりは測定の記録係が必要だから、二人組のペアが効率的によいのだ。仕方のない事である。
※ ※ ※
「すごいすごい! 百合ちゃんはやぁ~い!」
「19……20……」
あんまり汗はかかないものの、僕は腹筋の速さには自信があったりした。ただし、見た目が高速なだけであって、お腹に負担が掛かっているかどうかは疑問だ。だって全く痛くないんだもん。こんなのでウエストを絞れるとは思えない。現に、食べ過ぎた後にこのように腹筋を鍛えたところで、全然体重が落ちないのだ。散歩の方がよっぽど効果があると思う。
「はいっ。上体起こし、やめーっ」
高速腹筋に脳が散々にシェイクされて気分が悪くなった頃、測定終了のアラームが鳴り響き、先生の声が掛かる。咲姫は僕より前に終わらせていたので、腹筋こと上体起こしの測定は終わりだ。ここで、みんな一呼吸をおきだすのだが
「34……百合ちゃん34回! 満点評価じゃない! すごいわよぉ~!」
「へへっ、ありがとう。少しでも長く咲姫の顔を見ようと頑張ったら良い結果が出せたよ」
「……んもうっ。百合ちゃんったらぁ……」
だなんて、咲姫が小突いてくる指がすんごい彼女っぽくて心地良い……。実に彼女。僕の心の中の彼女。こういうところで、少しでもイチャついて、蘭子との差を付けておきたい。
でも、本音ではあるけれどちょっぴりキザな嘘を付いてしまったなぁ。だって、上体を前後に起こすから視界が移動してしまうのに、可愛くて可憐な咲姫の顔をまじまじとなんて見ていたら酔ってしまう。二重の意味で。実際にまじまじと見て酔ったのだから間違いない。僕はずっと咲姫の顔を見ていたかったのに!
「くっ、29だ……。百合葉に負けてしまった」
だなんて可愛いマイプリンセス咲姫ちゃんにうっとりしていたら、隣から悔しそうな声が。運動が得意な蘭子ちゃんである。
「29ってそれでも満点じゃん! 蘭たんもすごっ! あたし12だから倍イジョーだっ!」
「アタシなんて十回だったのに……三倍近い……蘭子ちゃんもスゴイ……」
「二人は散々だったみたいだね……」
蘭子を慰めるように二人が自分の不甲斐なさをさらけ出す。仄香と譲羽は不得意なようで、評定を見ると1点しか得られない回数だ。僕と蘭子の10点満点からみたらすごい格差だけど、恥ずかしくは無いみたい。良いのか悪いのか……。
「満点は取れたが……負けは負けだ。次は絶対に負けない」
「あ、うん。次は僕が負けると思うよ」
「なんだと? 私に同情して手抜きしようと言うのか? そんなのは許さないぞ」
「いや、次は自信ないし……」
自分で大人っぽいとか言っておきながら、意外と負けず嫌いなんだなぁ。こうクールビューティーなのにそういう子供っぽいギャップを見つけると、なんだか途端に愛おしく感じてしまう。